「海外をちょっとのぞき見コラム」は海外現地の最新状況やホットなトピックスをお伝えするコラム記事です。第3回目は、ベトナム・ホーチミン市にお住いの桜場アドバイザーに“コロナと日経企業の進出状況”をお聞きしました。

コロナ状況

ベトナムは、旧正月休みに入った1月23日に国内で初の新型コロナウイルス感染者が発見された。このニュースは、多くのベトナム人の関心を集めていたが、まだ患者数はそれほど拡大しておらず、在住日本人は、どちらかというとまだ対岸の火事といった様子であった。

その後、ベトナム政府は、旧正月明けからの学校機関の閉鎖を決めた。このとき私の上の娘は小学校1年生で、下の娘は幼稚園の年長だったが、正直に言って、個人的にはベトナム政府は過剰反応しすぎではないかという見方をしていた。2月26日に感染者全員が退院をし、状況が変わるかに思われたが、3月9日に新たに15人の感染者が発見されたことで、事態は急速に緊迫するようになった。

ベトナムは2003年のSARSの流行も経験している。その際、ベトナムは、日本やフランスなどの協力を得ながら、徹底的な隔離と換気対策で、世界で最も早くSARSの制圧に成功した経験がある。

【注】*[1]ベトナムでのSARSの状況(IDSC)
今回の新型コロナに関してもベトナム政府の対応は早く徹底していた。

3月22日には全外国人の入国を一時停止、4月1日からは、社会隔離措置として、市民の外出や商店の営業を制限した。但し企業や工場に対しては、感染対策を実施し感染者を出さないことを条件に営業を認めるなど、経済的な面への配慮ものぞかせていた。 社会隔離期間は、3週間で解除され、その後は、徐々に元の生活に戻っていった。このときベトナムは、感染者数を抑え、死者を一人も出さなかったことから、世界でもその対策が注目を集めた。

しかし、約3ヶ月後に、中部の主要都市であるダナン市で90日ぶりの市中感染者が発見されたことで、再度ベトナム国内に緊張が走った。この時も2週間以内にダナンを訪れたことのある人間を洗い出して、検査・隔離を徹底しダナン市には、社会隔離措置が適用された。ホーチミン市やハノイ市などの主要都市への感染拡大が危惧されたが、今回も抑え込みに成功し、新型コロナによる死者は出たものの、9月以降は、ほぼ通常の状態にまで戻っている。

製造業の対策と実情

コロナの影響は、当然製造業にも及んだ。

4月の社会隔離期間には、ベトナム政府は、コロナ感染対策を十分に実施したうえで有れば、工場の稼働を認めるとしたが、一方で、各地方自治体を通じて企業に、工場内でクラスターを発生させた場合は、社長がベトナムの法律の下に全責任を負うという誓約書の提出を要求したり、政府の指標に基づいて工場のコロナ対策状況を監査し、点数評価によって操業停止までの措置を講じるとした。

このため、多くの日系企業では、少なくとも感染防止対策として、出社時の検温、消毒液の設置、マスク着用、ソーシャルディスタンスの確保などを実施した。

幸いにも、第一波、第二波とも、日系企業で感染者が広がるという事態は回避できたが、逆にもし感染者を出した場合どのような罰則を受けるかなどは不透明な部分も多く不安が残る。

受注に関しては、製造業は、通常数か月から半年以上先の仕事を受注しているため、すぐに仕事が激減したという話は、それほど聞かないが、この状況が長く続けば困難な状況に陥るとみている関係者は多い。

また、もう一つの大きな問題は、入国制限である。機械を扱える中国人エンジニアが入国できなくなったために、事実上、操業停止となった企業や、新たに導入した機械のセットアップをする技術者が入国できず事業が進められないといった話も聞かれた。また、帰任予定者も帰国できず、新規赴任予定者も赴任できない状態が続き、企業の事業活動に支障をきたしているケースもでている。

入国制限に関しては、徐々に規制が解除されてきており、現状ビジネス目的で14日間の隔離を前提とした場合、入国許可申請を経て入国できるようになってきている。隔離期間については、短縮するという話も出ているが、具体的な条件や手続きは明確にされておらず、一般企業の出張者が短期出張のために隔離無しで入国できるようになるには、まだ時間がかかりそうだ。

商談会、展示会、ビジネスマッチングなどのイベントも軒並み中止や延期となっており、中にはオンラインという形で継続しているものもあるが、この様なイベントも海外との往来が自由化されないと以前のような形での開催は難しいと思われる。

日系企業の進出状況

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ユニクロ・パークソン店

さて、その様な状況のベトナムではあるが、実は日本の有名企業の進出が最近増えている。

2019年12月にユニクロは、ベトナム最大の商業都市であるホーチミン市に第1号店をオープンさせ、その後2020年3月には、首都のハノイ市に2号店がオープン、6月には、ホーチミン市に3号店がオープンした。1号店のオープン時には、店の前に長蛇の列ができるなど、ベトナムでもユニクロ人気は健在のようだ。

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マツモトキヨシ・ビンコムセンター店

他にも、日本で有名なチェーン店でいえば、丸亀製麺、カプリチョーザ、すき屋、吉野家、一風堂、coco壱番屋などの飲食店が進出してきており、更に、マツモトキヨシや無印良品も2020年中のオープン予定になっている。

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無印良品・パークソン店

こういった日本のチェーン店は、ホーチミン市に第1号店を出店することが多く、日系のコンビニも今のところはホーチミン市のみの出展が殆どだ。

コロナの影響で、世界経済は、厳しい状況が続いているが、コロナ感染拡大を抑止し、世界でも稀なプラス成長を続けるベトナムに対して、日系企業の期待の大きさを感じる。

ベトナムは親日家も多く、日越間は人的交流も盛んである。菅首相も初めての外遊先にベトナムを選ぶなど、今後も日越間の友好関係は継続していく気配だ。

※掲載内容は2020年10月28日時点情報です。

筆者紹介

桜場 伸介 中小機構 国際化支援アドバイザー

1999年からベトナム・ホーチミン市に住んでおり、ベトナム人と結婚し、6歳と8歳の娘と日々楽しくも厳しいベトナムライフを過ごす日々。現地の設計会社やコンサルティング会社勤務を経て、2009年に独立。日本企業のベトナム進出サポートとして、市場調査、会社設立、工業団地紹介、翻訳・通訳などの業務を行っている。

また、ベトナムで初の日系ビジネス情報誌を2010年1月から発行。現地の日本人ビジネスマンに、ベトナム情報を伝え、日越の懸け橋となるべく奮闘中。2020年からオンライン版もスタートしており、日本でも現地の最新のベトナム情報が入手可能になった。

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