世界の潮流、(グローバル化の実態と国際分業の深化)
1990年代より急速に進んだグローバル化は自国で生産し自国で消費するというビジネスモデルからコスト競争力を高める為、労働賃金の安い国(特に旧社会主義国)での生産へと工場シフトすることから始まり、現在ではあらゆる産業分野に於いてグローバル化が進んでおります。特に中国との貿易額(1990年-2014年)が日中100億㌦から3,500億ドル、米中50億ドルから5,200億ドルと急増していますが日米は2,000億ドルから2,100億ドル横ばいとなっている通り貿易フローチャートが大きく変わりました。この様にグローバル化が進むと経済活動を行う上で国際的に不偏的なルール必要となってくるわけです(図1)。
各国間の間で障害となっている壁を無くする為、まず、二国間FTA(EPAも含む)が締結されるようになり、更には地域を包括した多国間FTAの締結が模索、推進されるようになりました。最近、基本合意に至ったTPPがその流れの動きであり、また、日中韓、アセアンを含めたRCEP等、更にはAPECまで広げたFTAAP等も検討されております(図2)。
では、グローバル化することによって、生産活動はどのように変わってゆくのでしょうか?企業は経済圏の中でより競争力のある生産体制を構築することを試み、それぞれの国・地域はそれぞれの利点・強みを生かし、その役割を担うという国際分業体制へと移行してゆくこととなります。即ち(図3)の様にグループ国群化されてゆくことになります。
更に、この傾向は製造業に止まらず全産業に於いても同様に分業化してゆきます。例えば、パソコンや携帯電話の場合、開発・基礎設計は欧米日の会社が行い、その製造設計・生産を韓国・台湾企業に委託し、組み立ては人件費が安い中国で行っているというのが実態です。従って貿易形態も単なる完成品の貿易形態からグループ国群間での部品貿易、グループ3国から完成品の輸出へと変化しており、更に貿易活動から投資活動へと変化しております。かつて貿易立国と言われた我が国でも2014年の経常収支黒字7.8兆円の内訳は貿易収支9.4兆円の赤字に対し所得収支17.2兆円の黒字と内容が大きく変化していることからも明白です。更に金融の世界でもグローバル化が進み2014年の金融資産は290兆㌦と世界のGDP77兆㌦の約4倍もの規模に膨張していることも留意しておく必要があります。
中国の動向と将来の方向性(新常態)
中国は今やGDP世界第二位の経済大国として急成長をとげ、世界経済に大きな影響力をもったことは言をまちませんが、近年、経済成長が減速し、更に汚職問題、環境問題、格差問題、戸籍問題、等々諸問題を抱えており、これらを解決し安定的な経済成長を続けるため新たな方向性を迫られています。即ち、社会主義的市場経済(誰も正確に定義できませんが)を‘量‘から‘質‘へと経済・社会の内容を変化させた新たな常態、即ち‘新常態‘へと変革させる段階へ入りました。その達成の為の具体政策として新成長モデルへの産業転換、経済の質の向上、金融・サービス産業の育成、国有企業の規制緩和、国際化が必要となります。1990年以降グループ3国群として安価な労働力を武器として経済発展を遂げましたが、今後グループ2国群へと経済の質を向上させ産業強国へ、更には総合的産業国のグループ1国群へと経済を進化させてゆくことが目標となっております(2025年に産業強国入りへ、2035年に総合的産業国へ)。一例をあげれば完成品を中国から全世界に輸出しているI-phoneの場合、その付加価値創出の内訳は日本36%、ドイツ18%、韓国14%、中国4%、その他28%(内台湾は10-12%と思われる)となっていることからも各グループ国群間の差が明白であり経済の質の向上が必要であることが理解できます。しかし、この目標を達成するには解決しなければならない諸問題があります。これまでの経済発展を牽引したのは外国から資本と技術を導入した市場経済産業分野であり、この分野は今後もグローバル化に上手く適応できれば新たな成長モデルへの転換、質の向上が出来ると考えられます。しかしながら、問題は計画経済産業分野(国家の重要産業:金融、資源、重工業、メディア等)であり、その太宗が厳しい規制により統制されている国有企業であり、この分野を今後如何にして国際化を図り質の向上を図るかと言うことです。その為には地域経済圏の基本的ルール(関税のみならず、投資基準、知的財産権等)に則り経済活動を行う必要がありますが、その基本ルールはTPPに象徴されるような厳しい世界基準となっています。残念ながら現状、中国がその基準の諸条件を満たすのは困難であるという問題があります。即ち、新常態の実現の為に金融・投資規制緩和、国際化、知的財産権の諸問題を少しずつ解決する活路を何処に見出すかということが重要な鍵となるわけです。
台湾の実情と課題
台湾はWTO,APECに加盟してはおりますが、国としてではなく地域として参加せざるを得ない背景、政治的・安全保障的観点より中米と上手くバランスを取らなければならないという特異な立場にあるという事をよく認識しておく必要があります。それでも、実態経済に於いて台湾企業はいち早くグローバル化に対応して発展を遂げ、1980年台にアジア4龍(虎)と言われたNIES(他、韓国、香港、シンガポール)の一角として急速に経済発展を遂げました。 特に、堅牢な国内産業クラスター(6か所の産業クラスター)に支えられ、グローバル化の深化により中国への事業展開を行ったIT産業はグループ2国群に於いて韓国と共に不動の位置を占めるようになりました。
しかしながら台湾が更なる経済成長を遂げるには直面する次の課題を解決する必要があります。(1)経済発展の太宗をIT産業に依存しすぎており従来産業の新たなビジネスモデル・展開が必要であること。(1990年には売上トップ10社の内9社が従来型企業でしたが、2014年は9社がIT企業)(2)中国への過度なる経済依存(貿易40%、投資50%が対中国)(3)従来ビジネスモデルの限界(OEM,EMSモデルの熟成)。実はこれらの問題は中国がグループ3国群からグループ2,1国群へと変革してゆく事、新常態へと新たな段階に入る事と大きく関連しています。台湾の生活産業分野の企業は中国からより安い労働力を求めて東南・南アジアに工場移転することにより対応していますが、巨額投資を行ったIT企業は比較的安価な労働力が確保できる中国内陸部へ移転する対策を取っています。安価な労働力を求め生産拠点として中国を位置づけした従来の台湾企業のビジネスモデルから中国の新常態に沿った質の高い産業への転換(付加価値を高める製造業)、新成長モデル(金融・サービス・環境他)、更には巨大消費市場として捉える新たなビジネスモデルへと転換する必要性に迫られております。
中台両岸経済関係の展望
両岸経済関係の急成長は1990年代の中国の4開発区への台湾企業の果敢な投資から始まりましたが、その事業展開成功の根底には欧米日とは異なり香港・シンガポールと同様、同じ中華民族であるという親和感と独特の事業センス(リスク管理)があったと思われます。これ等の果敢な事業投資により中国が疲弊していた社会主義経済を少しずつ市場経済へと移行させることが出来、経済発展に寄与したことは言うまでもありません。また、台湾企業としても安価な労働力により国際競争力の優位性を持つことが出来たという相互依存関係にありました。当初は台湾国内にて事業展開を行っていた生活産業分野がいち早く労働集約的生産体制を中国の経済政策に沿った開発区に移転し、続いて既に台湾に於いて確固たる地位を占めていたIT企業が中国に大生産拠点をつくり部品を中国に輸出し中国にて組み立てた完成品を欧米日市場に輸出するという確固たる体制が出来上がりました(図4)。
逆にこの事業展開が中国の経済発展の強力なエンジンになったとも言えます。中国の輸出統計によると輸出企業トップ10社(金額ベース、図5)の中に台湾からの進出企業が1,2位を含め7社も入っていることからもわかる通り中国の貿易黒字を支えており中台相互依存の実態が理解できると思います。
更に2010年に両岸間に於いてECFA(実質的な中台FTA)により以前の規制が緩和され両岸の経済活動のプラットフォームが整備されました。ところが中国は更なる経済発展を遂げる為、労働集約的産業依存からより高い付加価値を創出するグループ1、2国群へと変革する必要があり、その達成には解決しなければならない壁があることは前述の通りです。台湾としても中国の新常態に対応した新たなモデルが求められております。社会主義的市場経済の新たな段階としての新常態へと推進しようとしている中国ですが、グローバルスタンダードである欧米主導の基本ルールを全面的には受け入れられない現状、中国にとって台湾は中華国家であり資本主義圏のグループ2国群の雄であることから新常態への案内役であり、中華と欧米を繋ぐ糸口として位置づけられると思われます。中華国家である台湾としても中国とFTA(ECFA)を有している有利な立場を活かし新常態が求める計画経済産業分野での国際化、又、市場経済産業分野に於いてグループ2国群へ向けての産業の質の向上、サービス産業等、新たな分野への事業展開することにより将来の活路を見出せます。この様に其々が内包する経済的諸課題を考慮すれば両岸両国にとって将来とも相互協力・依存することが不可欠であり、今までとは異なった産業分野・内容での新たな両岸経済関係が構築されるものと思われます。確かに両国は政治的には微妙な関係にあり、台湾新政権の中国に対する政治的対応によっては、中国は台湾に対して何らかの圧力をかけることは考えられますが、その内容としては両岸関係の経済に実質的な影響のないような一時的かつ形式的ものに止まるものと思われます。
プロフィール
国際化支援アドバイザー(国際化支援) 高 寛 (たか ゆたか)
種々、経済団体、経済研究所、大学等にて講演をしつつ日台関係促進のボランティア活動をしています。
公開日:2016年 4月 28日
タグ: