「海外をちょっとのぞき見コラム」は海外現地の最新状況やホットなトピックスをお伝えするコラム記事です。第28回目は、アメリカにお住まいの池澤アドバイザーに現地事情をお聞きしました。

※なお、このレポートは2023年3月時点の情報であり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。

世界一の観光都市であり、グローバル企業の本社が多数集う米国ニューヨーク。最先端のトレンドを発信し続ける街で、レストランやスイーツ店、カフェなどを出店したいという方は多いのではないでしょうか。私自身もレストランやカフェをNYで運営した経験を持つ一人です。そのため、日本の飲食店関連の方々から、よく相談を受けます。
そんな時、まず最初にお伝えするのが、それなりの覚悟と予算が必要なこと。NYでの店舗契約は、基本的に5〜10年。もちろんショッピングモールのテナントに入るなど他の方法もありますが、いきなり店を構えるにはリスクが大きく、ハードルも高いです。
だからといって諦める必要は全くありません。方法と手順さえ間違えなければ成功する可能性も大いにあり、実際にそういった店を多数知っています。そこで、私がお勧めしているのが、野外フードフェスティバル(※以下、野外フェス)への出店です。期間限定でコストも低く、思い立ったら最短3カ月程度で実施できるためスピード感もあります。

NYでは毎年多くのビーガン関連フェスが開かれる。現地の生の声を聞く良い機会である。

日本のレストラン関係者の方は、野外フェス出店に馴染みのない方も多いかもしれませんが、ニューヨークではイベント好きなニューヨーカーや世界中から集まる観光客をターゲットに、4〜10月末にかけて街の至る場所で野外フェスが開かれ、バラエティーに富んだ飲食店が多数出店しています。どのフェスも連日多くの人が訪れて大賑わい。テーマも「ビーガン向け」「多国籍料理」「黒人がターゲット」など多種多様です。

例えば、クオリティーの高い料理が並ぶフェス「Smorgasburg 」は、ニューヨークの数か所(Prospect Park、Williamsburg、World Trade Center、Jersey City)で、4〜11月の毎週土曜日に開かれる一大フードイベント。最新のトレンドグルメが集います。また、日本に特化した「JAPAN Fes 」は、焼きそばやラーメン、たい焼きなどの販売店舗20〜30が結集するストリートフェスで、こちらは毎月2、3度の開催。毎回数千人のニューヨーカーでストリートが溢れ返り、真っ直ぐ歩くことさえ困難なほどの人気ぶりです。

エンドユーザーのリアルな反応をキャッチ

これらのフェスは、観光の楽しみや現地視察の参考にもなるのですが、冒頭で述べた通り、米国への進出を考えている飲食店の方には、マーケティングリサーチの場としての活用をお勧めしています。なぜなら、異文化の地での飲食展開は、現地の人たちの感覚を知り、商品に反映させることが最も大切だからです。例えば、我々が甘くて美味しいと思っている「餡子」一つとっても、見た目や味などが受け入れられるかは未知です。また、たとえ見た目の印象が好まれなくても、ヘルシーな和食材であることをPRすればヒットするかもしれません。これらは全てエンドユーザーに調査しない限り、知り得ません。

私自身、米国出店を目指す企業の現地パートナー企業として、これまでに何十回も出店してきましたので、具体的な事例を一つご紹介します。

TOFU NUGGETSと名付けたがんもどきを、米国人の好みに合わせ数種類の味付けで販売。

石川県金沢市に本社を構える、1923年創業の大豆加工食品を製造販売する老舗・羽二重豆腐さん。へルシーブームの米国にターゲットを絞り「がんもどき」で、海外進出をスタートされました。日本では誰もが知るがんもどきですが、「米国で日本と同様の味付けやネーミングで勝負しても勝ち目がない」と考えた担当者から相談を受け、ビーガンに特化した野外フェスへの出店をお薦めしました。米国人が好みそうな調理法や味付けをNY在住の料理研究家と一緒に考案し、ネイティブの意見を聞きながら、一緒にプロジェクトを進めました。
そして、インスタ映えも意識した「アボカドソース」や「ヴィーガンチーズ」「トマト」「タルタル」の4種類のカラフルなソースをかけて販売することに。また、がんもどきに合うタイ風グリーンカレーも創作し、来場者約1万人の野外イベント「Vegan Street Fair」に出しました。
味のリサーチではチーズやアボカドと合わせたものが好まれることが分かり、人種別にみると圧倒的に白人が多いことなど、購入客360人のデモグラフィック、注文データも蓄積。米国で売り出す際のネーミングについてのアンケート調査なども実施し、本格的な進出に必要なデータを多数得ることができました。また、後日主催者から話を聞くと、イベントに出店した42店舗中、人気ランキング3位を獲得していたことが分かり、NYでの可能性を感じることができました。

フェスでどの味付けの商品が最も売れたかというデータを集めることで、米国向け商品のアイディアを得ることができる。

大型の展示会や見本市に比べ低コスト

こういった話をすると、米国のバイヤーが集まる「International Restaurant Foodservice Show of New York 」などの、大規模展示会・見本市への参加とどちらが良いか、という質問を受けます。双方にメリットとデメリットがあり、一概にどちらとは言えません。
大規模展示会の場合は、米国のバイヤーたちが多数来場。無料サンプルを渡したり名刺交換ができたりするため、気に入ってもらえるとビジネスに直結する可能性があります。ただし、その商品をエンドユーザーがどう受け取るかは不明です。また出展費、渡航・滞在費を合算すると、補助金などを利用しても300万は最低でも考えておいた方が無難です。
一方、野外フェスの場合はエンドユーザーのリアルな反応を直接見ることができ、コストも見本市と比較すると3分の1以下です。ただし、現地でパートナー企業を探し、当日のリサーチを実施しない限り、ただ忙しく商品を売り続けることに…。

現地のパートナー企業を見つけて効率的なNY出店を

では、実際に野外フェスに出店するためにはどうすれば良いのか。独自でイベントに申し込んで出店する方法もありますが、ターゲットにした都市で、地場に精通したパートナー企業を見つけると良いでしょう。例えばNYであれば、地場の米系企業と人脈があり、臨機応変に動いてくれる会社を探してみると良いですね。依頼するとコストが掛かると思われるかもしれませんが、出店の申し込みや当日の機材や材料の調達、店頭に配置するスタッフ、アンケート用の人材なども依頼できるため効率的ですし、合計しても大規模展示会・見本市への参加と比較しても総額で3分の1程度に抑えられます。
また、現地に精通するパートナー企業ができれば、イベント以外の時も現地のトレンドやニュースなどの情報を得られますし、実際に出店する時の店舗探しやPRの際も効率的です。

フェスでは販売をすること以上に、購入者に意見を聞き情報収集の場とすることが最も大切。

最終的なゴールは、現地で出店して人気を獲得すること。成功の鍵はその国の文化に寄り添った商品を創出することです。資金が豊富な大手企業は最初から駐在員を派遣できますが、そのような予算を捻出できない方が一般的です。ならば、進出初期段階は現地の協力者に、自分たちの代わりに動いてもらえば良いだけのことです。
NYで挑戦してみたいと考えている方、今年中に一度NYの野外フェスで自社商品を試してみてはいかがですか? このレポートが海外進出をお考えの方の参考になれば幸いです。

筆者紹介

池澤 崇 中小機構 中小企業アドバイザー(新市場開拓)

1980年東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒。2005年米ニューヨークに移住。邦銀へ入社し融資業務に携わる。退社後、ニューヨーク市立大学で経営学修士(MBA)を取得。11年、日本企業の米国展開を支援するコンサルティング会社をNYで創業し、同市内で店舗も経営。年間50以上のイベントや展示会をプロデュースすると共に、日本の商材をニューヨーカーらに紹介する。

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