タイ投資委員会(BOI)

これまで外国企業にとり使い勝手のいいタイ投資委員会(BOI)による投資恩典があった。それは投資奨励法第7条6項に規定されている国際貿易センター(ITC)事業(商社事業)に対する恩典だ。しかし、BOIは2018年12月11日、ITCに対する投資奨励の中止を発表。これにより比較的容易な商社認可のルートであるITC認可申請の新規受付が2018年12月12日より廃止されてしまった。

ITCの恩典についての混乱

ITCの恩典についてはよく混乱しているという話を聞く。

これは、ITCには「国税局が認可する法人所得税免税恩典等」と「BOIが認可する関税免税恩典等」があるため、この国税局恩典とBOI恩典とを混同しているためだ。

さて今回、「ITCが事実上なくなった」わけであるが、ここに至るまでに2回の変更があった。

まず2018年10月、国税局恩典を得るための条件である「販管費1500万バーツの費用計上」が6000万バーツへと大幅に引き上げられた。ただ、この変更は大半のITC企業に影響を与えなかった。というのは、多くのITC企業は販管費1500万バーツを計上していないため、最初から国税局恩典を申請していないからだ。

ところが12月、今度はBOIからもITC投資奨励に関する条件と恩典の大幅な変更が発表されてしまった。
内容は以下の通りだ。

■ITCを廃止し、ITCと国際地域統括本部(IHQ)を合体させた国際ビジネスセンター(IBC)を投資奨励の対象とする。

■IBCを設立して商社業務を行う場合、かつてのIHQ業務の一部も兼務して行う必要がある。つまり、商社のみの認可が存在しなくなった

■従業員10名の雇用が義務付けられた(これまでは雇用人数に条件なし)

■輸出用原材料の輸入関税免税恩典廃止――など。

このような厳しい条件下では、「商社活動をしたい」との動機でIBCを申請する企業はおそらく皆無であろう。筆者はこれまで、ITC投資奨励申請を検討中の日本企業に対し、「貿易をやる可能性が少しでもあるなら絶対に取っておくべき。外資にとってこのような有利な条件の認可はいつか廃止になる。そうなる前に認可を取得しておくべき」とずっと言い続けてきた。それが2018年12月にとうとう現実のものとなってしまった。

プロフィール

執筆:臼井 秀利 (うすい ひでとし)
2018年度中小機構 国際化支援アドバイザー。1990年 タイ・バンコクにて日本語新聞社へ入社。広告営業、記者を経て事業開発部へ。事業開発部では、タイのマンゴーを日本へ送る「通販部」や、タイへ進出する日系企業を支援する「コンサルティング事業部」などを設立。2012年 前社主より、新聞ライセンスを含む事業買取(MBO)にて独立。現在グループ10社の代表を務める。タイの商業銀行や日本の地銀らとの共同出資法人の代表も兼務。得意分野はBOI(タイ投資委員会)案件。2019年2月現在、在タイ29年。

監修:八重樫 正(やえがし ただし)中小機構 国際化支援アドバイザー