「海外をちょっとのぞき見コラム」は海外現地の最新状況やホットなトピックスをお伝えするコラム記事です。第5回目は、アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスにお住いの水野アドバイザーにアフターコロナに向けた変化と今後の展望をお聞きしました。

※なお、このレポートは2021年6月29日時点の情報であり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。

アメリカでは他国に先駆けてワクチンの普及が進み、一年以上続いた外出・営業制限措置(以下、ロックダウン)が解除されつつあります。予防に対する考え方や感染者数の違いにより、解除のタイミングは州や地方で異なります。遅ればせながら、ここカリフォルニア州ロサンゼルスも6月15日に全面解禁となりました。

正常に戻る部分と戻らない部分が混在

一日あたり新規感染者数が1万人を超える日々が続くなど、国内で最も感染が広がったロサンゼルスでは長いあいだ厳しい外出・営業制限が敷かれていました。食料調達など以外の目的での外出の禁止、自宅勤務の導入、レストランやバー、ショッピングモールなどの営業停止命令により、街角に人影のない日々が続きました(写真1)。営業が許されていたスーパーマーケットなどでは入店客数が制限され、連日長蛇の列となっていました(写真2)。会社への出勤も禁止されたため、各社は在宅勤務を導入、Zoomなどの普及に伴い、自宅中心の新しい生活スタイルが定着していきました。

当初はマスク着用の義務化に戸惑うロサンゼルス市民も見られました。日本とは異なり、この国にはマスク着用の文化はありません。マスク姿のアジア人が近づくと、病気をうつされると思うのか、あからさまに嫌がる表情を見せる市民をよく目にしました。しかし、取り締まりの徹底もあってか、次第にマスク姿が当たり前となっていきました。

こうして様変わりしたロサンゼルスを一気に変えたのがワクチンの普及です。病院関係者などを対象に1月頃から接種が始まり、薬局でも打てるようになると接種件数は急速に増え、6月現在ではカリフォルニア州人口の約半分が二回目の接種を終えています。一日あたり新規感染者数は6月18日時点でわずか255人まで減少、感染リスクは皆無に近い状況となっています。こうした状況を受けて、カリフォルニア州政府は6月15日にロックダウンを全面的に解除しました。

客で賑わうようになったレストランや小売店ですが、解除後まだ間もないためか、入店にあたりマスク着用を義務付けているところが多く、店の外でもマスクをつけたままの通行人の姿が見られます。しかし、ロサンゼルス近郊にあるアパレル店の店員の話しによると、ロックダウン解除はもちろん、人々は夏を前にオープンな気分となっており、客足はコロナ前に戻りつつあるとのことです(写真3)。

コロナの歪みで新たな問題が発生

6月15日のロックダウンの全面解除を待たずして、経済活動は感染者数の減少に沿って徐々に回復していきました。そもそも食品や医療品、自動車などの基礎生活品の需要はコロナ禍でも減少することはなく、さらには巣籠もり需要やオンライン販売システムの拡充により、自宅でのエクササイズ器具、テレビゲーム、パソコンなどが飛ぶように売れました。他方、衣服、レジャー・スポーツ用品、旅行、ホテル、飲食業などはコロナ禍で大幅に減少しました。ロックダウン措置が解除された今、これらの業種もコロナ以前の売り上げに戻りつつあるようです。

社員もオフィスに戻りつつあります。ロサンゼルスの日系企業はロックダウン措置の導入に合わせて社員の自宅勤務を義務付けました。操業が許可されていた、生活に必要不可欠な製品を製造する工場や倉庫ではオペレーション毎の作業員数を減らし、体温計測やアクリル板の設置などの感染対策を行いました。ロックダウンの解除を受けて、社員をオフィスに戻す、あるいは工場・倉庫内のソーシャルディスタンスルールを緩和する日系企業が増えているようです。

一方、そのまま自宅勤務を続行している企業も少なくありません。日本貿易振興機構(ジェトロ)がロックダウンの全面解除直前に実施した、カリフォルニア州の日系企業を対象としたアンケート調査によると、オフィス勤務が可能となっても出勤とリモートワークを組み合わせた「ハイブリッド勤務」を想定している企業は全体の6割を占めています。また、企業の半分が訪問希望者を受け入れる一方、3割は原則オンラインのみで対応していると回答しています。オフィスに社員を戻す日系企業が増えていく可能性はありますが、コロナで初めて判明した、リモートワークのメリットを活かそうとする企業もあるようです。

経済活動の正常化が進むにつれて問題も生じています。最大の問題は物価の上昇です。原油価格の上昇だけでなく、消費者の需要に生産や輸送が追い付かず、4月以降に物価が急上昇しています。特に顕著なのがサプライチェーンの問題です。全米最大のコンテナ取扱量を誇るロサンゼルス・ロングビーチ港では、5月にはコンテナの取扱量が過去最高レベルに達しているものの、貨物の取扱いにはかなりの遅れが見られます。2月頃にピークを迎えた港の混雑の原因は、米国での貨物需要の急増、コンテナ不足や港作業員のコロナ感染の蔓延などが原因と言われています。港の混雑は貨物列車輸送にも影響を与えています。各社は海運や列車輸送よりもコストが高いトラックや空輸に切り替えるなどで対応しており、輸送コストの上昇分が価格に反映されています。

今後の展望

こうしたいわば「コロナの歪み」で生じている問題はあるものの、景気は上向きが続きそうです。コロナ禍で10%を超えた失業率は5月時点では5.8%まで下がっています。連邦・州政府の給付金や失業手当などで食いつないできた人々が仕事に戻っていくと予想されます。長く続いたロックダウンで国民の貯蓄率は歴史的に高い水準となっています。可処分所得が伸び、米国の国民総生産(GDP)の6割を占める個人消費の増加へとつながっていくと考えられます。

ロサンゼルスはいよいよコロナ明けを迎えようとしています。

筆者紹介

水野 亮 中小機構 中小企業アドバイザー(新市場開拓)

2016年1月から現地コンサルティング会社に勤務。中南米諸国やアメリカに関するビジネス・コンサルティング・サービスを提供。
アメリカ、ブラジル、ドミニカ共和国、ニカラグア、タイなどで政府機関やマーケットリサーチ会社での駐在経験、前職のジェトロ在勤中には東京本部やニューヨーク事務所にて中南米・アメリカ市場や通商政策などに関する調査業務に従事。この地域に幅広い人脈を有する。
米コロンビア大学国際関係・公共政策大学院卒。著書には「中南米ビジネス拠点の比較とアメリカ企業の活用事例」「アメリカからの中南米市場戦略」「FTAガイドブック2007」「FTA新時代」「ブラジルの電力危機」など多数。

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