株式会社オージュ・コンサルティングは2013年設立のプロモーションを専門とするコンサルティング会社です。企業の強みを引き出し、整理し、形にしていくことを得意とし、コンセプトの策定から、Webや印刷物をはじめとしたプロモーションツールの制作まで行っています。ストーリーのある企業のプロモーションを多く行っています。 「立川市プレミアム婚姻届」プロモーションほか、製造業、農業、飲食業等の分野にて実績多数。

【インテリアオブジェとして新しい境地を開くけん玉メーカーの海外販路開拓】

今や世界的なブームとなったけん玉(KENDAMA)。数あるけん玉メーカーの中でも、世界中のプレイヤーやファンをひきつけてやまない夢元無双(MUGENMUSOU)というブランドがあるのをご存知でしょうか?

木材選びから長期間の乾燥、均等なフォルムと美しい塗装…徹底したものづくりにより高い評価を受けてきた夢元無双。1万円以上のものが多くを占めるなどけん玉としては高価格帯ながら、世界中から注文が殺到しています。
その夢元無双が、「スポーツけん玉」としてではなく、「オブジェ」の枠組みでパリの見本市メゾン・エ・オブジェに登場しました。

現在、ヨーロッパで2店舗、香港・台湾で3店舗に常設されるのみならず、有名家具メーカーのカッシーナがインテリアオブジェとしてけん玉を展示したり、有名時計メーカーのフランクミュラーとコラボレーションするなど、けん玉のイメージを一新するような取り組みを次々に進める夢元無双。

夢元無双のブランドオーナーであり総合プロデューサーでもある、株式会社イワタ木工の若き創業社長、岩田知真さんにインタビューしました。

【インタビュー・執筆 大森渚(株式会社オージュ・コンサルティング)】

小学生で木工デビュー、高校生の時は製品づくりまで

ーお父様も木工の会社を経営していらっしゃると伺いました。

岩田さん 私が小学校4年生の時に、父が木工業で起業しました。その時から、土日・夏休みはずっと父の工場で手伝いをしていたんですよ。  小学校5年生の時は穴あけ加工ができるようになって、中学生ぐらいになるとろくろ加工をするようになっていました。高校生の時はもう製品まで作っていましたね。

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代表取締役 岩田知真さん

ー子どもの頃から木工の修行をしていたわけですね。なぜけん玉作りをしようと考えられたのでしょう?

岩田さん 廿日市はけん玉の町として有名なのですが、大学3年生の時に市からけん玉を作る会社が無くなったので作ってくれないかと言われたんです。今どきはテレビゲームなどもあるので、今更けん玉を作っても売れないんじゃないかと思ったのですが、けん玉をやっている子どもたちを見ているととても集中力が高いんですよね。それに、地域の産業のためにもなるんではないかと思いました。そのようなことが私の心に響いて、ぜひけん玉をやってみたいと思ったんです。

精度や加工を極めて、世界のプレイヤーが認めるけん玉に。

ー今、夢元無双さんのけん玉は世界中のけん玉ファンが愛用していますね。製品としてこだわっていることは何でしょうか?

岩田さん それを語り始めると3時間ぐらいかかってしまいそうですね(笑)。パフォーマンス用のけん玉としては、強度や精度がとても大切ですので、その点が評価されていると思います。潰れやすいけん先を取り替えられるようにする技術を開発したり、精度をプラスマイナス0.2ミリの中に収める努力をしています。加工に関してもこだわっていますね。仕上げに関しても、削りに関しても。例えば、削る刃物一つとっても、切れの悪い刃物で削ると、木材に当たってしまったり、削りが粗くなってしまったりします。工具の手入れが行き届くように社員にもいつも徹底しています。

▲プラスマイナス0.2mm以内の精度で「伝説のけん玉」と呼ばれた「夢元」。

▲プラスマイナス0.2mm以内の精度で「伝説のけん玉」と呼ばれた「夢元」。

▲海外のコレクターのけん玉。

▲海外のコレクターのけん玉。

けん玉の造形美をインテリアオブジェへと昇華。

ーパフォーマンス用のけん玉で知られている夢元無双さんですが、メゾン・エ・オブジェではインテリアとして飾るけん玉を展示されていました。この狙いは何なのでしょうか?

岩田さん 私たちはけん玉を作っていてけん玉の良さをよく知っているので、けん玉というものをもう一段階上に上げたかったんです。例えば、高級なゴルフクラブやチェス盤を実際に使わなくてもインテリアとして飾っている人がいますよね。それは、造形的な美しさや背景にある歴史を認めているからだと思います。そういうものとしてけん玉を認めてもらうには、スポーツけん玉だけではなく、インテリアとしてのけん玉を提案していく必要があると思いました。

もともと、私たちは使った後にポンっとおもちゃ箱に投げられてしまうようなけん玉は作りたくなかったんです。おもちゃ箱にしまわれてしまったら、次に日の目を見るまでに時間がかかってしまいます。そうではなくて、飾っていても美しい、使っているものに愛着が湧いて、そのディテールや機能美、木目などの素材の美しさを楽しめるようなものが必要だと思ったんです。

▲メゾン・エ・オブジェではインテリアのオブジェとしてのけん玉を提案。

▲メゾン・エ・オブジェではインテリアのオブジェとしてのけん玉を提案。

ーどのようにして、けん玉をオブジェとして売るという発想に至ったのでしょうか?

岩田さん けん玉というものはろくろで作っているので、造形としては彫刻に近いんですよ。球体のまるさや凹凸、光と影の感覚がけん玉の造形の中にある。あとは、フラワーベースなどですと3つ4つ組み合わせると色々な表現ができますが、1つだけですとポンっと置くしかありません。でも、けん玉はけんと玉の部分がバラバラなので、1つだけでも様々なパターンの置き方ができるんですね。だから、他のものとは違う見せ方ができるんです。

▲けん玉は置き方によって様々に表情が変わる。

▲けん玉は置き方によって様々に表情が変わる。

けん玉メーカーとして世界初のメゾン・エ・オブジェ出展。

岩田さん 当初は海外出展するつもりはなく、国内出展も全くしていませんでした。

しかし、ブランディングのための調査を進めていく中で、海外でメゾン・エ・オブジェが世界最高峰にあり、世界のものを仕入れるために日本のバイヤーも訪れるということを知りました。それなら、日本で出展するより、ヨーロッパで出展したほうが良いのではないかということになったんです。

そもそも、私たちは日本のおもちゃ、玩具を作っているというつもりはなく、車でいえばフェラーリのような、高感度なものづくりをしているという意識でやっています。それならば、そこに出展されているメーカーも私たちのお客様になり得るのではないかと考えていました。

▲メゾン・エ・オブジェ2018のブース。

▲メゾン・エ・オブジェ2018のブース。

ーメゾン・エ・オブジェでは、どのような話が進みましたか?

岩田さん 複数の有名な家具ブランドと具体的な話が進みました。ヨーロッパの家具ブランドの東京の店舗から販売をスタートし、そこから海外に持っていくといったことも決まりました。メゾン・エ・オブジェで採用したインスタレーションをそのまま日本とヨーロッパの店舗で使うという話もありますので、そのような点でもメゾン・エ・オブジェに出展した意義を感じています。

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ーヨーロッパと日本で、市場の違いなどは感じましたか?

岩田さん 歴史や、時代の背景を大事にする姿勢はヨーロッパの方が強いと感じています。例えば、建物にしてもそうですよね。修復はするけど、建物の外壁は壊さない。それに対し、日本は、新しいものを取り入れようという姿勢の方が強いように感じます。ですから、私たちは新しいものと古き良き時代のものを一つにして伝えようと考えています。

▲メゾン・エ・オブジェ2018のブース。

▲メゾン・エ・オブジェ2018のブース。

ーヨーロッパに進出する際に、課題に感じていることはありますか?

岩田さん 海外で販売する場合のコストの問題ですね。為替の問題もありますが、輸送費や関税の問題もあります。ドイツで作ったものをフランスで売るなど、ヨーロッパ間のほうが流通はやりやすいんですよ。日本で作ったものをヨーロッパで売るとなると、価格競争という面では厳しくなってしまう。商品は気に入っていただいても、価格で行き詰まってしまうということもあるんです。日本から販売する方法と、海外の店舗に卸す方法と、価格設定をどうするかという点で非常に悩みます。

ー市場調査はどのようにされているのでしょう?

岩田さん ヨーロッパでは、展示会の会場だけでなく、トップブランドが置いてあるところにとにかく足を運んで見るようにしています。国内に製品を置いているブランドもあるので、そのようなところにも足を運んで、世界観を確認するようにしています。その世界観に何が合うのか、どのようなものが求められているのか、などを肌で感じながら、それを自分たちの次の製品に生かしていきます。

▲メゾン・エ・オブジェ2017のブース。

▲メゾン・エ・オブジェ2017のブース。

ー市場調査で、お店の世界観以外に、見ている点はありますか?

岩田さん お店の方がお客様とどのようなコミュニケーションを取っているのか見ています。例えば、国内のお店にけん玉を何の説明もなく置くと、けん玉はけん玉で、それ以上でもそれ以下でもなく見えてしまいます。ただ金額を見て「高いね」と言われて終わってしまう。せっかくお客様がいるところに置いていただいても、売れないのであれば意味がない。

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▲ストーリーとともに販売していく。

岩田さん でも、これはこういう歴史があってこういうデザインになっていて、だから価値があるんですと説明できる店員さんがいると違ってきますよね。けん玉そのものについて説明しなくてはいけないヨーロッパであればなおのこと、店員さんがどのように説明するかが重要です。だから、市場調査に行く時は売り場で実際に店員さんが何を話されているのか聞いたり、「この商品がどのようなものですか?」と質問してみたりしています。そのような質問をした時に即答できる店員さんがいるお店はレベルが高いので、購買につながる可能性も高いですね。

ー直接営業されることもあるのでしょうか?

岩田さん ここの店にあったら素敵だな、ここの店に置きたいな、という店があれば、飛び込みで営業することもあります。ヨーロッパでも飛び込みで名刺とパンフレットを渡して、すぐにサンプル送れるから言ってくださいという感じで営業することもあります。ただ、人気のあるお店だとすぐに話が進まないこともあるので、1年2年3年と時間をかけてアプローチしていかなくてはいけないと思います。

SNSやメールでの継続的な情報発信でバイヤーとのパイプを構築。

ー展示会以外での情報発信はどのようなことをされていますか?

岩田さん instagramとFacebookでの配信は頻繁にしています。スポーツけん玉とオブジェではターゲットが異なるので、アカウントも分けています。海外については、メールやニュースレターをどんどん送っていますね。例えば、伊勢丹新宿店でポップアップをする時も、海外にニュースレターを送っています。

▲instagramの写真

▲instagramの写真

岩田さん iお客様が実際に東京にいらっしゃるかどうかではなく、こういうところでこういうことをしている、という事例をきちんと発表するようにしていますね。また、新作が出たら新作発表のメールを送る。そのようにして、次の展示会までのパイプを作っておくんです。展示会出るから出します、展示会終わったら出しません、では一過性になってしまいます。継続的にコミュニケーションを取っていくことが大事ですね。

ーinstagramなど、SNSの写真はとてもかっこいいですね。こちらの写真はカメラマンさんが撮られているのでしょうか?

岩田さん ありがとうございます。もちろんカメラマンが撮る写真もあれば、私や営業担当のスタッフが撮る写真もあります。

▲プロモーションツールについても、余白を重視した統一感のある表現をしている。
▲プロモーションツールについても、余白を重視した統一感のある表現をしている。

▲プロモーションツールについても、余白を重視した統一感のある表現をしている。

ーWebサイトやパンフレット、SNSを拝見しても、とても統一感があるように感じます。何か意識されていることはあるのでしょうか?

岩田さん 余白を大切にしようとしています。余白を使うという方法は、海外の感覚にとても響くのです。写真ひとつ取っても、余白と空間を使って、空間で語るということを心がけています。余白があることで、個に集中するんです。たくさんのものがあるより、ひとつのものにフォーカスされる。

ー海外進出をされたい企業が抱える課題の一つに語学の問題がありますが、それはどのように解決されているのでしょうか?

岩田さん 社内には海外に精通したスタッフがいないので、海外での営業のサポートやメールのやり取りは外部委託でお願いしています。その方も私たちの商品に惚れ込んでやってくださっているので、私たちの商品の営業ができるんですよ。その方は実は東北に住んでいます。でも。今はスカイプや電話でやり取りができるので不自由していないですね。

オブジェの分野への進出で、価格競争とは異なる次元のブランドに。

ー日本企業が製品でヨーロッパ進出する際に、アジアの廉価な製品が競合になる可能性がありますが、そのような心配はないのでしょうか?

岩田さん スポーツけん玉の世界では中国やベトナムの安い製品が出回っていて、一種のデフレ状態になっているとも言えます。しかし、その価格競争に巻き込まれてどんどん安くすると、利益が残らないから次に何かをしようと思ってもできない。何もできないと製品の品質が下がっていく。製品の品質が下がれば下がるほど、やりたい人も減っていく。そのような負の連鎖が起きてしまうんです。私たちはそのような負の連鎖に巻き込まれないように、ぶれないものを持っていたいと思っています。インテリア関係、オブジェの方はまったくの別世界なので、価格競争で足を引っ張られることはあまりないでしょうね。

ーオブジェの方の競合は、他のインテリア商品ということになるのでしょうか?

岩田さん 私たちが扱っているのは木工製品なので、競合という意味で言えば他の木製のインテリアオブジェということになるのでしょうが、私たちはけん玉だけをずっと作りたいとは決して思っていないんですよ。まずはけん玉をやり尽くして、ぶれないようにした状態でさらに新しい商品を作っていきたい。

ーけん玉ではない製品が生まれる可能性もあるのですか?

岩田さん そうですね。それは当然やっていこうと思ってます。

ー最後に、今からEUに進出したい企業様に、お伝えしたいことがあればよろしくお願いします。

岩田さん 語学の問題についてはサポートできる方にサポートしていただいて、あとはとにかくやりきることだと思います。継続は力ですので、1年目や2年目でうまくいかなかったからやめるのではなくて、まずは3年間を組み立てて、その後の5年を夢見たいですね。

希望をカタチにするには苦しい時期は当然あるので。それを絶対乗り切ってやろうという強い思いがないと続かないんですよね。失敗したから二度としないではなくて、どこが失敗したのか、何でだろうと、とにかく問い詰めていかないといけない。これでいいんだと思った時にはもう止まってしまうので。これじゃダメだからもっと、これじゃダメだからもっとというのは、自分自身にもい言い聞かせていることですね。

成功のポイント

  • けん玉を一段階上のものにするために、世界最高峰の商品が集まるメゾン・エ・オブジェ・パリにて「インテリアとしてのけん玉」を提案。
  • 市場調査では現地のトップブランドのショップも視察。世界観を肌で感じる。店員と顧客とのコミュニケーションも観察。
  • 失敗したら失敗した理由を自らに問い詰めていく。とにかくやりきることが大切。

企業DATA

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所在地 広島県廿日市市峠245-85
代表者 代表取締役 岩田 知真
業 種 オリジナルけん玉の製作・販売
メイクブラシの軸の製作・販売
その他木製製品の製作・販売
資本金 8百万円
従業員数 25名(平成28年3月期)
URL https://www.iwata-mokko.jp/
海外進出国 フランス、北米、台湾等
海外展示会 メゾン・エ・オブジエ パリ
2017年1月展
2018年1月展
※平成30年8月現在

EU販路開拓ガイドブックシリーズ

中小機構では、中小企業一社一社の輸出や海外拠点設立を経験豊富な専門家が一緒に考える「海外ビジネス戦略推進支援事業」を行なっています。今般、EU との経済連携協定の締結を契機として、EU進出を図る企業様の支援特別枠を設けるとともに、より幅広い方々を支援するため、「EU 販路開拓ガイドブックシリーズ」を作成していきます。

このガイドブックシリーズでは、進出を図る際に知っておきたいEU マーケットの動向や参入規制、展示会などを活用した販路開拓のポイントのほか、急速に進展を遂げるWEBを使ったマーケティングやEC モールの活用など、オンラインでの販路開拓のノウハウについても取り上げていきます。

平成30年3月から平成31年3月までの特別プロジェクトです。ご期待ください。

「海外ビジネスナビ」にて順次公開予定
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