「海外をちょっとのぞき見コラム」は海外現地の最新状況やホットなトピックスをお伝えするコラム記事です。第21回目は、カンボジアにお住まいの服部アドバイザーに現地事情をお聞きしました。
※なお、このレポートは2022年3月7日時点の情報であり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。
カンボジアは東南アジアのインドシナ半島の真ん中に位置して面積16万km2人口1600万人の小さい国です。今年2022年はカンボジアがASEAN議長国であり、1992年のカンボジア和平から30周年でもあり、さらに来年2023年は日本・カンボジア外交関係樹立70周年です。日本人にとってカンボジアと言えば、ポルポト虐殺という負のイメージがある一方で、世界遺産アンコールワットのある国として有名です。そしてカンボジアは過去の内戦や貧困を乗り越えて、過去年率7%の経済成長を続け今や中所得国まで駆け上がり、首都プノンペンは人口200万人を抱える大都市になり、日本のイオンモールも進出しています。他方、私がいるシアヌークビルには国内唯一の深水商業港があり、さらにここは美しい白砂の海岸があるビーチリゾートでもあります。国民の平均年齢は27歳と若く、生産年齢人口も全人口の62%を占めるというカンボジアは東南アジアのライジングスターです。
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国家は親中と言われるが国民はクメールスマイルで親日的!
自衛隊のPKO派遣で我が国が貢献した1992年のカンボジア和平。それに続く戦後復興の過程で長年日本は多額の経済援助をする1番のドナー国でした。しかし2017年以降は中国の急速な進出で追い抜かれ、カンボジア政府の中国寄り政策もあり今ではカンボジアは親中国と言われています。しかし、カンボジア国民は過去日本人が行ったPKO活動と戦後復興への協力を大変感謝しており、道路にはトヨタ車が溢れ、高い日本の技術と良質の日本製品を高く評価する親日的な国民感情を持っています。さらに敬虔な仏教徒が多くその性格は真面目で温厚で優しいクメールスマイルの持ち主で、助け合いの気持ちが強くシアヌークビルには恵まれない子供を支援するNGOもあります。戦後米国が英語の教科書で荒廃した教育を再興したことで、日本や他国と比べて日常生活やビジネス面では英語が準公用語としてよく通じます。
カンボジアでの新型コロナの発生とその経緯
2020年に入って中国で発生して世界に拡大したコロナ禍でしたが、カンボジアでは1月末にシアヌークビルで確認された中国人観光客の男性がカンボジア初の感染者第一号でした。続いて、感染者が船内にいる懸念があるとして、他国で入港を拒否され2週間近く洋上を彷徨っていたクルーズ船「ウエステルダム」がフンセン首相の英断で2月13日にシアヌークビル港に入港しました。
乗船していた1455人の乗客と802人のクルーが上陸して無事に空路で母国に帰国できました。 この美談は”A Small Country with a Big Heart” と賞賛されました。その後、国内感染拡大のきっかけを作ったのが、2月20日に発生した首都プノンペンでの中国人女性の隔離ホテル脱走事件。監視員に賄賂を渡して抜け出すという悪質な事件でした。これが原因で一気に国内感染が広がり、首都プノンペンと地方の主要都市、さらに我が街シアヌークビルも強制ロックダウンになり、4月8日からは首都に繋がる国道4号線も封鎖され通行禁止になり、更に市内を感染度4ゾーンに分けてのロックダウン封鎖措置が5月8日まで実行されました。
幸い我が家は郊外にあったので規制区域も第三ゾーン(黄色)で制限が緩く、市内のような感染者発生による建物封鎖もなく家から外に出ることは出来ました。しかし食料・必需品を買いにスーパーに行くのに市内には入れず、封鎖前に米・水・冷凍食品等買い溜めをして、また封鎖期間中は携帯アプリで注文してバイク便によるデリバリーサービスを利用できてこれは大変助かりました。
カンボジアは感染対策でワクチンミラクルと言われた国!
カンボジアでのこれまでの感染陽性者数は12万9920人で死亡者数は3032人(2月27日保健省発表)で、ワクチンは5歳以上の成人についてはほぼ接種を完了しています。
具体的数字としては2月27日現在で、1456万3512人への第1回接種を完了。これはカンボジアの人口の91.0%に相当。成人(18歳以上約1000万人)への接種状況は、第1回接種は100%達成して、98.9%は2回目を完了しています。また、世界に先駆けて3歳〜4歳児への接種を2月23日から開始して2万5606人への第1回接種を完了しています。
さらにブースター接種(3回目)も開始され2月27日現在698万1435人(うち成人559万2583人)が接種を完了し、このブースター接種は当初成人のみが対象でしたが、1月3日以降13歳〜18歳に対しても3回目接種を開始してこれまで102万7022人が接種完了。更に、6歳〜12歳についても 2月21日から3回目接種が開始され36万1830人が完了しています。また、オミクロン株対策の一環として4回目の接種も1月14日から開始し2月27日現在で93万9007人が接種済になっています。
このようにカンボジアは世界の中でワクチンミラクルと言われるほど、政府による積極的なワクチン手配と国民に対する強力な接種キャンペーンにより非常に高い接種率を達成できています。
2022年に入りオミクロン株の感染が広がってきましたが、フンセン首相はロックダウンを行わず国民に手洗い励行、マスク着用、ソーシャルディスタンス維持等の感染対策の励行を指示して、特別な理由のある者を除いて3回目ブースター接種の完全達成を指導しており、集団免疫の獲得を目指すと宣言しています。2月11日に施行されたプノンペン都の通達では、COVID-19ワクチンの第2回接種から4ヶ月が経過しているのに、正当な理由なく第3回目接種を受けてない人は、結婚式等の集会やレストランへの入場が禁止されることになり、我が街シアヌークビルでも今後同様の規制が開始される懸念がある為、私自身も昨年8月と10月にアストラゼネカワクチンを2回接種して既に4ケ月経過しているので、2月28日に3回目のファイザーワクチンを接種しそのワクチン接種記録カードを持っています。これでホテルやスーパーマーケット等の公共施設に入る際に提示を求めれても問題なく対応できます。
カンボジアでこのようにワクチン接種キャンペーンや都市部のロックダウンが問題なく実行できたのは、カンボジアが日本のような先進民主国家とは違い、欧米からはフンセン首相による権威主義的国家と批判されていますが、コロナ危機に際して政府の強力なトップダウン政策がうまく功を奏したものと私は考えています。
コロナ禍にも負けずに成長するカンボジア経済!
カンボジアは過去2年のコロナ禍の影響を受けたものの、投資や貿易面では欧米日本が経済的に落ち込む一方、中国の経済力のお陰で大きな打撃は受けずに、2021年のシアヌークビル港の業績は総貨物取扱重量で699万トン(対前年比+6%)、コンテナー取扱量73万TEU(同+14%)と増収となり、さらに今年はコロナ禍が収束に向かい欧米日本との貿易も復調してくると予想されます。
かかる環境下、日本とのビジネスの可能性は高い技術力のある日本製品のカンボジア市場への輸出販売やカンボジアでの日本企業の拠点設立等がコロナ後のビジネスとして大いに期待されます。
コロナ禍による変化ですが、ビジネスの実務面でIT技術を利用したZoom等オンライン会議が広く利用されるようになり、現地出張してビジネス相手との対面が必ずしも必要でなくなり、今後はこのオンラインと現地出張しての直接面談という二つの方法をうまく使い分けることでビジネス上のコスト削減もでき、この効率的なビジネス交渉の方法は私も含めてビジネスパーソンがコロナ禍で身に着けた新たなツールであると考えます。
アフターコロナはシアヌークビルが東南アジアの最高のリゾート観光地になる!
私が2009年から13年間住んでいるシアヌークビルは美しい海岸と沖の島々からなるカンボジア随一のビーチ&アイランドリゾートです。海水浴、浜辺でのバーベキュー、ダイビングやフィッシングのマリンスポーツ等大自然の中でのレジャーライフが楽しめます。近年は中国投資による中国化が進行して市内には多くの中国人が在住しており、他方、在留邦人はわずか20名ほどで日本料理店(日本人経営)は2件あります。シアヌークビル港は1999年より日本政府ODAで開発支援されジャパンポートと呼ばれ、隣接する経済特区も2012年に完成して日本からの製造工場が立地して、さらに今年1月にはイオンが首都でのモール事業に加え新たにシアヌークビル港経済特区内でロジスティック物流事業を開始することを発表しました。
2017年から洪水のように押し寄せた中国資本により州内には数多くの中国工場が進出し観光開発も行われ、シアヌークビルに住む外国人の9割は中国人、投資事業の9割が中国からの投資と言われ、街は中国のマカオのようなカジノシティーになっています。しかしながら、シアヌークビルは新しいリゾートホテルとコンドミニアムの開発、そして政府による道路インフラ(首都プノンペンとの高速道路も2023年に完成予定)の改修により、この街は素晴らしいリゾートシティーに変貌して来ており、今年1月にはASEAN観光フォーラムが当地で開催され、今後コロナ禍が終息すれば東南アジア随一のビーチリゾート地になることは間違いないでしょう。
カンボジアのチャイナシティーと言われるシアヌークビルですが、日の丸掲げた港と同様に日系のカジノホテルが1軒あり、さらに州内の森林高原地区にカンボジア初の日本文化を発信し日本式おもてなしを提供するジャパニーズ・リゾートホテルの誘致計画もあり、現在の多くの中華系資本に対抗して日本の特徴を出した良質な日系観光投資が実現することが期待されています。
カンボジアはアフターコロナに向かって農林水産・工業・商業そして観光分野において日本の技術力を持った中小企業が積極的に進出して来て日本との新たなビジネスがスタートすることが大いに期待される国です。
筆者紹介
服部 寛 中小機構 中小企業アドバイザー
大手商社に27年間勤務して2006年に早期退職してカンボジアに渡る。2009年からはシアヌークビルでJODC/JICA専門家として日本政府ODAで開発する経済特区の販売運営指導業務に従事して、その後はSEZアドバイザー&カンボジア進出ビジネスコンサルタントとして活動、現在はシアヌークビル港公社総裁の私設顧問として仕事しながら、日本企業のカンボジアとの貿易・投資・観光分野でのコンサルティング業務を行っている。シアヌークビルではただ一人の最古参日本人ビジネスマン。週末は海に出て釣りを楽しみ、美しい海岸に行き波の音を聞きながら夕陽を見てストレス解消。また港で保護した野良犬を引き取り我が家で生まれた仔犬達の面倒もみている愛犬家であり、地元の野良犬保護・孤児支援NGO活動にも関心をもっている。
中小機構とは2013年よりアドバイザーをしておりこれまで多くの様々な日本企業の相談に対応してきており、どのようなご質問やご相談にも喜んで対応しますので是非ご連絡頂ければと思います。
中小機構について
中小機構の「海外展開ハンズオン支援」では、国内外あわせて300名以上のアドバイザー体制で、海外ビジネスに関するご相談を受け付けております。
ご相談内容に応じて、海外現地在住のアドバイザーからの最新の情報提供やアドバイスも行っております。ご利用は「何度」でも「無料」です。どうぞお気軽にお申し込みください。
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