「海外をちょっとのぞき見コラム」は海外現地の最新状況やホットなトピックスをお伝えするコラム記事です。第19回目は、ドイツにお住まいの児島アドバイザーに現地事情をお聞きしました。

※なお、このレポートは2022年1月25日時点の情報であり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。

誰もが予想しなかったコロナウィルスの世界的流行。ワクチン接種率70%超、マスク着用や検査テスト普及などの措置も抜かりないドイツですが、1月には感染者が過去最高を記録しました。
先月より規制が強化され、ドイツ全土で室内イベント会場、飲食店、スポーツ施設への入室は、テスト結果を保持したワクチン接種者と回復者に限られるようになりました(ワクチン3回接種者はテスト不要)。
フランクフルトで毎年2月に開催される「Ambiente」をはじめ、大規模見本市も見送りが続いており、2022年も依然としてビデオ会議や電話・メールを活用した遠隔営業が主軸となりそうです。また、会社勤務からホームオフィスへ、店頭購入からオンラインショッピングへといった切り替えはさらに加速していくと思われます。
そうした状況の中、ドイツ国民の購買行動はどのように変化してきたのでしょうか。コロナの影響も踏まえて、消費者の購買行動の変化やトレンドについてお話したいと思います。

コロナが追い風となり、ドイツでもオンラインショッピングが隆盛です。いわずと知れたAmazon、それに拮抗するebay,アパレル系のZalandoなど巨大ショッピングモールはさらに力を増しています。
なんでも屋のAmazonやebayに対し、手芸品・アート類に商品を絞っているEtsyは、日本での知名度はまだ低いようですが、欧米では人気の越境ECポータルです。

ドイツの街中を走る大手国際物流輸送サービスDHLのトラック

また、「体験を買う」とも言えるサービスも幅を利かせています。例えばベルリン発のHello Fresh社は、週に1回レシピと材料を宅配便で届けるサービスを提供し、2020年に売上過去最高を記録しましたし、Foodist社は、欧州の知られざる特産品を詰め合わせたお楽しみボックスを月に一回届けてくれます。ビフォー・コロナではありえなかったミシュラン星レストランの宅配サービスまでも見かけるようになりました。
旅行や外出を控えざるをえない分、消費者は単なるモノを入手する以上の体験をショッピングに求めているようです。インドア生活をより豊かにするサービスや、ゲームのような自宅で楽しめる商品は、これからも需要は伸びていくと思われます。

ドイツ国民らしい?微に入り細を穿ったシビアな“商品の通信簿”

ドイツ国民が商品選びに大いに活用しているのが、複数のメーカーの商品の価格や機能等を微に入り細に入り比較した検証結果です。
中でも王道なのは、消費者団体「Stiftung Warentest」が発行する、50年以上の歴史を誇る月刊専門誌「TEST」です。比較対象は食品、化粧品、電化製品と多岐に渡り、例えば食品なら重量当たりの価格、原材料の種類や含有量、添加物の有無、商品説明の正確さ・十分さ等々がシビアに検証され、0~5.5までの数字で総合判定が下されます。売れ筋かどうかは一切関係なく、特定のメーカーの宣伝性もないことから、ドイツ人が信頼を寄せている情報源のひとつです。
そのため、同誌で「Sehr gut(非常に良い)」の称号を勝ち取ったメーカーは、誇らしげに商品パッケージにシールを貼って高品質をアピールしています。

TEST誌と「Sehr Gut」のシールが貼られた商品パッケージ

このように市民の支持を得ているTEST誌の着目点や検証時のパラメーターは、ドイツで自社商品の強みを示すにあたって参考になるのではないでしょうか。

ドイツといえばオーガニック、日常に浸透するエコ思考

コロナの影響で健康への意識が更に高まったせいか、ビオ市場(オーガニック、有機製品)が勢いを伸ばしてます。ドイツオーガニック食品連盟によると、2020年、ビオ食料品の売り上げは22%上昇したそうです。
ビオ先進国ドイツでは、食料品から衛生用品、化粧品、衣類に至るまでビオ製品が日常生活に浸透しています。大手スーパーも年々ビオコーナーを拡大・充実させていますし、価格は一般の製品と大差ないものが多いです。
「denn’s bio」「Alnatura」などビオ専門店も各地にあり、日本企業最多のデュッセルドルフ市内のビオ専門店の数を調べてみたところ、30件超ありました。州都とはいえ人口64万人程度ですので(岡山県玉野市、青森県十和田市などと同等)、その多さがお判りになると思います。

デュッセルドルフ市のビオ専門店。ビオ製品を扱う一般の店も含めると相当な数に上る。

消費者の環境への意識の高さは、有料レジ袋や簡易包装にも見て取れます。スーパーの野菜・果実類は無包装で並んでいるものが多いですし、一切の包装を排除した「ゴミゼロスーパー(Zero-Waste-Supermärkte)」では、野菜・果実・ナッツ・パスタ類、油や歯磨き粉までも無包装で店頭に並びます。消費者は自ら瓶や袋を持参して詰めて持って帰るという仕組みです。

無包装でスーパーに並ぶ野菜類(写真撮影:Markus Spiske)

そのため、企業は環境への配慮に関するアピールを怠りません。ちなみに、こうしたエコ思考には動物福祉も含まれます(EUでは2009年より化粧品の動物実験が禁止されています)。
日本の包装はとても美しく洗練されていますが、こちらでは過剰包装、反エコとみられかねないことは念頭に置いておくといいかもしれません。

最後に

コロナの流行により、消費者の購買行動に根本的な変化がおきたというよりも、もともと存在していた傾向がより顕著になったように思います。ビオ市場の拡大からは、企業の環境への取り組みや製品の安全性が、これまで以上に重視されるようになったと言えるでしょう。
比較テスト専門誌「TEST」の例のように、数値をもって品質や安全性を証明できるデータは強みになりますが、正しい現地語でのマーケティング資料、EUの規則を遵守した仕様のWEBサイトなどが大前提であることは言うまでもありません。
以上、今回はドイツ国民の購買行動の特徴を簡単に紹介させて頂きました。自社商品がいかにしてドイツ国民の生活を豊かにできるのか? という視点から、改めて商品・サービスを見直して頂くきっかけとなれば幸いです。

筆者紹介

児島 阿佐美 中小機構 中小企業アドバイザー

2015年よりドイツ在住。デュッセルドルフ市の日系商社に勤務する傍ら、2020年よりドイツ人ビジネスパートナーとともに、欧州進出を図る日本中小企業を市場調査・マーケティング・営業面でサポートをしている。日本の大学卒業後、教職を経て、ブラジル・サンパウロで邦字新聞記者を4年経験し今に至る。今後はドイツに腰を据え、貿易を通して日欧の交流を盛んにしていく所存。

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