育毛効果のある天然成分(海草エキス含有)シャンプーを開発・販売しています。ドバイは中東地域での情報や流行の発信機能を有する都市であると聞きました。先日、旅行で立ち寄った際に、観察したところ、カッコいい髭をたくわえているアラブ人男性を大勢見かけましたが、洋装の(頭部を覆う民族衣装姿ではない)アラブ人を観察していた結果、頭髪が薄い人も結構いるとの印象を持ちました。わが社の育毛シャンプーはやや高価ですが、“育毛”の効用をアピールすれば薄い頭髪に悩む男性顧客を掴めるのではと想像します。輸出可能性を探り度のですが、どのように進めるべきでしょうか?

ドバイが消費財に関して、湾岸地域の流行・情報の発信地であるとのご認識は正しいと思います。又、競合品の少ないユニークな商品であれば価格だけの競争を強いられる市場でもないと思います。然し、次の3つの観点からクリアーすべきハードルはあり、事前の調査と検討はやや労力の要する作業かと思われます。
①「育毛効果」の訴求力と市場にアピールする方法
②「化粧品」に区分されるシャンプーのUAE(ドバイ)での輸入・販売に関する規制(効能の科学的根拠。ラベル上の効能表示の制限。)
③輸入・販売を行う現地代理店の起用
上記②③への対策に着手する以前に、先ず、「育毛効果」に対する現地の消費者の関心と反応を探ることが必要であろうと思われます。
以下に、それらの論点を補足します。

1.「育毛効果」の訴求力(=“薄毛”の受止め方の違い?⇒ 文化の違い)

(1)日本では近年、丸刈りやスキンヘッドにした若者を見る機会が以前より増えたが、これは美意識/お洒落に対する感覚が時代とともに変化していることの表れ。然し、アデランスやアートネイチャーが好業績を維持していることから、日本人男性にとっては、薄毛はまだコンプレックスを抱く原因の一つと思われる。
(2)これとは対照的に、アラブ男性にとっては、“髭が薄いこと”は深刻なコンプレックスの要因だが、頭髪の薄さは髭の薄さに比べてそれほど気に病むことではないように観察される。(勿論、個人差はあろうが。)その一例として、植毛治療技術が発達して居り、且つ、治療費も安いといわれる近隣のトルコは、アラブ諸国GCC諸国からも治療に訪れる男性は結構いるようである。しかし、植毛治療の対象は、頭髪よりは髭の方が格段に多いようである。
(3)アラブ・中東世界では伝統的に髭(特に、口ひげ)は、「男らしさ」「力強さ」「知性」「信心深さ」「より専門的」「より老練」「より賢明」「より信用できる」「権威的」といったイメージを生むようである。実際、アラブに赴任・派遣された外国人男性が、地元での仕事上、或いは、日常生活上で関係する人々の親近感や信用を勝ち取る為の一助にすべく、濃い口髭を生やした例は結構あるようである。画像・映像に登場するアラブ人男性の顔を思い浮かべると、ナセル大統領(エジプト)、フセイン国王(ヨルダン)、サッダーム・フセイン大統領(イラク)、サルマン国王(サウジ)、ムハンマド首長(ドバイ)等々、立派な口髭を蓄えている。
(4)一方、頭髪に関しては、例えば、サウジ・アラビアのムハンマド皇太子やジュベイル外相、UAEのムハンマド皇太子達は欧米訪問時などには、堂々と(?)薄毛の(或いは、生え際が大きく後退した)頭で要人との会談や国際会議に臨みメディアに登場しているし、その姿は実に様になっている。

2.現地での国際展示会訪問

(1)ドバイは中東地域では、最も見本市/展示会が盛んに開催されている都市であり、1年を通して、常になにかしら国際的な展示会が催されている。美容・化粧品分野では、“Beauty World Middle East”という大規模な展示会が毎年4-5月頃に開催されている。(2019年はApr.15-17の間開催)そこには、域内・外の化粧品・美容用品メーカー/サプライヤーが多数ブースを出展し、域内・外の業界関係者及び、一般消費者が多数参集する。
(2)前述の通り、「育毛効果のシャンプー」という商品の中東市場の受け止め方に就いては、輸入・販売手続の以前に調査し市場性を見極める必要があろう。その意味では、先ずは、同展示会を訪問し、その場で出展している業界の人間、或いは、消費者に本商品への興味の程を聴取し、出来るだけ多くの反応を収集することは、ある意味で、効率的な市場調査となりうることから一考に価しよう。

3.化粧品の輸入規制

(1)シャンプーは、UAEでは「化粧品/パーソナル・ケアー商品(人体の外的表面部に接触する形で用いられる製品)」に区分される故、輸入・販売に関しても、それら商品に関する規制が適用される。
(2)規制の骨子は、UAE規格度量衡庁(ESMA;Emirates Authority for Standardization & Metrology )への事前届出と適合性証明の取得が必要であり、又、含有成分に関しては国際香粧品協会の基準への準拠、ラベル/パッケージ表示に関しては、UAEの香粧品パッケージ・ラベル基準(UAE.S/GSO/ISO 22715)への準拠が必要である。
<参考>
GSO 01/DS 1943/ / 2014
JETRO  ※掲載当時のリンクが切れているため2019年版にリンク差し替え

4.UAE籍輸入販売代理店の起用

UAEで物品・サービスの販売を行うにはUAEに登録している法人であることが必要。従って、外国企業は、その為には、①UAE籍の企業を代理店として起用(注)し、同社を通じて販売する、か、②UAE籍企業とJ/Vを設立(注)しUAE法人として販売することになる。
上記2.に関しては、所管官庁へのコンタクトが不可欠となろう故、必要手続きをガイドしてくれるコンサルタント、或いは、弁護士を現地で起用するか、販売のパートナーなる現地企業を選定し、当該企業と手続きを進めることが近道であろう。
(注)「代理店起用」「J/V設立」に関しては、[中東ビジネスのヒント]第2回/ 第3回/第6回/第7回/第9回をご参照。

プロフィール

国際化支援アドバイザー(国際化支援)富山 保
総合商社に38年勤務し長年海外ビジネスに携わってきた。若い頃の会社派遣のアラビア語研修皮切りに、 合計約15年間の現地駐在経験(サウジアラビア・UAE等)を有する。