平成24年から平成30年まで7年間、中小機構では、中小企業の皆様の海外展開をハンズオンで支援する「海外ビジネス戦略推進支援事業」を行ってきました。
この記事は事業最終年度である平成30年度の事例集を再編集したものです。
また、海外ビジネス戦略推進支援事業は平成30年度で終了した事業ですが、中小機構では中小企業のみなさまの海外展開を支援 しています。詳しくはお近くの中小機構地域本部 までお問い合わせください。

混乱する業界の荒波に乗ってベトナムへ

2007年創業。岡山県で、産業廃棄物の収集・処理やプラスチックリサイクル業などを行う。良質なリサイクル原料を大手スーパー・企業から直接買い取り、法令にのっとったルートで加工・販売している。2017年、最大の廃プラスチック輸出先である中国が、輸入規制を強化。国内に行き場を失った廃プラスチックがあふれ、業界は大打撃を受けた。混乱が続く中、ピンチをチャンスととらえ、ベトナム進出を決めた。

他社が撤退する中、あえて海外進出を決意

プラスチックリサイクル業界は今、転換期を迎えている。激震が走ったのは、2017年。世界中から大量に廃プラスチックを買っていた中国が、環境問題の視点から輸入をストップ。日本は、国内の廃プラスチックの実に8割以上を中国に輸出していたため、規制の影響をまともに受けた。今まで中国に売っていたものを、今度はお金を払って廃棄物処理しなければいけなくなり、関連企業の業務縮小や撤退が相次ぐ。当社は国内取引をメインに行っていたため、大きなダメージを受けずに済んだ。代表の髙田欣孝さんは、「中小機構の海外ビジネス戦略推進支援事業に申し込んだ当初は、中国の規制がここまで厳しくなるとは思っていませんでした」と振り返る。

回収した廃プラスチック

大手企業から良質な廃プラスチックを買い取っている

中国の影響を受け、周辺の国々も混乱中だ。今度はアジア諸国に廃プラスチックを輸出しようと、世界中からコンテナが港に殺到。あっという間にキャパオーバーになり、ASEAN各国も廃プラスチックの輸入規制を設ける事態となった。

プラスチック事業から撤退する企業が相次ぐ中、髙田さんは、この事態を逆にチャンスととらえた。近年の経済成長とともに、ベトナムのプラスチック関連企業は急増している。廃プラスチックを購入し、国内でリサイクル加工したのち、再びプラスチック製品を作って販売するという流れだ。しかし、輸入規制の厳格化から、原料である廃プラスチックが入ってこなくなってしまった。いわば血液を止められた状態となり、現場は混乱しているに違いない。

そこで、日本国内にあふれている廃プラスチックを、規制をクリアした状態に加工して、ベトナムへ輸出できないかと考えた。現在は加工を外注しているが、将来的には自社で加工できるよう、工場も建設中だ。そうすれば、行き場がなく捨てるしかない廃プラスチックを、今まで通りリサイクル原料として顧客から買い取ることができる。コスト面で顧客に迷惑をかけないためにも、やるしかない。他社が次々に撤退する中、髙田さんはあえて海外進出することを決めた。

現状を整理し企業の立ち位置を把握

中小機構と一緒に、まず現状を整理し把握することから始めた。産業廃棄物業界は、移り変わりが激しい。20年以上業界に関わっている髙田さんも、どんどん変わる法律や世界情勢を常に追いかけている。ともすれば、状況を見失いがちになるため、改めて国内・海外の多方面から考え、立ち位置を明確にした。

髙田さんと松山社長代理

髙田さん(左)と中小機構の職員(右)

次に、ベトナムで販売するプラスチック原料の候補を決めた。廃プラスチックといっても、ゴミをそのまま売るわけではない。種類や加工方法によって、多くの品目に分けられる。ベトナムでの高い需要を想定し、ロットを多く出せるものを中心に選んだ。また、商談をスムーズに進めるため、それぞれの価格を決め、ベトナム語の資料を作成した。

輸入規制についてもリサーチしたが、当時はまさに、中国ショックで大混乱の真っ最中。次々に新しいルールが作られるため、正確な情報はつかめなかった。それに、政府が作った輸入規制と、市場のニーズは別物だ。現場の生の声は、実際に行ってみないと分からない。

現地の訪問先は、中小機構の星山アドバイザーとともに決めていった。星山アドバイザーは、ベトナムにルーツを持ち、自身もベトナム・日本間でビジネスを行っている。アドバイザーがピックアップした商談相手は、どれも求めていた条件にぴったりとはまっていた。その中から、日系企業よりもアポイントの取りにくい、現地企業を中心にまわることにした。

混乱期だからこそ聞けたリアルな声

ベトナムでは、加工会社やプラスチック商品の製造会社を訪問。予想通り、現場はプラスチック原料が買えず、かなり困っている様子だった。多少値段が高くても、「なんとか折り合いをつけて買いたい」という空気を感じる。中には、こちらの供給量を大きく上回るオーダーもあった。大手のプラスチック輸入・加工会社では、日本の現状をよく理解しており、取引にも積極的だった。当社の日本工場が完成したら、そこで加工した原料を輸出する方向で話が進んだ。結果、訪問した企業の約半数から前向きな反応を得た。

また、中小機構のネットワークで、政府の計画投資省とも面談。しかし、少し予想外の展開になった。もともとは、政府機関とメーカーに同席してもらい、現状のヒアリングをしつつ営業する予定だった。だが、当時ベトナムでは、実に8割のメーカーが営業停止や廃業に追い込まれていた。そのため、メーカー側から政府への不満が爆発。次々にクレームとも言える意見が飛び出し、思わぬところで、リアルな現場の声を聞くことができた。

現地での商談サポートは、同行した星山アドバイザーが担当した。「相手の国を知り、好きにならないと良いビジネスはできない」というポリシーのもと、ベトナムの色々な場所に髙田さんらを案内。「星山アドバイザーはベトナム愛が強く、歴史にも詳しかったので、ビジネス以外にも非常に多くのことを教えてもらいました」と、髙田さんは振り返る。自分たちだけでは見えなかった、ベトナムの側面を知ることができた。

新工場完成イメージ

建設中のプラスチック加工工場完成イメージ

向かい風を追い風に変えて

「まさか業界がこんなに混乱している時期に、現地調査に行くことになるとは思いませんでした」。想定外だったが、おかげで需要の高いときに商談ができ、相手のリアルな声を聞くことができた。今後は、現地で手に入れた最新の情報を元に、規制をクリアしたプラスチック原料を輸出していく。

年内には自社工場を稼働させ、仕入れから加工・販売まで、一貫した体制を整える予定だ。「すべての工程を自社で行うことで、より安心して取引してもらいたいと思っています。業界には向かい風が吹いていますが、お客様にコストがかかるような方向転換はしたくありません。そのための海外進出なんです」。今は廃棄されているプラスチックも、きちんと選別すればまだリサイクルできる。顧客からリサイクル原料を買い取り、法令にのっとって加工・販売することは、廃棄物処理を行う企業としての責任だと考えている。時代にほんろうされながらも、当社の理念は、揺らぐことはない。