Figure 3. 日本産農林水産物輸入増加割合(前年比、農林水産省発表資料より算定)

「市場状況とトレンド」に引き続き、豪州およびニュージーランド市場動向調査についてご紹介します。

日本からの対豪品目別輸出傾向:食品において対前年で大きな輸出額の増がみられ、特に加工食品において安定した増加傾向、農林水産物を含めた輸出額の68.9%を占めている等(*3)、このカテゴリでの強い消費需要が伺える。日本農林水産省のデータによると、特に豪州の輸入増加傾向はAPAC主要各国と比較しても高く今後の成長ポテンシャルも高い市場という事が伺える(Figure 3)。品目別でみると、検疫の厳しさからか豪州、ニュージーランド共に他国と比較して水産物の輸入、流通量は少なく、調味料等の加工食品がメインとなっている(Figure 4)。上位品目としては、清涼飲料水、ソース混合調味料、アルコール飲料、醤油、ホタテ貝等が挙げられる。食品以外では、医薬品を含む化学製品で前年度比伸長がみられる(*2)。水産調整品を含む水産物(12.9%)については一定のシェアを保っているものの、過去数年の成長はみられない。

Figure 3. 日本産農林水産物輸入増加割合(前年比、農林水産省発表資料より算定)

Figure 3. 日本産農林水産物輸入増加割合(前年比、農林水産省発表資料より算定)

Figure 4. APEC主要国の品目別輸入傾向(農林水産省発表資料より)

Figure 4. APEC主要国の品目別輸入傾向(農林水産省発表資料より)

また、近年に輸入増加傾向にあるのは、米と日本酒が挙げられる。オーストラリア統計局発表データによれば、日本からの米の輸入額は2011年時点で537,000豪ドルで、これは2007年時と比較すると、約52%の増加となっている(*11)。背景としては、日本食レストランや、テイクアウト形式の巻寿司が昼食や軽食、ケータリングの定番メニューとして人気が出ている事や、グルテンフリーの食材として健康志向の食卓に取り入れられている事などが考えられる。日本食の人気に伴い、日本酒の人気が高まっている事を背景に、清酒の輸入量も年々増加傾向にある。日本酒や梅酒等は需要増加によって、購入できる種類や場所、日本酒に特化したBar形式の店等の出店等も増えてきている事も輸入量の増加に影響していると考えられる。
貿易や消費トレンドより、一般消費者に身近で市場ポテンシャルが高い飲食関連、化粧品を含む化粧雑貨分野においての消費力に注目して日本関連商品やサービスのトレンドを以下の項目にて纏める。

日本食、日本食品に関するトレンド

日本食レストラン

グルメブームや健康志向の高まりの中で、日本食はプレミアムダイニングから低価格ダイニングまで幅広いセグメントで豪州市場に受け入れられている。プレミアムダイニング市場では、多くの日本人シェフが経営するレストランが豪州で活況を呈している一方、過去数年は豪州現地の人気シェフやライフスタイルシーンをリードする現地の外食グループ会社が運営するレストランの中でも日本食をテーマとした店舗が増加しつつある。これらのレストランは、伝統的な日本食の食材や調理法は踏襲しつつも、「欧米人の欧米人による欧米人のための日本食」として、顧客層のほとんどをローカルの豪州人が占め、豪州のプレミアムダイニングシーンの中で高い人気と存在感を確立している。また、巻寿司やラーメン等は、手頃な値段や食べやすさ等で昼食の定番となりつつあり、寿司を代表とする日本食の高級なイメージから消費者層を広げるきっかけとなっている。

プレミアムダイニング

このカテゴリで多く見られるのは、完全な日本食形式ではなく西洋文化に慣れた消費者にも訴えやすい和洋折衷スタイルのメニューである。日本料理や食材といったエッセンスを取り入れる事が消費者にプレミア感や信頼を与える事ができる事、さらに欧米人にも食べやすいメニューを提案することがこういった形態のレストランの成功の鍵となっている。

Tetsuya’s http://tetsuyas.com
日本食のエッセンスを強調しながらも、本格的フレンチスタイルのメニューを提供。地元一般消費者のみならず、海外旅行者からの人気も高い。
NOBU http://www.noburestaurants.com/
世界的に有名な高級日本食レストラン。豪州ではメルボルン、パースに店舗があり、プレミアムレストランとして確固たる地位を保っている。こちらも和洋折衷スタイルのメニューを提供している。

ラーメン店

現地発祥のラーメン店をはじめ、日本の大手ラーメンチェーンの参入も盛んになってきている。シドニーやメルボルン等の都市部メインロードでは数多くのラーメン店が軒を連ねるだけでなく、都市部を外れた地域への出展や、ショッピングセンターのフードコートの定番店となりつつあるなど、今後も出店数鵜は増加すると考えられる。市場でのプレイヤー増加に伴い、現地オンラインメディア等でラーメンに特化した記事等が載ったりと、さらなるブームが期待できるカテゴリであるといえる。

現地メディア掲載例
Goodfood.com.au – 豪州最大メディアの一つであるFairfax社が持つ食関連メディア
Where to find Melbourne’s best ramen
http://www.goodfood.com.au/good-food/top-10-eat-out/where-to-find-melbournes-best-ramen-20150928-gjj8oz.html
Broadsheet Media – シドニー、メルボルンのレストラン、イベント情報発信中心のオンラインメディア
https://www.broadsheet.com.au/melbourne/food-and-drink/article/ode-ramenhttps://www.broadsheet.com.au/sydney/food-and-drink/article/ramen-o-san-opens
人気ラーメン店例
Ippudo Sydney http://ippudo.com.au/
日本の大手ラーメンチェーン。参入以来の人気を保っており、昼食時間や帰宅時間帯には行列ができる事も多々ある。価格帯は日本より若干高く、17~20豪ドルくらいとなっている。
Kokoro Melbourne http://kokororamen.com/
現地発祥のラーメン店でありながらも、麺の製造過程で日本製機械を利用する等して、本格的なラーメンを提供している。価格帯も日本に近く、11~18豪ドルとなっている。
テイクアウト形式の寿司店(主に巻寿司等)
路面店の他、フードコートやショッピングセンター内での定番店舗となっている。昼食時はもちろん、外出時や帰宅途中のちょっとした軽食として利用する消費者も多い。人気の背景としては、手軽さと価格の安さもあるが、油、塩分などが他のファストフード等と比べ、格段に少なくヘルシーな昼食オプションとして認識されている事が健康志向のトレンドとマッチしている事が考えられる。また、日本ではあまり見られない、稲荷を逆さまにして空いている口の部分に珍味系の具材を詰め込んだタイプの寿司も人気が出始めている。
HIRO Sushi Bar http://www.hirosushibar.com.au/
Westfield等メジャーなショッピングセンター中心に店舗展開を進めている。現地のイベントにて屋台を出店するなど、現地の消費者への認知度拡大にも力を入れている。
Sushi Hub http://sushihub.com.au/
都市部を中心に店舗を展開。先述のいなり寿司の導入などで人気を得ている。2015年以降地方にも積極的に店舗展開予定。

日本から豪州への輸出傾向

日本食材を専門に扱う小売店は多くはないが、アジア系食料品店でも現地一般消費者に人気のある品目の取扱いがある。キッコーマンの醤油など人気の高い商品はWoolworthやColesといった全国チェーンのスーパーマーケットでも容易に入手する事ができ、現地消費者への浸透度の高さが伺える。
日本食品専門の販売業者店頭の棚割りやウェブサイト等では、加工食品や菓子類が中心として扱われている事から、そのカテゴリの需要の高さが予想できる。

日本食材の主な販売業者

Maruyu Sydney https://www.facebook.com/maruyu.sydney
シドニー都市部で唯一の日本専門小売店。調味料、麺類等加工食品、菓子類等が中心。場所柄日本人のみでなく、オーストラリア人や現地在住のアジア人等の来店も多い。

Japan Mart http://japanmart.co.nz/
ニュージーランド国内で4店舗を展開。日本食材を使用したレシピを紹介するなど、日本食の需要喚起を積極的におこなっている。
NIPPON FOOD SUPPLIES http://www.nipponfoodsupplies.com.au/
卸、小売の両業態で実績のある業者。日本でも知名度の高いブランドの取扱いも多く、日本酒も取扱いがある。主な取扱いブランドは、ハウス食品、カルピス、ヤマサ等。
現地卸、小売店からのヒアリング
売れ筋のプロダクト、カテゴリ: 販売量ではテイクアウト店で使われる商材がメイン。主に魚型醤油、ミニわさび、海苔、寿司ソース(炙り用のソース)、マヨネーズ、ドレッシング、コンテイナー、巻き芯に使える揚げ物系(エビフライ、エビ天ぷら等)、握りに使える揚げ物系(エビフライ、握り用かき揚げ、野菜の天ぷら等)稲荷、軍艦の具材に使えるもの(珍味系)等
主な客層等:基本的には現地オーストラリア人をメインターゲットとする店が多いが、その場合は中身が分かる商品を提供しないとなかなか受け入れられない傾向がある。また、人口の多い中華系人種をターゲットしている店も多い。ムスリム信者が多いエリアでは日本食の浸透度が低い為、そういったエリアでの出店は望ましくない。
レストランの箇所で触れた低価格帯の店(ラーメン、テイクアウト寿司等)では、人件費の点から正式なシェフを雇用していない場合が多く、経験が浅いスタッフでも調理できる冷凍食品等の需要が増えている。

日本酒を含むアルコール飲料のトレンド

消費者のアルコール消費傾向の変化や日本食の普及により、近年豪州による日本酒の需要、人気が高まっている。豪州への清酒の輸出実績は数量、金額共に上位10カ国に入り、2010年から2015年の年間平均成長率は11.3%と安定した成長を見せている(*12)。高級な日本食レストラン等での消費が主であったが、最近では居酒屋スタイルの店やSake barなどが増加しており、日本酒を中心とした日本のアルコール飲料消費に拍車をかけていると思われる。また、外食での消費以外でも日本酒や梅酒を購入できる店舗やオンライン購入も増えており、自宅での消費も今後増加すると思われる。大手酒販売店のDan Murphy’sでも日本酒の取扱いがある事からも一定の需要がある事が伺える。
日本酒と比較して焼酎類は知名度、流通量共に低いものの、低炭水化物のアルコール飲料である点が市場のトレンドと一致する為、今後成長する可能性は十分あると考えられる。数は少ないものの、焼酎にフォーカスした居酒屋スタイルの店も存在する。

食品以外の日本関連のトレンド

化粧品、化粧雑貨、その他生活雑貨のトレンド
豪州最大都市であるシドニー市内においても、日本を含めたアジア各国の化粧品をメインに販売する業者が増加している。都市部の主要なエリアに店舗を構え、豪州の現地一般消費者の間でも認知が高まってきていると思われるが、比較的アジア系の人種が多いエリアでの出店傾向が高い。特にシドニー等の都市部ではアジア系移民、二世の人口が多い事がこういったトレンドに追い風を与えていると考えられる。販売形態は、店舗、オンライン等。
オンライン店舗では、ベストセラーとしてつけまつげ、フェイスマスクやパック、化粧水等が並んでいる。また、日本製品の信頼性の高さに後押しされ、おむつ等を筆頭に日本製のベビー用品等も人気がある。
販売業者例
BLUSH COSMETICS PTY. LTD
http://www.blushcosmetics.com.au/2008年創業、日本・韓国・台湾で若者に人気の化粧品を提供している。豪州は珍しく、店頭でお試しができる製品が多い事も売りにしている。シドニー市内で3店舗。 ネットショップ、Brush Me Upも運営。
MD Ranking by mdmall.com.au
http://www.mdmall.com.au/index.phpシドニー都市部のメインストリートであるジョージストリートに店舗を構えるが、ネットショップのmdmall.com.auがメインの販売形態。日本、韓国製の製品を中心に食品、化粧品、美容関連プロダクト等幅広く扱っているものの、ウェブサイトは中国語表記となっており、現地在住の中華系をメインターゲットとしている様子。

日本発ブランドの参入と現地の反応

過去数年で日本発ブランドの豪州主要都市への進出が多々見られる。特にDaiso, Uniqloは現地での認知度、人気共に急速に伸びている。衣料品については、成長は鈍化しているカテゴリとなるが、Uniqloは日本ブランドの高品質なイメージにより他アジア系服飾店とは一線を画したポジショニングを確立しており、幅広い消費者層に受け入れられている。 出店場所の傾向としては、比較的日本人、アジア人の居住者が多い場所からというパターンが見受けられるが、Uniqlo、MUJI等のすでに認知度が高いブランドについては、都市中心部からの出展戦略をとっている様子。近年に市場参入をした日本ブランドとしては2013年本格参入のMUJIを始め、眼鏡専門店のOWNDAYS、ROYCE Chocolate等がある。
日本発ブランドの例
Daiso
http://www.daisostore.com.au/グローバル展開を進める均一価格ショップ。2011年以降、豪州の主要都市で積極的な店舗展開を行い、順調にビジネス拡大を進めている。単一価格のディスカウントショップという位置づけながらも、日本ブランドの高品質訴求で差別化に成功している。食品、化粧品、生活雑貨等、カテゴリの品ぞろえが豊富な事から、売上が好調な事が推測できる。
ROYCE Chocolate
http://royceconfectusa.com/豪州での第一店舗を2015年にオープン。以前から訪日観光客を中心に人気があったため、日本の菓子メーカーとしては比較的認知度は高い。価格帯の高さが懸念点ではあるものの、立地の良さ等もあり現在のところ安定した人気を保っている様子。