「海外をちょっとのぞき見コラム」は海外現地の最新状況やホットなトピックスをお伝えするコラム記事です。第17回目は、インドにお住まいの繁田アドバイザーに現地事情をお聞きしました。

※なお、このレポートは2022年1月18日時点の情報であり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。

厳しいロックダウンからの第三波への対応

日本で報道されるインドニュースといえばロックダウンの時期に外出した罰としてうさぎ跳びをさせられるとか1日40万人の感染者でインドは危ないとかどちらかといえばネガティブな報道が多いようだ。いまだその印象のままインドを見ている方々も多くいるが、昨年6月以降はずいぶん状況も変わってきている。感染がもっとも多かったころは検査陽性率も30%を超える水準で、検査をしに行くのも怖い状況があったが、昨年末には1%を切る水準となり、州を超えた移動も増え、そろそろワークフロムホームからオフィスへの完全復帰が近づくかという状況となった。

2020年3月のロックダウンでは厳しい外出禁止令が敷かれ、街中からは人気がなくなった。

第二波が落ち着き、2021年後半には人流も交通量も元通りになってきていた。

昨年末には国際線の定期便再開の見通しも立ちつつあった(現在インドでは国際定期便の運航は停止されており、臨時便のみの運航となっている)ものの、オミクロン株の出現によってまた感染が増加し、デリーやムンバイ等の大都市を中心に夜間や週末の外出規制などが発令されている。しかし、インドの人たちも随分とロックダウン慣れをしたところもあり、昨年の3月から4月頃にかけての感染増加時期とは異なりやや余裕を見せているような感じも受けている。加えてデリーに出されていた週末外出禁止令も1/27には解除され、再び平常活動に戻っていく道筋が見えだした。

デリーメトロの入場口の様子。マスク着用、検温、ワクチン証明書を提示すれば公共交通機関や商業施設は問題なく利用出来る。

デリー空港でアクリル板ごしに搭乗者情報を確認する警備員。COVIDの感染状況により国内線、国際線共に随時移動規制が変更されている。

2020年に行われた最初のロックダウンでは突然のロックダウンで必需品を入手することですら混乱をきたしていたが、長期に及ぶロックダウンや外出規制の繰り返しにより、多少の外出規制くらいでは生活にはあまり影響をきたさない環境が作られつつある。今では家にいながらもオンラインやデリバリーの活用であまり不自由なく暮らすことができる。

2020年3月のロックダウン直後は、サプライチェーンの混乱により食品などの必需品も棚から消えた。

回復する消費とデジタル化の促進

インドでは10月から11月頃にある祭事シーズンと12月頃から3月頃までの結婚式シーズンが消費が盛り上がるシーズンだが、2021年のフェスティバル商戦では過去10年のフェスティバル商戦の中でも最高の売上高を記録した。高級車カテゴリに入るBMWのセールスも2021年は過去10年で最高の売上を記録したという。さらにコロナ時代で家で過ごす時間が増えた影響で家のリノベーションや家で使う製品なども大きく伸びている。富裕層向けの高額な食器などを取り扱う店のオーナーからも2020年のコロナ禍でがくっと落ちた売り上げが昨年はもとに戻るどころか想定以上の売上で、アッパーミドルクラス以上の層を中心に「消費は完全に戻った」という声があった。特に海外旅行に行くことができなくなったことでそのための資金が高額品の購入や国内旅行に振り向けられてきている。

ヒンドゥー教の新年を祝う「ディワリ」から消費が盛り上がる。

イエナカ需要で、高級食器の需要も伸びているという。

ライフスタイルも徐々に変化を見せ、もともとオンライン活用が徐々に進んでいたところが一気にデジタル化も進んだ。以前はオンラインショッピングでも6割近くがキャッシュオンデリバリーと言われていたがスマホ決済などを中心にキャッシュレスが進み、ショッピングやデリバリーだけでなく血液検査や医者の診断など様々なサービスもオンライン化が進んできている。さらにはマッサージやエステのようなサービスもスマホで予約、自宅でサービスを受けるようなものも出てきている。

決済サービス大手Paytmはパパママストアや屋台にも浸透している。

パンデミックを機に、ヘルスケアやウェルネスといったサービスも気軽に自宅で受けられるようになった。

ポテンシャル市場インドの離陸も間近か

こう言ったデジタル化の恩恵を受けている人たちがいる一方でそれらのサービスを支えるために危険があったとしてもフィジカルに仕事をしなければいけない人たちもいる。逆に言えば、所得格差が大きいためにこういったデリバリー文化というものが浸透するという言い方もできるのかもしれない。

水、食料品、ガスといった生活に必要な物資は「エッセンシャル」としてロックダウン中にも営業が認められていた。

インドは人口は約13億3800万人で、世界3位のビリオネアを抱える国である一方、いまだ国民の6割近くは農村在住者である。一人当たりGDPも2000ドル弱(2020年)で消費が増えるといわれる3000ドル水準にはまだ満たない。ミドルクラス層が約1.5億世帯いる一方で1億世帯以上の貧困層も存在する。

5%に満たない富裕層向けの商売ともなるとターゲット人口は数千万人規模だが、圧倒的多数を占めるマス市場への展開を考えようとするときわめて価格センシティブなマーケットにチャレンジするということとなる。また、インドでは多くの人たちはショッピングモールやスーパーマーケットのようなところで買い物をするよりも伝統的なパパママストアでの購買も多いうえ、インド国内で人口10万人以上の都市は300近くもあるため配架をするのも簡単ではない。さらには様々な競合企業がすでに市場参入している。

モダンリテールも大都市にはあるものの、利用者は富裕層に限定される。

八百屋や乳製品などを扱うパパママストア。小売市場の8-9割を占めるとも言われている。

インドは人口が多いため潜在的な市場は大きいというのはよく言われることではあるが、地域や所得層によって好みも違えば財布の余力も異なるのでそれらを意識してどこにターゲットを定めるのか、どのように市場に入っていくのかを考えていく必要がある。インドの圧倒的多数の人口を目指して市場に入るというのも選択肢だし、割合からすれば少ない一方で数千万人の富裕層という限られたターゲットに向けて高額品を展開していくというのももちろん選択の一つになる。

2026年にはインドの一人当たりGDPも消費の高度化がはじまる3000ドル水準に達するともみられ「永遠のポテンシャル市場」と呼ばれた市場がそろそろ花開く時期が近づいてきているかもしれない。アセアン市場と比べて難易度が高いといわれる市場である一方で、消費ポテンシャルは高く、さらにはデジタル化の推進など社会構造も変化を見せつつあるインド市場へのチャレンジをもっと多くの日本企業が考えてもよいのではないかと思う。

筆者紹介

繁田 奈歩 中小機構 中小企業アドバイザー

愛知県生まれ。東京大学在学中の1995年にインドで旅行会社を立ち上げ。1999年にオンラインリサーチのベンチャー企業に参加、新規事業やオペレーション統括を担当し、同社の中国事業の立ち上げで上海に駐在。2006年、同社のヤフーグループ入りを機に独立し創業、日本企業のインド進出支援や事業開発に携わる。近年は大企業のインド進出支援だけでなく、スタートアップの経営にも参画し、インドの事業開発をハンズオンで行うモデルも手掛ける。

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