「海外をちょっとのぞき見コラム」は海外現地の最新状況やホットなトピックスをお伝えするコラム記事です。第26回目は、ドバイ(アラブ首長国連邦)にお住まいの池田アドバイザーに現地事情をお聞きしました。

※なお、このレポートは2022年12月時点の情報であり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。

今回は、まだ日本ではあまり話題になっていないだろう、ドバイのサステイナビリティについて執筆させていただきたく思います。

近年、ドバイ、というよりアラブ首長国連邦の国全体で、サステイナビリティがキーワードとなっています。ホテル、スーパーマーケット、ショッピングモール、新しく建つ家々、車もTESLAが普及し始めるなど、国が全体で変わろうとしています。

発展の始まり

1960年後半に海の沖合で石油が見つかるまで、ドバイは小さく貧しい漁村でした。イランやインド、遠い所では韓国から来る貿易商人にアラビア湾でとれる真珠を売り、海外から来る商品を買い、ドバイに住む人々の最低限の生活レベルを支えていました。

1930年代、真珠の仕分けの作業をするダイバー達

石油が見つかり、その当時の生活水準では考えられないような39階建ての世界貿易センターや、今では世界でも有数のJebel Ali Portをその当時の首長国王が建てていき、見事にドバイの発展を成功させました。
現在の首長国王、His Highness Sheikh Mohammed Bin Rashid Al Maktoum(ムハンマド氏)も、まだドバイの指揮を取る前から未来のドバイの可能性を見据えて、歴史的に船の貿易を画期的に発展させた船の帆のイメージをモチーフにしたホテルを、陸地ではなく人工的に作られた海岸線沿いの海に建てることによって、今でもドバイの象徴となるBurj Al Arabホテルを完成させました。

海岸沿いの人工島に建てられたBurj Al Arab(右)とJumeirah Beach Hotel(左)

当時から、歴代の首長国王たちは石油や真珠は将来長くは続かないとどこかで気づいていました。その為、金融、不動産、旅行業に特に力を入れ、2008年に世界経済が暴落するまで勢いを落とすことなく次々と新しいプロジェクトを短期間で成功させていきました。
2008-2009年に世界中で経済が不安定になりだすと、ドバイもようやく建設のスピードを落とすこととなり、サステイナビリティについての研究、環境問題への取り組みを本格化させ始めました。

発展から環境問題対策へ

実は2006年に、アラブ首長国連邦はWWF(世界自然保護基金)から世界で最もEcologial Footprint(人間活動が環境に与える負荷)が高いと宣言されていました。原因は炭素排出量でした。
これを機会に環境問題に深く取り込むこととなります。

まず最初に動いたのは首都のアブダビでした。
世界で初めてのゼロ・カーボンシティーMasdarを2006年に発表、その市内では車は無く、すべての電力は太陽光発電で賄えるようにデザインされました。
Masdarは今後も発展を続けていく予定で、学校、病院、一戸建ての家、すべてを繋ぐ無人バスの導入などが上がっています。

同じ年2006年にドバイでもMohammed Bin Rashid Al Maktoum Solar Parkが着手されました。ドバイ首長国王ムハンマド氏のビジョンの元、総面積 77 km² のソーラー パークでの発電事業にあたっています。
目標としては2050年までに今現在の電力の75%を太陽発電で賄うこととなっています。
2006年時点では200メガワットを完成させ、2020年時点では1000メガワットまで成功させています。
2030年には5000メガワットを目標としています。

市内から砂漠方面へ車で約40分離れたあたりに広がるドバイ初の太陽発電所

入り口付近からもわかる巨大なソーラーパネルの一部

身近なサステイナビリティ

2015年にはパブリック向けにDubai Can運動をムハンマド氏の息子のハムダン皇子が発足させました。
Dubai Canはペットボトル・ウォーターを減らす動きです。

水補給のできるWater Stationをドバイ全体で46か所設けており、ペットボトルの水を買わなくても手持ちのボトルに水が補給できる仕組みです。UAE国民の生活にペットボトル水は当たり前の持ち物ですが、平均すると1人あたりが1年に飲み捨てにするペットボトル水の数は450ボトルに上ると言われています。これを今のまま繰り返していくと、2050年にはプラスチックボトルの数は海に生息する魚の数より多くなるとも計算されており、海洋生態系の危機に大きくつながります。

Dubai Canのキャンペーン

Dubai Canに取り組むことにより、1人あたりの水に充てる費用の削減も期待されています。町中のレストランによってはフィルター・ウォーターを提供するところも出始めています。

サステイナビリティをライフスタイルに

同年2015年、ドバイではSustainable Cityの建設が始まりました。およそ3000人が住み、牧場、グリーンハウスのある新しいタイプの町です。
ここでは個々の家はL字型にデザインされ、少し狭くデザインされた道沿いに隣同士近くに建てられ、それぞれの家がお互いの日陰になるよう工夫されています。それぞれの家は北向きに窓が設計され、太陽は朝と夕方に家に差し込みます。すべての家の屋根にはソーラーパネルが取り付けられており、ヒーターとしての役割を果たしています。
水や廃棄物はこの町ではすべてリサイクル活用され、そこから生産されるエネルギーの量は消費量を上回っているとされています。
ごみから回収されたオーガニックなものはグリーンハウスでの野菜やハーブなどの栽培に生かされ、コミュニティー内での販売、または家への提供なども行っています。
町の中は車フリーな造りになっており、炭素排出量を減らしつつ、子供やお年寄りが自由に歩き回れる自由さ安全さも魅力の一つです。

Sustainable Cityの憩いの広場のソーラーパネル

*リサイクル*で育てられた野菜

Sustainable Cityでは動物たちとの触れ合いも生活の一部となっています。
アヒル・鶏ロバ、ポニーが飼育されているほか、馬舎と乗馬コースもあります。

ドバイでは至る所にSmart Palmというヤシの木型のソーラーパネル付きのステーションを取り付けており、ここでは携帯のチャージ、Wifi接続が出来るうえ、更に町の安全を守るセキュリティーカメラが搭載されています。

オープンビーチに建つSmart Palm

有名スポットのサステイナビリティ

今では観光スポットして誰もが訪れるBurj Khalifaですが、そのふもとにあるDubai Fountain(ドバイ噴水)の水に着目したことはあるでしょうか?
こちらの水はHITACHIの技術によってリサイクルされた水が使われています。
水はBurj Khalifaの家、レストラン、オフィスなどから回収された排水、それと近隣のDownTown Dubaiエリアから集められた排水を特殊な機械を通して浄化し、更に匂いを取り除き、最終段階では噴水を発射する際に使われるノズルに余分な塩分からできるクリスタルが付かないよう処理され、毎日還元されています。

Dubai Fountainは人気の観光スポット

Burj Khalifaはエコフレンドリーな建物としても知られており、ソーラーパネルはいたるところに取り付けられていますが、これは一日当たり140.000トンの水を温めるのに使われているとのことです。
また、余った水は町中の緑化のために植えられている植物の灌漑に使われています。

Burj Khalifaを囲むように並ぶドバイモール(右)、Dubai Fountain(中央)、Souq Al Bahar(左白い建物)

最後に

ドバイは今、環境配慮型建物と再生可能エネルギーへの投資を続けています。新しく着手される建物はGreen Buildingsの基準を満たしていないといけないとされています。

2050年までには世界で一番炭素排出量の少ない国を目指し、サステイナビリティをドバイだけでなく、国全体で支えています。

2022年6月からはスーパーマーケットでのプラスチックバッグが廃止され、紙袋が導入されましたが、こちらもほとんどの場所で有料です。

ドバイのスーパーで売られているエコバック

今後も環境問題に取り組む姿勢は変わることは無いとみられ、世界からも注目されています。

筆者紹介

池田 友希 中小機構 中小企業アドバイザー(新市場開拓)

2000年3月からドバイ在住。ショッピングモールで香水・化粧品の売り子から、航空会社直属の旅行会社に勤務、ドバイを本拠とするホテルグループでのVIP接客マネジャーを経たのち、食品会社に転職し、現在に至る。

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