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総論
GCCは原油・ガスの産出国であることから連想されるのか、又、誇張した取上げ方をするメディアもある為か、わが国では、「ドゥバイは(GCCは)珍しいモノであが良ければ高値(言い値)売れる市場。」という“神話”が罷り通っているようです。然し、これは必ずしも現実の姿ではありません。実態は、市場での競争は非常に激しく「何を売るのか?」「誰に売るのか?」「幾らで売るのか?」「どこで売るのか?」「どのように売るのか?」が重要であり、その意味では、他のどの新規市場開拓と変わるものではありません。結論的には、適格な現地のパートナー(輸入・卸・小売業者=代理店)を通じて、現地消費者の趣味と購買力に見合うジュエリーを輸出・販売をする体制を構築できれば、日本製ジュエリーの現地での販売は可能であろうと思われます。但し、典型的な趣味の贅沢商品である「ジュエリー」の販売に於いては、非日本人である購入者(主として、インド人/パキスタン人/アラブ人/欧米人)の「感性」(趣味・美意識・審美眼)に訴求し得るかという点では、機能・性能が購買動機の主要な要素である量産工業製品とは異なる難しさはあると思われます。以下に、ドゥバイ市場を例に、若干の補足を行います。
1.輸入者/販売者について
(1)UAE(ドゥバイはその中の1首長国)では、輸入・販売はUAE人(法人・自然人)のみ行うことができる。仮に、外資がUAE内で販売会社を設立し販売を行う場合、その販売会社は「UAE資本が、51%以上を所有している」ことが必要である。
(注)但し、Dubai Gold & Diamond Park は、Jebel Ali Free Zone Authority FZA の傘下にあるFZであり、外資100%での会社設立が可能。(詳しくは、Question5.「フリーゾーンとは?」の項をご参照。)
(2)「輸出をするだけ」を目指すのであれば、ジュエリー業界での経験が豊富な現地企業を輸入者/販売業者(或いは、代理店)としてを発掘・起用する必要がある。
(注)「ジュエリー」のような贅沢品・奢侈品(非工業製品)の輸入が、UAEの代理店法の対象となるか否かは、現地の弁護士に要確認。
(3)ドゥバイは歴史的にインドとの関係が深く、人口の約90%を占める外国人居住者(殆どは、出稼ぎ人)の約半分をインド人が占める。ドゥバイ宝飾業界も企業オーナー/出資者はドゥバイ人であっても、実際の経営と工房/小売店舗の運営と実働はインド人が担っているケースが殆どである。即ち、商談で対面するのは殆どインド人である。
(4)宝飾業界のプレーヤーの形態としては、大きく次のように分けられよう。
↓ 〇 製作・(輸入・卸売)・小売を行う業者
(規模順) ↓ 〇(輸入)卸売・小売を行う業者
↓ 〇(輸入)小売業者
その何れの形態も、正規に設立・登記された企業であれば輸入は可能であり、実際に自社で輸入する企業も多数存在する。
(5)現地側輸入パートナーを選定する場合には、
① 規模(決済能力/信用力)
② 店舗数/店舗ロケーション
③ 貴社製品・作品に対する評価と姿勢、
④ 当該企業が取扱うジュエリーの品揃えの中に於ける貴社製品・作品に納得できる位置付けが与えられるか否か、 等を慎重に考慮すべきであろう。
(6)毎年12月にドゥバイ、International Jewelry Week という中東~南西アジア最大のジュエリー展示会が開催され、そこには在ドゥバイの大手宝飾企業の多くが出展する。同展示会を訪問し、作品・趣味の傾向を調査すると共に、出展企業/視察訪問企業と取引可能性に就き、意見・情報交換を行うことは効率的な市場調査の一環となろう。
2.誰が購入?(消費者タイプ)
(1) ドゥバイの人口約220万人の内、自国民はほぼ10%程度で残りは、南西アジア出身者が大多数である所謂出稼ぎ外国人とその家族である。その中で最大勢力はインド人であり約90万人以上居るといわれている。その多くは肉体労働者や事務所のサービススタッフ(ドライバー、ティーボーイ等)であるが、事務職/中間管理職/技術者/弁護士/医師/ドゥバイ企業の役員等々あらゆる層を担っている。肉体労働者以外の職種では家族帯同での滞在者も多く、その夫人たちは潜在的顧客層(消費者層)となろう。
⇒ 定住インド人女性 — セグメント ①
(2) ドゥバイには年間約1,400万人(2014年)の訪問者が、世界中から訪れる。国籍は、近隣アラブ諸国が最多であるが、欧米人、アジア人も多数訪れる。観光・レジャー目的の訪問の場合、女性が含まれる割合は高い。
⇒ (訪問者としての)近隣アラブ人女性+欧米人女性+アジア人女性 —セグメント ②
(3) 全人口の約10%を占めるドゥバイ人。日本人より遥かに高い購買力を有し、女性たちは宝飾品で飾る習慣がある。
⇒ ドゥバイ人女性 —セグメント ③
(4) ドゥバイは今や、中東地域随一のビジネスセンターとしての機能を備えた都市に発展し、多くのビジネス目的の来訪者が訪問している。上記(2)には、それらビジネス訪問客も含まれ、その多くは男性であるが、配偶者や友人にジュエリーを土産として買って帰るケースは非常に多い模様。
⇒ ビジネス出張客 —セグメント ④
3.どんな商品を購入?(趣味・嗜好)
女性のジュエリーに対する趣味・嗜好は民族・文化に拠ってもかなり差異があるようで、現地の宝飾品製造・販売業者から聴取した大雑把な特徴は次の通り。
〇 インド人:宝石より金製(純度は20/21カラット)で、大柄なデザインのものを好む。
〇 欧米人:白金や18カラットの金のベースに宝石をあしらった派手過ぎないデザイン。又、北部欧州(含む、独)の女性は、金に白金をあしらったデザインも好む模様。
〇 アラブ人:ダイヤモンドをあしらった20・21カラットの金をふんだんに使ったデザイン指向。
⇒ 斯様に、購買者/消費者の国籍・民族の違いによって好みが異なるようであり、嗜好にあった製品を用意せねばミスマッチになる可能性が高い。又、何れの購買グループの好みも、日本人よりは派手なもの指向であると思われる。
4.どこで購入?(Point of Sale / Point of purchase)
宝飾品/ジュエリーを販売している主たる4か所とそれぞれの特色は次の通り。
(1)大型ショッピング・モール内専門店
ドゥバイには10数か所の大型ショッピング・モールがあるが、中でも大規模なものはテナント店舗が数百店あるものもあり、必ず、数店~十数店のジュエリー・ショップが含まれている。2000年代後半以降に完成した超大型モールでは、開店から閉店まで人出が絶えないほどtrafficがあり、ここで買い求めるのは、上記1.②③のグループが多い模様。
(2)ゴールド・スーク(Gold-souq;金製宝飾品店街)内ショップ
中東の主要都市には、必ずといって良いほどゴールド・スークがある。ドゥバイも数十年の歴史を誇る金製品・宝飾品店の集積地区があり、代表的な観光スポットになっている。地場、或いは、インドで製造・加工した製品をインド人店員が販売している店が殆どであるが、地域一帯がアラブの歴史的街並みを保存した地区であるので、常に多くの観光客(上記②)がここを訪れ、ここで宝飾品を買うケースも多く、1.①グループも多い模様。
(3)空港DFS(免税店)内ショップブース
ドゥバイ空港は利用者数/発着便数/ターミナルの広さや免税店の数等に於いて世界トップクラスに数えられる24時間稼働空港である。免税店フロアーには宝飾店も出店している。ドゥバイへの訪問客が帰国直前にジュエリーを買うケースもあろうが、同空港に特徴的な「膨大な数の乗り換え客」がトランジット時間中に、自国のものとは違うテイストのジュエリーを土産として買い求める需要がかなりある模様。DFSでは、上記1. ②の嗜好のものが多く買われる模様。又、1.④もここで購入するケースが多い模様。
(4)Dubai Gold & Diamond Park
歴史的ゴールド・スークに並ぶ、貴金属・ジュエリー店舗の集積地。
5.いつ(どんな機会により多く)購入?(販売の山場)
ドゥバイは1年を通して訪問客が絶えないが、季節性も多少は反映している。大まかに見ると次のような訪問客がラッシュする”山場”が見て取れる。
- 西暦の1月 ショッピング ⇒ 地場居住者、近隣からの休暇訪問客
- 7-8月 サマーサプライズ ⇒ 地場居住者、近隣からの休暇訪問客
- イスラム暦の10月 断食明けの休暇 ⇒ 近隣からの休暇訪問客
- イスラム暦の12月 巡礼月の休暇(イードゥル・アドゥハ) ⇒ 近隣からの休暇訪問客
- 西暦の12月 欧米のクリスマス休暇 ⇒ 欧州からの休暇訪問・避寒客これらの期間は、通常以上に訪問客が増え、小売業者の売り上げが伸びるタイミングであり、奢侈品のジュエリーもその例外ではない、由。
プロフィール
国際化支援アドバイザー(国際化支援)富山 保
総合商社に38年勤務し長年海外ビジネスに携わってきた。若い頃の会社派遣のアラビア語研修皮切りに、 合計約15年間の現地駐在経験(サウジアラビア・UAE等)を有する。