日本のアニメ、漫画、フィギュアなどのサブカルチャーと呼ばれる市場は、日本国内に限らず世界中で広まっています。
今回、日本サブカルチャー市場が、海外現地にてどのように浸透しているか、そして市場のビジネスチャンスのヒントを探るため、ヨーロッパ随一の大型サブカルチャーイベントのオーガナイザー、ローレント氏にインタビューを実施しました。

なおこのレポートは2018年に執筆されたものであり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。

主催者

主催者 CEO/Laurent Tanguy(ローレント タング)さん

私たちは、創造性を持ち、常に新しいもの提供することで、来場者の好奇心と情熱を刺激することが大事であると考えています。

Q:Paris Manga とは?

2006年に始まったパリで開催される日本アニメ文化を中心とした大規模イベント、Paris Manga(以下、パリ・マンガ)。元々は、1600平方メートルのスペース、約5000人程度の来場者という、小規模な形式でスタートしました。年々規模を拡大し、現在は、日本でもニュース等で取り扱われることの多い「Japan Expo(ジャパン・エキスポ)」に次ぐ規模のイベントになっています。期間中は、日本からも漫画家等の有名人をゲストとして呼び、ステージイベントを実施。2万2000平方メートルの展示スペースがあり、年2回のイベントには各約7万人が来場しています。

Q:ずばり、パリ・マンガの特長とは?

私たちがパリ・マンガを創った当初は漫画だけにフォーカスしていました。しかし、フランスで漫画を好む人は、日本文化の他にも、アメコミや、韓流ドラマ、SF映画なども好きな層が多く見受けられます。パリ・マンガでは、日本文化だけでなく、そういったコンテンツをも取り扱っているため、様々な好みをもつ層からも支持を受けています。

ファミリーで楽しめる展示会

Q:ヨーロッパ最大の日本文化イベントである、「ジャパン・エキスポ」と比較されることは?

ジャパン・エキスポは比較的年齢層が若い人達が楽しめるイベントですが、パリ・マンガはファミリー向けのイベントであると考えています。最近流行しているものだけでなく、過去の漫画や関連グッズを見つけることができ、家族全員で楽しむことができます。

マンガイベント

「パリ・マンガ」のイベント風景

古いものを大切にするフランスの価値観

Q:フランスでは、流行作品以外にも過去作品のファンになる方が多いと聞きます。

フランス人は古い物を大切にします。それは伝統的な建造物だけでなく、その他の文化も同様です。フランスをはじめヨーロッパに未上陸の最新アニメ・漫画関連商品も扱っていますが、80年代~90年代の作品から、ワンピース、ナルトなどの比較的新しい作品も、同じ規模で宣伝していることが多いのは、そういった国民性が背景にあります。

Q:パリ・マンガにはどのような日本文化関連ブースがありますか?

日本のアニメや漫画関連のフィギュア、アパレル製品や、作品内で登場する日本刀(模造刀)のブースがあります。その他、伝統的な日本の工芸品や着物を扱うブース等、日本の文化に関連するブースもあります。残念ながら、日本からの出展者はわずかですが、今後は増やしていきたいと考えています。

パリ・マンガは、価格を抑えた出店費用※、国内外への宣伝活動を評価されています。

※ジャパン・エキスポの1平方メートルあたりの平均価格は税込256.8ユーロ。パリ・マンガの平均価格税込180〜203.57ユーロ/1平方メートル。 (2019年の両イベントに関する公式パンフレットからの情報)

イベントには、消費者を刺激する商品を

Q:今後、どのような出展者を望んでいますか?

フランスでは手に入らないような新製品で、オタク層を刺激してくれるような出展者は、SNS等での波及により開催前から大変話題になります。特にフランスの日本サブカルチャーファンは、日本の製品やサービスをよく理解しています。また、フランス国内における商品の流通状況も熟知していて、普段出回ることのない商品など、レアな商品に対する反応は非常に高いです。

Q:昨今のフランス国内におけるトレンドを教えてください。

人気のあるアニメや漫画関連の商品については、既にヨーロッパの代理店を通じて販売していることがよくありますが、近年、人気もやや飽和状態です。アニメ、漫画、フィギュア等のサブカルチャー市場に限った話ではないですが、消費者は、切り口を変えた新しい商品、サービスを待ち望んでいます。私自身、日本企業が積極的にヨーロッパを市場としたビジネスを展開してくれることを期待している身のひとりです。我々のイベントにも出展いただき、チャンスを掴んでほしいと思っています。

出展前、期間中、出展後一貫した戦略が必要

Q:海外イベントに出展する日本企業に何かアドバイスはありますか?

どんなイベントでもブースを持つことだけでは成果をあげることは難しいでしょう。出展する前、期間中、アフターフォローの必要があり、その後のコミュニケーションが重要です。初めて出店される方は、この重要性をしっかり把握されずに、成果不足になることが多いです。そしてその後、各イベントへの出展に消極的になってしまいます。

また、いわゆる“オタク”と呼ばれることが多い日本サブカルチャーファンといっても、長年のファンから、最近ファンになった層など、色々な方がいます。ターゲットを意識した商品、PR戦略も重要と思います。

オタク層には3種類ある

Q:ヨーロッパにおける、いわゆる”オタク”には、どんな特徴があると思いますか?

常日頃から、私たちがマーケティングする際、顧客層を3種類に分けて考えています。

ひとつは、「ライト層」という顧客層。アニメやマンガにある程度興味があるが、関連商品の購入頻度はさほど高くない方々です。そして、「コア層」。昔からのファンで、関連商品の購買意欲が非常に高い方々です。最後に、ライト層ではあるが、と高所得者層でもある顧客層です。こちらは、ライト層ではあるが、「オタク」関連商品に限らず自分が好きなものを見つけた場合には、購入できる収入がある層と考えています。

Q:フランスを中心としたヨーロッパにおける、日本サブカルチャーファンの層について

  • “コア層” 往年の日本アニメ、漫画等のファン
  • “ライト層” 趣味のひとつとして、日本アニメ、漫画等を楽しむ。
  • “ライト層×高所得者層” 希少価値の高い商品、高品質な商品への購買意欲が高い。

顧客との対話

正しいマーケティング戦略を行えば、各ターゲット獲得にチャンスがあると思います。

例えば、多くの人に商品を販売したい場合は、有名なキャラクターを製品化した方が良いでしょう。いわゆる「ライト層」は、普段から利用する衣服や日用品など、有名キャラクターがデザインされた商品を購入することに対してはハードルが低く、一方「コア層」は希少なフィギュア等の商品を購入することを厭わない傾向があります。日本アニメ系の商品にはあまり見られないですが、アメコミ系キャラクターのブランドは、日用品から食品パッケージに至るまで多くの業界とコラボレーションし、 消費者の購買傾向を掴んだうえで、ライト層をメインターゲットとした商品もラインアップしています。

国外におけるマーケティングにおいては、自分たちの売りたいもの、消費者が欲しいもののギャップを感じることが多いでしょう。大事なことは、販売したい商品について、ターゲットとしたい顧客を想定し、試行錯誤を繰り返しながら対話をしていくことです。