日本のアニメ、漫画、フィギュアなどのサブカルチャーと呼ばれる市場は、日本国内に限らず世界中で広まっています。

その日本サブカルチャー市場のビジネスチャンスのヒントを探るため、フランスにて、日本サブカルチャーグッズを多く扱っている店舗の調査を実施しました。

今回紹介するのは、パリ最大級規模の漫画取り扱い店舗である「HAYAKU SHOP(ハヤクショップ)」。パリの学生街としても知られるカルチエ・ラタンのエリアにて、2007年の開店以来多くの日本サブカルチャーファンに愛され続けてきた店です。店のオーナーであるコブ氏は、フランスでの日本アニメブーム興隆期である70年代から、日本のアニメをこよなく愛する「オタク」でもあります。そんなコブさんに、日本サブカルチャーについてインタビューを実施しました。

なおこのレポートは2018年に執筆されたものであり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。

オーナー

店主写真

Christophe Lenain(クリストフ ルナン)さん 通称:コブ

コブ氏は、1970年代にフランス国内で放映された日本アニメ作品「UFOロボ グレンダイザー」(当時、フランスでの日本アニメ人気に拍車をかけた)に大きく影響された世代の一人。フランス国内における、アニメ、漫画、フィギュアといった日本サブカルチャー市場の広まりを見てきました。

フランスでマンガと共に育った最初の世代の一人と言えるでしょう。

Q:こちらの店舗に来られるお客様はどういった方が多いですか?

学生街ということもあり、やはり学生が多く来ています。ご覧のとおり、日中(取材時は15時過ぎ)は学校帰りの中高生が多いですね。漫画を多く取り揃えている入口付近のメインフロアでは、大抵若い子で一杯です。たまに、私自身そうでしたが、アニメや漫画から、日本という国を知るという若い子が多くいます。

Q:店内では、お客様同時で話合っているところをよく見かけます。

元々知り合いか、この店で知り合う人たちも多くいます。お互いに商品やアニメなどの情報交換をしたり、日本に行ってきた思い出などの雑談をする場にもなっています。商品を購入する場としてではなく、ファン同士のコミュニティの交流の場所となっているのは、私としても嬉しいことです。

※別記事で取材したオードさんも、こちらの店舗の行きつけです → 「情報はオンラインだけでなく、コミュニティでも

Q:フランスにて、日本サブカルチャー関連の商品を販売する際に大切なことは?

一般的なマーケティングと同様で、やはりターゲットを定めて商品を販売することが大切だと考えます。販売する商品や価格帯の検討だけでなく、ECで入手できるかどうかも大きなポイントです。「amiami」(多言語対応された、日本のフィギュア販売サイト)のようなオンラインショップでフィギュアを直接購入できるため、店舗で購入する方も減ってきているのも事実です。これはフランスに限らず、全世界的に共通していることですね。

生活の中で使う商品に対しては、購入のハードルが低い

Q:売れている商品の特長を教えてください。

価格帯でみると、20ユーロを超えるものなると、反応が鈍くなるのを感じています。 20歳以上の人は40~70ユーロを購入金額の目安となっていますが、10代前半くらいの子達は20ユーロが上限です。

商品としては、普段の生活で利用する商品(衣類、日用品など)が売れることが多いと思います。

私の店では、生活の中で使える商品(Tシャツ、マグカップ、デスクランプ等)を多く提供しています。余程高価でなければ、フィギュアなどに比べ商品の回転は速いです。

デザインの面では、アニメ作品のキャラクターがデザインされた商品だけでなく、ゆるキャラなどの可愛い雰囲気を持つ商品も売れています。自分で使うためだけではなく、友人や家族など、日本アニメ好きな人へのギフトとしても購入される方もいます。

日本の漫画を扱う店では、大抵の場合フィギュアや雑貨類も取り扱っています。中には日本の工芸品や食品を扱い、日本文化を紹介するコンセプトのお店もあります。

各メディアで多く取り上げられる、コスプレ市場は小規模市場

Q:パリでもコスプレ関連のイベントが各地で開催されていますが、こうしたブームに関連した市場はありますか?

残念ながら、コスプレ関連の市場というのは、非常に小規模であると考えています。アニメキャラクターに扮するコスプレファンのほとんどは、オリジナルを出すためでもありますが、自分で衣装を作っています。言ってしまえば、生地や材料費、そして時間に費用を充てています。既製の衣装を買う人もいますが、イベントのためにしか着用しないため、当然安価なものを求める方が大半であって、高額な既製衣装を購入するのは特定のファンだけというのが、現状です。

テストマーケティングは、事前準備次第で成果が大きく変わる

Q:販売可能性を探るため、現地でテストマーケティングを実施することも有効な手段と考えられますが、いかがでしょうか。

テストマーケティングのサービスを、パリで既に提供している店舗が多くあります。店の売り場の一角に、テストマーケティング用のスペースを用意し、自社商品を試したい企業を募っていますね。

【参考記事】パリの漫画喫茶で探る、日本サブカルチャー市場のビジネスチャンス

販売店舗スタッフの協力依頼、価格調査、販促用ポップなど、考えるべきことは膨大

Q:テストマーケティングを成功させるためには、どのような注意点がありますか?

積極的な販促活動、そして反響を確かめることだと思います。テストマーケティングをしたい企業が、販売店に場所代を支払い、商品を置いてもらっていることが多いですが、一方店側にとっては、場所代さえ貰えれば、その商品を積極的に売り出すインセンティブ(意欲)が無くなってしまいます。

そのため、テストマーケティングを行う場合、販促などの事前準備がやはり重要となってきます。手に取られやすいための販促用のポップ(現地語へのネイティブ本訳は必須)や、店舗内の他製品と比べて異様に高額となっていないか、販促面や価格面において、短期間でも収穫できる情報は多いはずです。

店舗スタッフの協力を得ることも大きなポイントです。仮に期待していたほど売れなかった場合でも、商品に対する消費者の反応などを、店舗スタッフにヒアリングを依頼し、収集したデータを次に繋げることができます。こういった販促効果の反響をフィードバックすることが、重要です。

店舗のSNS等で、情報発信をしてもらうことも有効です。インターネットでの口コミ等の情報が広がると、消費者の購買意欲も高まります。

Hayaku Shopオーナーのコブ氏が現地視点で考える「テストマーケティングを行う際の注意点」

  • 価格設定  –店舗内の他商品に比べ、著しく価格差がないか-
  • 販促用のポップ作成 - 現地語で翻訳し、商品PR –
  • 価格帯別商品カテゴリー - 価格別の商品ラインアップを用意-
  • 店舗スタッフへの協力依頼 - 購入者の反応をフィードバック –

【店舗情報】HAYAKU SHOP

取扱商品:マンガ、フィギュア、衣類、雑貨類

住所:4 Rue Dante, 75005 Paris

URL : http://www.hayakushop.com/

(2018年取材時)