「海外をちょっとのぞき見コラム」は海外現地の最新状況やホットなトピックスをお伝えするコラム記事です。第24回目は、中国・上海にお住まいの丁アドバイザーに現地事情をお聞きしました。

※なお、このレポートは2022年6月時点の情報であり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。

2月末から新型コロナウイルス・オミクロン株の感染者が少しずつ発見されていた。3月5日前後に外国旅客の隔離指定場所である上海華亭ホテルを中心に旅客・スタッフ数十人の感染者が現れた以来、町の緊張感が上がっていた。3月28日からスタートの上海市ロックダウンに備えるための野菜争奪戦が1週間ほど継続していた。
4月の上海は、食糧調達困難に毎日1~2万人以上の感染者(無症状感染者含み)が現れ続きロックダウンが無期限に延長されていた事態の下、混乱とパニックを浴びていたものの、4月30日の感染者は初めて1万台割りの7,873人に至り、希望の光が見えてきた。
5月に入ると解禁に備えるための措置が多々報道されており、町の緊張感が明らかに緩和してきた。5月22日、一部の地下鉄が運行回復になり、6月1日から事務所のオフィスビルに戻れる様になった。ロックダウンの2ヶ月間、延べ50万人以上の医療員・ボランティアが現場で戦っていた、10万人以上の自動車ワーカーが工場で住み込んで働いていた、1万人以上のデリバリー配送員が家に帰れずにバイトしていた。

反省:「万一に備える」意識の薄さ、この中に商機も潜んでいるのか

上海にとって、この「人災」と呼ばれる非常識な2ヶ月間を通じて、反省すべき点は多々ある。
例えば、必要以上な頻度(2ヶ月間で15回以上に実施した場合がある)でPCR検査を実施する、PCR検査結果に拘り救命救急の体制がうまく回らない、スマホを上手く操作できない高齢者向けの食糧確保が出来ていない、無症状感染者を臨時施設に強制移送するための法的根拠がない、援助物質の配布における汚職腐敗、企業の事務所にあるインターネットバンキング用のUSBキーを取れないことで給与の支払いが延期になる、などの様な問題が深刻であった。
本質上、「何が足りない?何がダメだ?」の指摘に対し、やはり「万一に備えるための意識が薄いではないか」と考えられる。武漢という前例があったのにもかかわらず、対策や予備案を講じることができなかった。これは単なる誰かの問題ではなく、上海に住む2,300万人の共通問題でもあった。この問題を解決する過程において、色んな商機が潜んでいると思われる。

5月12日(ナースの日)浙江省救援隊の記念写真

変化:「団購」は急速な普及に、解禁後にもかかわらず

ロックダウンが解禁後、アンバランスな供給は回復する一方、市場の意識における変化が加速している。上海では、「遠くの親戚より近くの他人」という諺から生み出されたのは「団購」である。「団購」というのは、あるエリアにある人々の個人注文を集めて団体発注すること。バイヤーにとっては、集中購買によるコストメリットがあり、セラーにとっては、商品を纏めて輸送するコストメリットがある、そして「団長」(「団購」の発起人を指す)にとっては、コミッション(10~30%)をもらえるメリットがある、即ち「三方良し」なモデルである。ロックダウンによって「団購」が普及されている。今後、「団長」を副業もしくは本業として生きる者が増えるであろう。「団購」の連絡・決済プラットフォームとして、ウェイチャットが再び天下を取ることになろう。

「団購」でしか調達できないファーストフード

将来:14億人の大人市場が誕生か?

「コロナは消えない、コロナ前の世界には戻らない」、ロックダウンの上海を経験しなくても、この様に考えている中国人が増えるとともに、消費の動機が変わる。刺激を受けるための娯楽消費は抑えられ、貯蓄と自律を図る大人消費が台頭する。「Z」世帯の代わりに、「Y」世代か「X」世代が消費の中心になる傾向が予測されている。苦難な時代はこれからかもしれないが、大人しい生き方が必要となる危機感は、中国を進化させる。そして、やがて誕生する14億人の大人市場は、どんな日本企業にとっても魅力的な存在となろう。
6月1日、久しぶりに散歩に出かけた。商業施設のエアコンが2ヶ月間も停止したお陰かもしれないが、夏なのに涼しくて空気がきれいであった。ロックダウンはすべて悪い結果を招くわけではないことを実感できた。

6月1日(子供の日)、バンドで遊んでいた子供達

筆者紹介

丁 海聡 中小機構 中小企業アドバイザー(新市場開拓)

大学にて日本語を専攻・MBA取得。
メーカー、金融機関など日本企業の中国拠点で計15年間経験した後、日中における架け橋が今以上に必要とされていることに確信して、日本企業向けのコンサルティング・アドバイザリー事業とするコンサルティング会社、日本商品の卸売り・ECを事業とする販売会社の2社を立ち上げて経営している。

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