「海外をちょっとのぞき見コラム」は海外現地の最新状況やホットなトピックスをお伝えするコラム記事です。第16回目は、フィリピンにお住まいの澤田アドバイザーに現地事情をお聞きしました。
※なお、このレポートは2022年1月13日時点の情報であり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。
フィリピンはカトリック教徒が8割強を占めるため毎年、12月中旬から1月にかけてのクリスマス休暇が一年で最大の祝賀期間です。12月16日から9日間の「シンバン・ガビ」と呼ばれる早朝ミサが教会で行われ、周辺では「パロル」と呼ばれる星形ランタンが飾られ、温かいフィリピン風ホットケーキなどの屋台も出ます。また、会社や学校、住民自治組織、親戚や友人の家々などでクリスマスパーティーが連日行われ、警備員やお手伝いさん、会社の顧客やアパートの管理人らにプレゼントを渡すのもこの時期です。
「バーマンス」と呼ばれる~Berの付く9月から早くもモールなどでクリスマスソングが流れ、ツリーやサンタクロースの模型が飾られるなどクリスマス商戦が始まるのですが、2021年の9月頃は新型コロナウイルス感染が再拡大し、2年連続でクリスマスムードには程遠い状況でした。
政府タスクフォースで規制強化
というのも実は、フィリピンでは世界でもかなり厳しい防疫規制が敷かれてきました。コロナ禍が始まった2020年3月以降、新型感染症省庁間タスクフォース(IATF)と呼ばれる省庁を横断したコロナ対策の政策決定機関が設けられ、一番厳しい防疫強化地域(ECQ)など4段階の防疫措置を感染状況に応じて地域ごとに指定(2021年9月以降は警戒レベル制に移行)、軍や警察による検問所を設置し、首都圏と地方の移動を制限しました。最大11時間の夜間外出禁止令が敷かれ、公共交通が全面運休、食料品店や薬局等を除き小売業が営業制限されるなど経済活動が止まりました。
18歳未満の未成年者や65歳以上の高齢者も不要不急の外出が禁止され、マスクに加えフェイスシールドの着用も義務付けられました。この結果、政府統計庁の発表によると、2020年経済成長率がマイナス9.6%に。21年第2四半期に11.8%増とプラス成長に転じるまで5四半期連続でマイナス成長となったのです。
しかし、2021年9月でも一時2万人を超えていた1日の新規感染者数が、ワクチン接種の進展などで11月下旬以降は3桁台に減少、11月頃から映画館やスパなどの営業も再開、未成年者の外出やモール入場も認められるようになり経済活動の回復が顕著となりました。首都圏ではクリスマスパーティーもオンラインやオフラインで復活、日本人駐在員たちも12月には日本料理屋などで忘年会代わりの会食を行っていました。モールも12月に入るとコロナ前の客足になったと報じられ、2年ぶりにクリスマス本来の賑わいが戻ってきたのです。
治安と環境対策に力を入れた現政権
2016年に政権に就いたロドリゴ・ドゥテルテ大統領ですが、憲法で任期は1期6年と限られているため6月30日に退任します。彼は任期中に麻薬撲滅戦争とインフラ促進政策「ビルド(建設)・ビルド・ビルド」を推し進めました。麻薬戦争では6千人を超える容疑者が捜査中や超法規的に殺害されたため、人権侵害との批判も根強いですが、首都圏などで窃盗や強盗などの犯罪はかなり減ったと言われています。タクシーの運転手さんに治安状況などを尋ねると決まって「以前のように麻薬使用者によるタクシー強盗がかなり減った」と評価しています。ビジネス中心地のマカティ市でも商業施設やホテル周辺を夜中に歩いても安全になったと日本人駐在員もよく話しておられます。
また、現政権は環境対策にも力を入れました。環境天然資源大臣に著名な環境活動家や元国軍トップを起用し、鉱山開発の規制を強化。露天掘り鉱山の操業や新規開発事業を凍結しました(経済再建のため21年末までにこれら規制も撤廃)。さらに、世界的に有名なビーチリゾートのボラカイ島を視察した際、「海水が肥溜めのようだ」と水質汚染を問題視し、2018年4月から6カ月間にわたり入島禁止令を出すなどして同島の環境対策を強化しました。
一方、コロナ禍にもかかわらず2020年9月からマニラ湾再整備事業の一環としてセブ島からドロマイト(苦灰石または白雲石)と呼ばれる砂を運び込みマニラ湾沿いに人工ビーチの造成を始めました。近隣自治体での汚水処理施設も整備しており、今年中にはマニラ湾ビーチ沿いで海水浴できるレベルまで大腸菌群数を抑え込むという大胆な計画です。税金の無駄使い、セブ島の環境破壊につながる、などの批判もありますが、昨年10月に一時的に一般開放された時には数千人の見物人が長蛇の列を作るなど、マニラの観光名所になりそうです。
台風被災も助け合い精神発揮
しかし、2021年12月には変異種のオミクロン株の国内感染が判明、感染者数も再び増加傾向に。そして12月16日にスーパー台風オデット(台風22号)がミンダナオ地方東部に上陸し、セブ島などビサヤ地方を縦断、400人超の死者、50万戸の全壊・半壊家屋、100億ペソ超の農水産損害など甚大な被害をもたらしました。各地で停電が発生、セブでの電力完全回復は1月末までかかると言われています。真っ暗な避難所などで暮らす被災者も一時400万人を超えました。このような状況下、被災者に義援金やクリスマスのご馳走セットを送りたいという市民の申し出も殺到しているそうで、カトリック教徒たちの助け合い精神も発揮されています。
筆者紹介
澤田 公伸 中小機構 中小企業アドバイザー(新市場開拓)
マニラ首都圏在住。大学院でフィリピン専攻コースを終了後、大学で非常勤講師や司法通訳などを務めた後、1996年から首都圏にある邦字紙、まにら新聞の記者として働く。その後、2000年から新聞社のカルチャーセンターでフィリピン語講師も兼任。フィリピン語の文法書著作や英語作品の日本語訳にも従事。現在も同紙で嘱託記者・編集者として働く傍ら、日系企業向けなどの市場調査業務や通訳・翻訳業務、日本語・フィリピン語講師などとして、支援業務などを行う。
(撮影協力者:メデル・サブラヤ氏)
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