ご相談:LED照明器具のメーカーです。新たにGCC 向けに弊社製品の輸出を検討しています。これまでも、弊社HPに対して、現地企業から時々引合が舞い込んで居り需要の存在は窺えますが、成約には至っていません。現地見本市で出会ったUAE国籍の“照明器具商社兼コンサルタント“(日本語がある程度できる)が弊社製品のGCCでの販売代理権を強く要請して来ています。これに対して、「(弊社製品に)『市場性あり』」との結論に至った場合には同社に販売代理権を付与する」ことを交換条件(前提条件)として、同社に無償の市場調査を依頼しようと考えます。調査期間中に同社が拾上げるスポットの商談には対応する積りであり、又、市場調査を通して弊社の将来の販売代理店としての適性・能力を見極める積りです。斯様な進め方で、現地販売代理店を選定することに就きご指摘・アドバイス等を頂き度。

(総論)GCC市場で物品を本格的にマーケティングする場合、現地籍の企業が輸入・販売・マーケティングの主体となることが殆どの国で求められます。これから輸出と現地での販売を開始されたいという段階ならば、最初は現地企業を販売代理店として起用しスタートされるのは、オーソドックスな方法であろうと思います。就いては、ご相談の内容を考える上での幾つかの視点を以下に整理したいと思います。

(1)出展した現地展示会の場で、現地の企業から「販売代理権付与」の強いアプローチを受けたという話はよく耳にする。これは、当該現地企業にとって「自社ビジネス発展の事業計画にフィットする商品故に、是非、取扱い度」という真摯な動機である場合は勿論あろう。他方、「“日本製”或いは、“日本ブランド(中国工場製であっても)”の商品の取扱権を入手すれば、それだけでも利益を得るソースとなる」との安易な思惑から熱意を表明する企業がいることも事実である。後者の企業を販売代理店として起用してしまった場合には、後に問題を抱えることになりかねない。
(2)後者のケースでは、以下のような思惑が存在し勝ち。
ア)プレミアムイメージが市場で確立している“日本品”を自社の取扱商品に加えることにより、自社イメージのアッフに繋がる。
イ)日本企業は概して販売代理店に対するケアーが厚い。例えば、指導教育・アフターサービス支援・広告宣伝援助等。
ウ)販売代理店に対する要求・締付けが欧米企業に比べ緩い。
エ)仮に、代理店契約終了や延長拒否の事態に遭遇しても、代理店保護法を盾に補償を勝取ることができる。要は、何もしなくても最後に損はしない。
(3)必ずしも、最初から、現地企業を全て(2)の目で見るべし、ということではなく、(2)も頭の隅に置いた上で、販売代理権を求めて来る現地企業に対しては、次の“5W2H”を慎重に精査し見極めることが重要。
即ち、
What : 貴社の何に強い関心を示し、何を売りたいのか?
Where: どこで販売したいのか? 得意市場は何処か?
Who: 誰が経営し(経営者の哲学・実績)、誰が販売する(販売部隊)のか?
Whom: どの市場の誰を対象としているのか?(強みを発揮できそうな顧客層は?)
When: どのような時間軸で販売活動を広げていく計画か?
How : どのような戦略・手法・チャネルでマーケティングしてゆくのか?
How much: どの位の市場でのポジショニング(競合品に対しての価格的位置)・どの程度の販売実績(金額)を目指しているのか?

2.販売代理店起用・設定の利点と制約

(1)日本人・日本企業が在GCC市場のユーザー/消費者向けに直接物品を継続的に輸出・販売して行くことは難しく、現地企業にマーケティングを託すことが現実的である。その際、GCC各国の法規制に沿えば、販売代理店を設定することが一般的である。
(2)適性・販売能力のある販売代理店を起用できれば、日常のコミュニケーション/月度報告書等を通じて、自社製品の販売・在庫状況/市場の動きや競合他社の活動状況/大口案件情報等の入手が容易になり、能動的な輸出戦略を策定しやすくなろう。
(3)反面、販売代理店の指導・教育・管理を弛まず実践して行く必要が生じるゆえ、本社側の業務量増加は不可避となろう。(これを怠れば、販売代理店は他の取扱商品の販売・業務によりエネルギーを注力させることになり兼ねず、日本側の思うように働かない販売代理店に育ってしまう恐れがある。)
(4)万一、販売代理店を起用しある程度時間が経過した後、日本側の理由で契約の停止・終了・更新拒否等の事態に陥った場合、一般的に、契約関係解消には多大な時間とエネルギー、更には、補償金の支払いを要する場合も多い。

3.無償の市場調査依頼に係る注意点

(1)通常、新規市場への参入を図る際の市場調査は、自社の人間を派遣して自ら行う場合と、調査会社・コンサルに委託する場合とがあろう。「自社の狙いに沿った疑問点を最大限洗い出す」という意味では、自社で行うべきであろう。然し、経費の制約/言葉の問題/社内の適任者の有無/現地アポの取付・ロジ確保等の観点から、第3社機関にアウトソースすることも選択肢であろう。
(2)いずれの選択であっても、時間と経費の掛かる作業ではある。ご相談のケースでは、取扱権取得を希望する現地企業に対して、「(市場調査の結果)将来、市場性があると判断された場合には、同社を販売代理店に起用する」という、(条件付の)”将来の報償”と引換に、無償で市場調査をさせようとしていると理解します。然し、アラブ人ビジネスマンの特性として、「余りに遠い将来の期待利益には反応しない」傾向が一般的にはあるので、市場調査期間は、長くても、数か月~1年未満が現実的であろうと思われる。
(3)この場合、どの程度の期間・密度の市場調査となるかにも拠るが、万一、「調査の結果、市場性ない」と判断し、「輸出・現地での販売は見送り」との結論に到った際には、同社が負担・支出した調査費用を請求される可能性が生じる。
(4)斯様な事態を避けるためには、(販売代理権付与を乞われている貴社の方が“売手市場”で、同社に対して優位であるという)貴社の立場を利用し、上手く同社を説得・納得せしめ、事前にその合意内容を覚書の形で残して置くことは不可欠であろう。その際、予め、貴社弁護士に、貴社が経費負担から免れ、且つ、下記4.(2)に触れるように、」同社が適格でないと判断された場合には、同社起用をも回避できるような内容に作成して貰うことが重要。(このような覚書の締結がなされていても、販売代理店に起用しなくなった場合には、揉める可能性はあるが。)

4.市場調査期間中の販売実績の効果

(1)ご相談の中に、「調査期間中に同社が拾上げるスポットの商談には対応」するとの言及がある。同社は、市場調査期間中に既存・潜在顧客にもコンタクトし、貴社との関係や貴社の製品に言及する場面もあろう故、引合に結びつく可能性があろう。
(2)期間中に少数のビジネスが実現したとしても例外的に(スポット・ベースで)成約したビジネスとの了解で済ますことが出来ようが、万一、販売実現の回数が積み上がるとすると、「これは、(代理店契約書は未締結だが)“実態として”同社が代理店としての機能を果たした結果のビジネスの成立である」と代理店関係成立と見做される可能性も無とはしない。
(3)この点、予め貴社弁護士に相談され、もし前述の懸念が拭えないようであれば、市場調査期間中は一切商談は受け付けないという姿勢を採られるべきであろう。

5.市場調査を通じた同社の適性・能力の判定

(1)もし、「市場性あり」との判定となった暁には、同社を販売代理店として起用する前提での市場調査である以上、市場調査の作業過程を通じて、同社の販売代理店としての適格性・能力を見極める努力を行うべきであろう。
(2)具体的には、上記3.(4)にある市場調査遂行に係る「覚書」に、同社からの月度の(或は、2週間ごとの)市場調査経過報告の提出を義務付けること。更には、2か月~3か月に一度は、貴社担当が、現地に赴き、同社に同行することで、次の諸点を実際に見定めることが出来よう。
①同社の本社、倉庫、ショールームへの訪問と評価
②同社経営陣/販売部隊との意見交換・情報交換、携えてきた質問事項に対する対応等を踏まえた、同社実力の評価
③同社の顧客(将来的には、貴社製品の潜在顧客)の訪問に同行し、同社の顧客への食込み度合、顧客からの受容度合、売込技術の巧拙度合等の観察と評価
④同社の事業計画の中に於ける、貴社製品の位置付けと、同社の既存商権との共存可能性、及び、貴社製品マーケティングへの配分業務量等に関する議論と評価
(3)上記(2)の結果、「(市場性とは別に)同社は貴社販売代理店として不適格、或いは、能力不足」と判断された場合には、市場性に対して否定的な結論を出し、販売代理権付与の道を一旦封じることで、貴社が不適格な現地企業に縛られぬよう留意すべきであろう。この点、上記3.(4)とも関連するので、併せ、貴社弁護士と十分に相談願い度。
(注)中東市場での販売代理店起用に関しては、[ 中東ビジネスのヒント ] 第3回、6回、7回でも触れているので、併せご参照下さい。

プロフィール

国際化支援アドバイザー(国際化支援)富山 保
総合商社に38年勤務し長年海外ビジネスに携わってきた。若い頃の会社派遣のアラビア語研修皮切りに、合計約15年間の現地駐在経験(サウジアラビア・UAE等)を有する。