「海外をちょっとのぞき見コラム」は海外現地の最新状況やホットなトピックスをお伝えするコラム記事です。第14回目は、イギリスにお住まいの江口アドバイザーに現地事情をお聞きしました。

※なお、このレポートは2021年12月13日時点の情報であり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。

英国は、ワクチン接種の開始や水際対策、規制解除など、迅速かつ大胆なコロナ対策を採ってきました。12歳以上のワクチン接種率は1回81%、2回89%と高い水準を維持していますが、クリスマスが近づくこのタイミングでオミクロン株が発見され、緊張感が高まっています。
英国ではコロナのみならずブレグジットの余波も顕著になり、サプライチェーンにも影響が出ています。しかしながら日英関係にとってはブレグジットはプラスの面もあること、またウィズコロナも発想の転換によってはビジネス機会ともなりうることなどをお伝えしたいと思います。

迅速かつ大胆な、英国のコロナ対策

2020年3月にいち早くロックダウンを決行した英国。その後のワクチン接種や規制解除についても決断実行は大変迅速で、その結果、多くの国々が規制を残す中、7月19日に規制解除となりました。学校の夏休みと重なったこともあり、野外コンサートやスポーツ観戦など色々なイベントが一気に解禁に。ワクチン証明書やCOVID陰性証明が必要とはいえ、会場ではマスクなしの人がほとんど。「もうコロナは終わった」と錯覚しそうになるほど、コロナ禍前の「普通」の光景が戻った印象でした。

ロンドン地下鉄

ロンドン地下鉄内の張り紙。規制解除後は各社の判断に委ねられた。 ロンドン地下鉄内では乗客のマスク着用義務を継続している。

しかし新学期が始まった9月以降は小中高校生の感染者が急増、1日5万人を超える日が続きました。にもかかわらず政府は規制強化に乗り出さず、「重症者の割合が比較的少ない間は経済優先」という姿勢を貫きました。

英国経済は2020年に実質GDP成長率-9.9%と大きく落ち込んだ後、2021年第一四半期(前期比0.9%)第二四半期(同3.1%)第三四半期(同1.4%)まで持ち直していますが、国内経済の改善は引き続き喫緊の課題なのです。

ところが、11月にオミクロン株が発見されてからはさすがに水際対策を強化せざるをえませんでした。親戚・家族が集まり、食事とともに賑やかに祝うクリスマスは、イギリス人にとって1年で最も大切なイベントです。そのタイミングでの(再度の)ロックダウンはなんとしてでも避けたいという思いから、政府の対応に緊迫感がうかがえます。

クリスマス飾り

クリスマスがせまる街中の様子。クリスマスの飾り付けは例年通り行わている。 せめてこれだけは「普通」でという心意気が感じらる。

コロナ禍とブレグジット:日英間ビジネスにはプラスの側面も

英国がEUを離脱(ブレグジット)後、英国・EU間の通関手続の変更に加え、コロナの影響により港湾の従業員数が制限され、輸出入に時間がかかっていました。これに追い打ちをかけたのが、東欧からの移民労働者に依存してきた運送トラックドライバーの不足です。コロナで彼らが祖国に一時帰国した後、ブレグジットによる移民規制強化により英国に戻ってこられなくなってしまったのです。毎年子どもたちがお菓子をもらえるのを楽しみにしている街のサンタクロース達も、同影響で今年はなり手不足だそうです。

これらいわば「コロナとブレグジットのダブルパンチ」の影響は今年夏から秋にかけて顕著になりました。製造業のサプライチェーンにも影響があり、スーパーや量販店では入荷遅れによる品不足が発生しています。極め付けは9月末のガソリン不足。ガソリンスタンドは長蛇の列となり、どこならガソリンがあるかを友人と情報交換したのも記憶に新しいところです。

スーパーの棚

スーパーの棚に置かれた品切れのお詫び。 「コロナとブレグジットのダブルパンチ」の影響は身近なところでも感じられた。

このように見ていくと2016年の国民投票を経て決定したブレグジットはコロナ禍とあいまってマイナスばかりもたらしたようにお感じかもしれませんが、日英関係においてはそうばかりではありません。英国はブレグジットを機にあらためて日本との関係強化に乗り出しています。今年1月1日にはブレグジット後最初の主要国との自由貿易協定となる「日英EPA」が発効、英国内でも大きく取り上げられました。英国はさらにアジア地域との関係強化にも積極的で、今年2月からのCPTPP (TPP11)への加盟も正式表明しています。

オンライン化の流れが日英間ビジネスの追い風に

英国では例えば企業や個人のオンライン納税がごく当たり前などコロナ禍前からデジタル化が進んでおり、テレワークを許容しない企業は良い人材の獲得が難しいとも言われていました。このためロックダウン下での在宅勤務移行は思いのほかスムーズ、政府から企業への支援金も申請手続不要でスピーディに自動給付されました。

英国で今後も続くとされる新しい日常(ニューノーマル)においては、全従業員が週5日オフィスに通勤するという勤務スタイルはほぼなくなり、週最大2、3日の出勤を想定する企業・組織が大半です。対面での初回打ち合わせ、メールでのフォローアップ、その次のステップは再度訪問で、という従来のグローバルビジネスのスタイルは、多くがすでにZoom やTeamsなどのオンライン会議システムを活用したやりとりに代替されてきています。実際、先日英国企業への投資を決定した日本企業数社にお聞きしたところ、デューディリジェンスなど投資決定までのプロセスは全てオンライン、英国訪問は一度もなしだったそうです。

この流れは日本企業にとって地理的制約なしにビジネスを展開できる大きなチャンスととらえられるでしょう。コロナ禍を逆手にとった日英間ビジネスの一層の活性化と発展が今後期待されます。

筆者紹介

江口・ベイコン昌子 中小機構 中小企業アドバイザー(新市場開拓)

過去30年に渡り日本と米国、アジア、欧州間の国際ビジネス設立にたずさわる。米国企業日本代表を務めた後2002年に渡英、同社の英国・欧州オペレーションを担当。2010年にオーシャンブリッジ・マネジメント(OBM)を設立し、主に日英・日欧間のビジネス設立、投資案件調査、地域連携などを支援する。英国テムズバレー商工会議所ジャパン・デスク代表、JETRO Londonエネルギー分野コーディネーターの他、複数のスタートアップアクセラレーターにてアドバイザーを務める。

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