「海外をちょっとのぞき見コラム」は海外現地の最新状況やホットなトピックスをお伝えするコラム記事です。第25回目は、タイにお住まいの松浪アドバイザーに現地事情をお聞きしました。

※なお、このレポートは2022年11月時点の情報であり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。

タイは日本人訪問者数で4位(2019, JNTO)、国別在留邦人数でも4位(2022, 外務省「海外在留邦人数調査統計」)、進出日系企業数5,856社(2021, JETRO)と日本人に非常になじみの深い国です。「微笑みの国」とも言われるように治安も比較的良く概して親日でとっつきやすい一方、ビジネスでは情報と物が溢れ中所得国ならではの難しさも共存する国であると思います。そんなタイもコロナ禍で大きなダメージを受けました。コロナ禍からの復興に進む現状と今後を現地日本人の視点から報告します。

コロナ入国規制撤廃後の状況

タイの主要産業の一つである観光業もコロナ禍で大きな影響を受けましたが10月から入国規制が完全撤廃となったこともあり外国人観光客、出張者の姿が増え少しずつ街に活気が戻りつつあります。渋滞も戻ってきましたがオフィス街も正常化に向け一歩ずつ進んでいる感じです。

街の正常化とともに渋滞も戻ってきました。
近距離なら歩いたほうが早いこともしばしば。

11月8日はタイ人にとって重要な日の一つであるロイクラトン祭りでしたが今年は多くの人で賑わっていました。

これに先立つ6月にアジアで初めて大麻が解禁されました。タイ当局の許可を得れば医療や健康食品向けに商業利用が可能となっています。ただ経済効果優先のためかグレーゾーンが多いなか解禁先行となっている感は否めず、関連商品や関連店舗が急拡大しています。ただ、これも少なからず観光客増に寄与しているようでタイのしたたかさが垣間見えます。
※日本人は国外であっても大麻取締法の処罰対象となります。詳しくは「在タイ日本国大使館のお知らせ 」をご参照ください 。

バンコク中心部では観光客による活気も戻ってきました。

またロシアによるウクライナ侵攻後もロシア人観光客を積極誘客し、さらに最大の“お客様”である中国人観光客の復活に向けタイで開催されるAPEC会議においてプラユット首相が習近平国家主席にコロナ政策の見直しを直談判するという報道もあり、良し悪しはともかくファイティングポーズをとり続ける姿勢は逞しく感じます。

ビジネス状況

コロナ禍前から「中所得国の罠」に陥る可能性が高い国としてたびたび名前が挙がるタイ。東南アジア最速で進む少子高齢化や人件費の上昇などにより産業構造の転換が急がれています。そのなかタイ政府はこれまでのタイの経済発展を3段階に区分し、次の20年で目指す目標を第4段階として示した「タイランド4.0」を策定。スマートエレクトロニクスやバイオテクノロジーなどハイテク分野から10業種を選定し産業高度化に向け支援する方針を示しています。

タイの躍進を支えた自動車産業においても変化が起こりつつあります。東洋のデトロイトと呼ばれる工業団地を擁し、日系自動車メーカーのシェアが90%近くを占める国としても知られていますが、撤退したGMの工場を中国の長城汽車が買収、台湾の鴻海も新たに工場を建設し共に東南アジア向けEVの生産拠点とすることを目指すなど新たな潮流が生まれ始めています。

タイランド4.0に至る変遷
U-Tapao Airport City Project Managementより

ターゲット10産業
Hitachi Global Websiteより

一方で、たしかに工場作業員の賃金はベトナムの1.6倍、カンボジアの1.9倍(2021 JETRO、中央値)等々高くなっておりますが、電力や物流などのインフラ、既に数多く進出している日系企業のネットワークなどを総合的に勘案した魅力は日系製造業においてもまだまだ捨てたものではないと感じています。出遅れていると言われている次世代自動車分野も含め日系企業の更なる進出、投資を期待したいと思います。

筆者経営の工場。労働集約型ですがまだまだ頑張っています。

これからのタイ

タイは一人当たりGDPが7,000ドルを超え消費市場としての魅力も増しています。コロナ禍を経てもバンコクのレストランでは和食やフレンチ、ステーキハウスなど多くのタイ人で連日賑わっています。輸入食材を売りにするマーケットでも、高級食材をカゴに躊躇なく入れていくのはタイ人であり日本人は肩身の狭い状況です。富裕層はもちろん中所得層の拡大もバンコクにいると強く感じられる一方、反体制デモの原因の一つである格差問題は放置状態でタイ全土でみると同層は非常に限られているのも事実です。

バンコク中心街デパートの鮮魚売り場

お洒落なレストランもタイ人、外国人で賑わっています。

貧富の差に加え少子高齢化、高水準にある家計債務などの社会問題を多く抱え、伸び盛りのベトナムや人口ボーナス期を迎えているフィリピンに比べ「成熟」を感じる方もいらっしゃるかと思います。たしかにそうなのですが、少なくとも当面は拡大が期待できる中所得層以上向け市場ではまだまだ日系企業にもチャンスがあると思います。また、次なる成長や社会問題の解消に一歩踏み出しているなか社会や生活様式にも様々な変化が起こると思われ、その過程に大きなチャンスが宿っているように思います。
さらにタイが東南アジアの課題先進国として、持ち前の逞しさとしたたかさで難局を乗り越え、それを新たな発展に変えていくことを期待しています。

筆者紹介

松浪 竜一 中小機構 中小企業アドバイザー(新市場開拓)

商社勤務、タイ駐在を経て2011年に建材会社を立上げ独立。在タイ16年目に突入。タイ人パートナーとの紛争を乗り越え、新たに立ち上げた会社で流通、工場、施工を実際に運営していることが強み。現在はパートナーに恵まれ、また海外で仕事をするうえでパートナーの重要性を痛感するこの頃。今までの経験とビジネスベースを活用し中小企業がタイへの進出を検討するハードルを少しでも下げる一助となることが目標。京都大学文学部文化行動学科卒。

中小機構について

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