ドゥバイはUAEを構成する7首長国の内の一つです。購買力を測る一種の指標でもあるGDP/人は日本より高く(UAE全体で約36,000米㌦/人、2015年)、人口は250万人(2016)と、ほぼ名古屋程度の規模であり、中古車の大市場とはいえません。然し、ドゥバイは地域随一の中古車の中継貿易拠点として発展を遂げ、今日では、わが国中古車の最大の輸出仕向地(2016年実績;2位はミャンマー、3位はニュージーランド)となっています。
国内走行(消費)用ではありませんが、今後ともわが国から大量の中古車を輸入し続けると思われます。(尚、ドゥバイ内国向けの中古車の輸出の場合、右ハンドルは不可であり、GCCの排ガス規制をクリアーして置く必要があり事実上非常に限定的と思われる。)
フリーゾーン向けの“再輸出用日本製中古車”の輸出に関して以下に補足します。

〇 フリーゾーンの誕生

石油資源の乏しいドゥバイは、イランを含む近隣アラビア湾岸産油国の経済発展と人口増加の予想、及び、南西アジア/CIS諸国/MENA諸国/東アフリカ諸国等への地理的近さへの着眼から、「地域のビジネス・交易のハブ機能」を充実させることを将来的経済発展の戦略に据えた。
当時、まだバハレーンが中東地域の国際ビジネスセンターであった1985年、ドゥバイは「後背地がただの砂漠である無人の海岸」に、工業港とインフラ整備された区画を有するJubel Ali Free Zone(JAFZ:今日では、6000社以上が進出する南西アジア~MENA地域最大のフリーゾーン)を造成・開設した。
以後、国策として外国企業の投資誘致に努め、JAFZの発展を軸に経済を発展・拡大して来た。
90年代後半からは、「業種・産業分野特化型フリーゾーン」の設置(いわばフリーゾーンのクラスター戦略)をに注力し始め、今日では20数か所(=20数業界)を数えるまでに成長している。

〇 自動車専用フリーゾーンDUCAMZの開設と発展

(1)2000年には中古車再輸出専用フリーゾーンとしてDUCAMZ(Dubai Car & Automotive Zone)が開設され、2000年代半ばまでには、南西アジア~CIS~中東~アフリカ地域最大規模の中古車の中継貿易拠点に発展を遂げた。 (最大輸入元は日本であり、2000年代半ば~後半頃には、右ハンドルの日本車だけで、常時、35,000~40,000千台規模の在庫が存在していたといわれる。)
その背景として、以下が挙げられる。
① 従来は、東アフリカ/南西アジア/CIS等の市場からバイヤーが、遠路日本まで中古車を買付けに着ていたが、地理的に近いドゥバイに大規模な中古車市場が開設されたことで、DUCAMZで調達を行うようになったこと。
② ドゥバイの近隣には産油国を除き、前述の新興国は、高価な新車購入には手が届かず、中古車を選ばざるを得ぬ購買力の成長段階の市場が広がっていたこと。 特に、旧英領の東アフリカ諸国(ケニア、タンザニア、ウガンダ等)は、日本と同じく右ハンドル/左側走行の国々であり、そのまま走れる日本製中古車にとってはお誂え向きの主要再輸出先であったこと。
③ 又、ドゥバイには170社以上の船社が就航し、Dubai港/Jubel Ali港を合せると、年間15百万TEU(20フィート・コンテナ換算;2015年は世界第9位)にまで発展した「交易のハブ」機能が輸送・交通の利便性・優位性を高めたこと。 それら新興国市場はモータリゼーションに於いても、発展途上であり、今後、自動車の需要は着実に伸びて行くと思われ、(手の届く)日本製中古車の輸入は増大してゆくものと思われる。 従って、DUCAMZ向け再輸出用中古車の日本からの供給という意味では、引続き市場性はあると思われる。
(2)ドゥバイの発展に伴い、2000年代半ばから政府機関の統廃合・新設が随時行われ、現在は、港湾とフリーゾーン全体の世界戦略を司る政府機関Dubai Port Worldが設置され、傘下に特定産業/サービス分野毎に設立されたフリーゾーン を包括的に管理・監督する機関としてEconomic Zone World(EZW)が設置された。近年、自動車関連企業を広範に誘致し「地域の自動車産業の核となるフリーゾーン」への成長を目指し、Dubai Auto Zone (DAZ)が設立された。DUCAMSはDAZに統合され、歴史が古く管理運営機能が確立しているJAFZAがDAZの管理も行うとされる。このように、ドゥバイ政府も、「域内の自動車関連ビジネスのハブ」としてDAZ/DUCAMZの発展を重要視している。

〇 DUCAMZ向け輸出の留意点

ドゥバイ内国では、UAE資本51%以上でなければ会社を設立できないが、フリーゾーンであるDUCAMZでは、外資100%での設立が認められる。DUCAMZには2013年で600社以上の中古車ディーラー(企業)が集積して居り、パキスタン系、インド系、アフガニスタン系の経営に拠るディーラーが過半を占めていると言われる。それら出身国の商人は、価格志向が強く、タフなネゴシエーターとしても有名な商人達である。又、パキスタン系業者の中には日本に中古車買付事務所を置いているものや、買付代理人を有しているところもある模様。かれら相手に中古車の輸出を行う際には、いかに上質の中古車を低コストで調達でき、安定的に供給できるかが競争力を試される優位点となろう。
先ずは、DUCAMZを訪問し市場調査を行うことが必要であろう。

プロフィール

国際化支援アドバイザー(国際化支援)富山 保
総合商社に38年勤務し長年海外ビジネスに携わってきた。若い頃の会社派遣のアラビア語研修皮切りに、 合計約15年間の現地駐在経験(サウジアラビア・UAE等)を有する。