「酒類・清涼飲料商社です。中東は宗教上の規制で、飲酒は一切禁止されていると思い込んでいました。先日、出張の途上で一泊したドバイでは、空港で降立った到着フロアーの免税店ではアルコールを販売して居り、ホテルのレストランやバーでも色々な種類のお酒が楽しめ、全く先進国と変わらぬ印象を受けました。今や、ドバイもこのように開けているのなら、わが社にとっても商機があるのではと期待した次第です。ドバイ向け日本酒・焼酎等酒類の輸出は市場性あるでしょうか? ドバイのアルコール市場の実情に就いて教えて下さい。」

先ず、ご自身の実体験は事実だと思いますが、それを中東全体に当てはめるのは誤りです。イスラム教は“酩酊”を禁じていますが、中東諸国の中でも「飲酒」に対する制約・対応は国ごとに異なります。訪問されたドバイは、アラビア湾岸諸国の中では珍しく炭化水素資源に恵まれぬため、周辺地域をカバーするビジネス機能都市として、又、観光都市としての国造りを進めています。それがために、アルコールに関する規制は相対的には周辺諸国よりは緩いと映ります。又、バハレーン、カタール、オマーンも限定的な場所では外国人/非イスラム教徒の飲酒は可能です。然し、GCC諸国のなかでもクウェイト、及び、とりわけサウジアラビアは非常に厳格な禁酒国です。(又、UAEを構成する7首長国の中で、シャルジャ首長国は禁酒首長国です。)条件付で飲酒が可能な前4カ国に於いても、基本的には禁酒のイスラム教国ゆえ、飽くまで、“例外的に”ルールに則っている限りの飲酒許容であることをご理解されることが必要です。
結論的には、必要な許認可を取る事で、アルコールの輸入販売のライセンスを保有する企業向けにビジネス機会を探ることは可能です。然し、アルコール飲料の主要生産国の主要ブランドが“押しかけている”狭き市場なので、競争は熾烈であろうと思われます。因みに、業者・ルートは分かりませんが上記専売業者の店舗では日本酒・焼酎は種類は限られますが販売されています。

以下の補足をご参照下さい。

1.GCC諸国に於ける飲酒事情

(1)GCC6カ国はいずれもイスラム教国であり、宗教上の教えから飲酒は、原則として禁止されている。とりわけ厳しいのがサウジアラビアとクウェイト(及び、UAEのシャルジャ首長国)であり、サウジアラビアは持込・販売・輸送・飲酒の全てを禁止している。他の国々は厳しい規制を設けつつ限定的に許可している。(但し、バハレーン、及び、UAEのウンム・アル・クワイン首長国/アジュマン首長国では、規制はかなり緩い。)

(2)UAEはGCCの加盟国であり、GCC共通の関税を取決め(2003年)、基本的な輸入ルールも原則として統一している。然し、アルコールの輸入に関しては、加盟各国で独自の規則を設けている数少ないアイテムの一つであり、UAEに関しては、連邦法の規定はあるが、実態は各首長国政府が連邦法の枠内で独自の法的規制を設けている。例えば、7首長国のうち、シャルジャ首長国ではアルコールの輸入・販売・飲酒は禁止されている。

(3)アブダビとは異なり化石燃料資源を殆ど持たぬドバイは、1971年の建国直後から「(限定的な)石油資源の埋蔵に依存しない国造り」を目指して来た。歴代首長の先進的且つ斬新的な国家建設計画が奏功し、今日では中東域のみならず南西アジア~東アフリカ~CISを含む地域でビジネス遂行上最も利便性の高い”機能都市”に発展している。その結果、定住者人口の90%以上は外国人であり、加えて、常時、多数のビジネス出張者や観光客が滞在している都市となっている。外国企業/外国人を惹きつける”利便性”の一つの要因は諸規制に対するドバイ政府の柔軟な対応であろう。この点は、飲酒に関してもある程度当てはまることである。

2.ドバイでのアルコール飲料の販売・飲酒許可の実情

(1)ドバイでは、4つ星/5つ星ホテル、及び、スポーツクラブ(ゴルフクラブや乗馬クラブ等特定の施設)のレストランやバーでは、アルコール飲料を提供しているところが多数みられる。これは、それらの施設が政府からアルコール飲料を提供する許可を得て居り、その施設内のレストランやバーはその許可(ライセンス)を使用させて貰う、という形で飲酒が許されているもの。一方で、これら施設以外、或いは、自宅以外の公共の場所(例えば、オフィス/公園/ビーチ/駅/舗道等)での飲酒や所持・搬送は禁じられている。

(2)ドバイ在住の21歳以上の外国人居住者(但し、非イスラム教徒であること)は、所定の申請に基づき発行されたライセンスを所持していれば、政府認可を受けているアルコール販売アウトレットでの酒類購入と、自宅での飲酒は許可される。 ライセンス(=月度購入可能上限金額の許可)発行機関はドバイ警察であり、申請に際してはスポンサーの同意、労働省発行の就業許可証、及び、雇用者による収入証明が必要。(ミニマムAED3,000の月収が必要。)尚、サラリーの金額/申請者の年齢/組織での地位/家族の規模等の要素も許可上限金額に関係すると見られる。

(3)ドバイでは次の政府公認アルコール販売業者3社に、輸入とドバイ首長国内(ドバイ市中に複数アウトレットを展開)の独占的販売を許可している。
AFRICAN & EASTERN BVI LTD. (UAE)
Maritime & Mercantile International(MMI) Dubai, UAE
Coastal Communities Distribution (CCD)
→ 首長家系デベロパーNakheel社が開発している、人工半島The Palm Jumeirah 及び、人工群島 The World 内にある50以上のレストラン/4件の 5つ星ホテル/13箇所のビーチクラブでのアルコール飲料の提供を独占的に担う Nakheel社系業者。

(4)ドバイ訪問の出張者や観光客(非居住者)は、所持品(これには、到着時空港の入国手続完了後、入国ゲートから出る手前にある免税店で購入したものも含む)として、所定の上限数量までの酒類を自己消費用に持込むことは可能。或いは、上記(1)の施設での飲酒も可能。
但し、アルコール飲料を所持しての移動、及び、酒類の搬送は禁止されている。(但し、前述の到着時に所持している酒類は除く)又、飲酒運転に対しては非常に厳しい罰則が課される。

3.ドバイへの酒類輸入上の制約

(1)ドバイではアルコール飲料は規制品目ゆえ、それを取り扱える個人/法人は適正なライセンスの保有と当該法律の厳格な遵守が求められている。 UAEへの輸入に際しては、一般的に、UAE籍の登録企業が輸入者となる必要があるが、アルコール飲料に関して、 (A)「輸入ライセンス」及び、 (B)「第3者への自社店舗・倉庫からの販売のライセンス」 を保有している企業のみが輸出相手となる。従って、適格な輸入相手を選定する必要がある。

(2)貴社が、個人消費者向けの販売チャネルに関心がある場合は、独占販売を認可されている前述2.(3)①②③を販売代理店候補として想定することになろう。又、貴社の商品を、ホテル(レストラン、バー、客室のミニバー等)やスポーツクラブ/ゴルフクラブ(バー)で直接消費するゲスト向けに販売することに重点を置かれるならば、上記(B)ライセンス保有企業を候補とすることになろう。

4.日本酒・焼酎の可能性

上記2.(3)①②のサイトにある取扱いブランド(酒類)には、数種類の日本酒と焼酎が掲載されている。
又、ドバイの一流ホテル内の日本食レストランやバーでは、種類は少ないが日本酒や焼酎を提供している店は多い。
2.(3)①②③は、自社が海外サプライヤーから直接輸入して居り、ホテル(=アルコール飲料提供の認可を受けた施設)前述(B)ライセンス保有の企業から購入していると思われる。

5.現地市場調査の必要性

上記を踏まえ、実際に再度ドバイを訪問され市場調査されることをお勧めする。本邦に居ながら、2.(3)①②③の本社と連絡を取ることは可能であろうし、現地ではタクシーで容易にその店舗を訪問は可能。 (勿論、ライセンス不保持の非居住者ゆえ、購入は不可。)又、日本レストランを訪問し、レストランが入居しているホテルがどの業者から酒類を購入しているかの情報を得ることは不可能ではないでしょう。それら業者にもアプローチし可能性を探られることをお勧めします。

プロフィール

国際化支援アドバイザー(国際化支援)富山 保
総合商社に38年勤務し長年海外ビジネスに携わってきた。若い頃の会社派遣のアラビア語研修皮切りに、 合計約15年間の現地駐在経験(サウジアラビア・UAE等)を有する。