海外ビジネスを行う上で、進出先の日系企業間ではメジャーなテーマでありながら、国内で意外と重視されていないのが「労務問題」です。

ここでは、海外進出前に現地の「労務問題」を考えておくべき理由について説明します。

既に海外進出を経験している企業でも、「労務書類はA国で使用している物があるのでそれを流用します」と言われることがあります。国が違えば当然、法律も異なります。にもかかわらず、書類の流用に危険性を感じないというのは、進出国への事前準備が足りていないと言わざるを得ません。また、進出前からリスクを背負うことにもなります。

実は注目度の高い労務問題

海外では、日系企業向けに「労務セミナー」が開催されると、申込過多ですぐ受付終了してしまうほど人気のテーマです。

また、進出先の国で「労働法」の一部でも改訂、ましてや全体的な改正が行われるとなると、各企業による事前の情報収集活動が始まります。

現地の日系法律事務所やコンサルタントは発効前から原文を求め、日本語訳された改正労働法は日系企業内でいち早く共有されます。さらには現地の商工会議所が、改訂内容の詳細説明を行うためのセミナーまで開くという徹底ぶりです。

海外進出前に、現地の「会計・税務」の概要は事前に調べる企業が多いと思います。進出後は現地の会計事務所と顧問契約を交わし、サポートしてもらうケースも多いでしょう。それに対して「労務問題」は、日々の業務の中で発生する(もしくは「発生している」)問題であり、外部機関に相談する間もなく即断を求められることもあります。事前にリスクを回避するため、日系企業は労務問題へのアンテナを常に張っているのです。

「東南アジアは解雇が難しい」は本当か

現地の日系企業では、「労働契約書」「就業規則」「賃金テーブル」を「三種の神器」と呼んでいます。

それ程までに現地では重要性が認知されていながら、日本国内で「現地法人の労務問題」に関するセミナーを企画する団体は多くありません。中小機構に相談に来られる方の中にも、労務関連を重視していないケースはよく見られ、いまだに「泳ぎ方は現地で覚えろ」という企業が後を絶たないのが現状です。そういった企業の多くが、伝聞の情報で耳年増になってしまっています。例えば、「東南アジアでは従業員を解雇しづらい」などの言葉がひとり歩きしているのです。

実は東南アジアだけでなく、日本も「解雇」には非常に敏感な国の一つです。皆さんも国内で「不当解雇」を争う裁判のニュースを見たことがあると思います。日本では2003年の労働基準法改正の折に、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という規定が盛り込まれました。「社会通念上相当である」という文言が難しい判断基準となり、多くのケースで雇用者と被雇用者側の和解が成立しています。

しかしなぜか海外に行くと、さもその国だけが商習慣として「解雇の難しい国」と言われてしまうのです。進出国にも現地の法令が有り、それに即した労務対策が存在しています。労務関連の現地調査や現地法令調査をしっかりと行っていれば、このようなイメージだけが先行することはなくなります。

労務トラブルを防ぐために

労務対策は常に「転ばぬ先の杖」と考えてください。「泳ぎ方は現地で覚えろ」という考えでは、労務問題が発生してから後手の対応となるため、ダメージも大きくなります。最低限、現地法人設立までに「労働契約書」「就業規則」「賃金テーブル」の「三種の神器」は、設置準備を完了しておきましょう。

加えて、駐在員の現地商習慣の理解と、「会計・税務」と同様に現地労働法も勉強しておくことをお勧めします。そういった事前準備が、将来的な現地法人の発展に繋がっていくのです。

おわりに

中小機構では、各国の商習慣や労務問題に精通した専門家が常駐し、進出前はもちろん、進出後においても質問・相談対応を行っています。無料で何度でもご相談頂けますので、現地の労務問題でお悩みの場合には、中小機構の国際化支援サービスをご利用ください。

中小機構近畿本部 国際化支援アドバイザー 河原 光伯

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