「海外をちょっとのぞき見コラム」は海外現地の最新状況やホットなトピックスをお伝えするコラム記事です。第20回目は、ミャンマーにお住まいの西垣アドバイザーに現地事情をお聞きしました。

※なお、このレポートは2022年2月23日時点の情報であり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。

集団免疫達成!?ミャンマーにおけるコロナ感染状況について

2020年3月23日に国内初の新型コロナウィルス感染者が見つかり、翌日にはヤンゴン国際空港への国際旅客便の着陸禁止が発表され、そのまま22年2月末まで着陸禁止の延長が継続されています。(クーデターによって着陸禁止になっている訳ではありません。)
ミャンマー国内において厳しい感染症対策が成功していましたが、2021年6~8月にはコロナ第3波のデルタ株が猛威を振るい、弊社社員の8割以上が感染するなど、全国民が感染したのではないかというほどまん延しました。その後は、いわゆる集団免疫が達成されたのか21年9月頃にほぼ収束しました。ワクチン接種は政変で混乱はありましたが、中国製ワクチンのシノバックを中心に21年8月頃から再開され、現在は一部ブースター接種もはじまっています。そんな中、22年2月に入ってからオミクロン株がヤンゴンでもまん延、公表されている感染者数は少ないも、弊社社員では第3波並みの体調不良者が出ており、薬局では解熱剤、検査キッドが2月に入り品薄になっているようで、今回も全国民が感染するのではという勢いです。ただ、今回は前回と異なり、3日ほどで体調が戻ると社員らに恐怖感は少なく、ヤンゴン市内でもマスク着用者は半分ぐらいです。正式に検査する人が少ないようで、実態がわかりにくくなっていますが、今回のオミクロン株も前回のデルタ株同様に集団免疫が達成され3~4月には収まるのではという印象です。

2020年3月よりコロナ禍の影響で民間旅客機到着禁止が続くヤンゴン国際空港

報道では想像できない、政変後の企業活動・市民生活の実態とは?

ジェトロが政変から半年経過した2021年8月から9月にかけて在ミャンマー日系企業に実施した「2021年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」の調査結果は、ミャンマーにおける今後1~2年の事業展開については、「拡大」と回答した企業の割合が13.5%、「現状維持」が52.3%、「縮小」が27.5%、「第三国(地域)へ移転・撤退」は6.7%となっています。
日本での報道からは、「拡大」と回答する企業があるとは想像しにくいかもしれません。

13年ぶりに新規海外生産拠点を作ったトヨタ自動車は、昨年開業予定でしたが延期されているようです。同年には、スズキ自動車の新工場が開業し、トヨタ自動車と共に新車の一大生産拠点として期待されましたが、現在は規模を縮小して生産を行っています。ミャンマーは、国内消費力とインフラ整備がまだまだ十分ではなく、基幹産業が国内で育っていないため、資金回収まで時間がかかることを予め想定していることが、移転・撤退が少ない理由とも考えられます。

食品・生活雑貨などは政変に関係なくとも生きていく上では必要な生活必需品になり、関連する企業の業績は悪くないようです。購買の原資となっている一つは、海外出稼ぎ労働者からの仕送りが考えられます。隣国タイだけで300万人とも400万人とも言われており、例えばタイで働くミャンマー人が月1万円家族に仕送りすれば、毎月300億円~400億円が仕送り金額になります。日本に在住するミャンマー人は約3万人とも言われますが、一人5万円仕送りしたとすれば、日本からだけで毎月15億円のお金がミャンマーに残る家族らが生活するための消費に回っていると考えられます。

連日賑わう路上食品売り

連日賑わうタイ系食品卸スーパー

永遠のラストフロンティア!?今後の行方について

ミャンマーに駐在する日本人は、コロナ前には約4000人だったと言われていますが、コロナ感染拡大の影響もあり、300名程になった時期もありましたが、今は約1000名が駐在しているようです。政治的要因もありますが、コロナ禍によりオンラインを使った業務改革がすすみ、ミャンマー人スタッフに任せても業務に支障が出ないので日本人駐在員数を減らしたという企業の声も聞きます。また、弊社はミャンマー国内にて日系企業向けに人材紹介サービスを実施していますが、日本人駐在員が担当していた業務を任せられるミャンマー人を採用したいという依頼も増えています。ミャンマーに限りませんが、海外事業を担当する日本人の勤務スタイルが変わり、日本人駐在員を中心とした当地での事業は見直しが必要になるかもしれません。

ミャンマーに多く進出している縫製業務に関していえば、2021年2月の政変直後はそれまでミャンマー発注されたものはベトナムなど第三国へ発注先が変わる動きがありましたが、ベトナムも新型コロナウィルス感染拡大や経済発展による人件費等の上昇もあり、結局代替え地がなく、ミャンマーに発注が戻ってきているようです。
ミャンマーは、人口ボーナス期が2053年まで続くと言われており(ベトナムは2041年まで)、平均年齢27歳(ベトナムは31歳)という若さが最大の魅力と言われています。また、世界人口の95%、139か国を対象に行われた世界寄付指数において、2014年から2017年まで4年連続で1位になるほどの国民性。そしてGDP世界2位の中国と10年以内に日本を抜いて世界3位になると言われるインドに挟まれた立地。政変前のミャンマーは、これらの理由から経済発展のラストフロンティアとして世界的にも注目されていました。
縫製業務に限らず、結局のところ政変によって、若さや国民性、立地が変わることはなく、ミャンマーの代替地を見つけるのは困難で、それらの優位性は政治とは関係なく、普遍的に魅力があるもので、それが今も、そして今後もミャンマーは注目される理由なのではないでしょうか。

中断されているヤンゴン市内大規模複合再開発プロジェクト

筆者紹介

西垣 充 中小機構 中小企業アドバイザー

大手経営コンサルタント会社から、1996年4月に日系企業ヤンゴン事務所に転職。98年創業。以来一貫してヤンゴンにて活動。2009年から行っている視覚障害者支援活動でミャンマー政府より表彰。2018年アウンサンスーチー国家顧問来日の際は民間企業代表として総理公邸に招待されるなど、ミャンマーのために日々活動している。

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