進出事例

夢で終わらせない、海外 ~第3回~ エコ先進国フランスへ、日本のパッケージ技術で挑む。 – 株式会社アンゼン・パックス(東京都港区)

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平成24年から平成30年まで7年間、中小機構では、中小企業の皆様の海外展開をハンズオンで支援する「海外ビジネス戦略推進支援事業」を行ってきました。
この記事は事業最終年度である平成30年度の事例集を再編集したものです。
事例集については中小機構のホームページで公開しています。また、海外ビジネス戦略推進支援事業は平成30年度で終了した事業ですが、中小機構では中小企業のみなさまの海外展開をご支援しています。詳しくはお近くの中小機構地域本部までお問い合わせください。

事前の市場調査で、パリの商談を実のあるものに

昭和7年の創業以来、菓子・食品パッケージの製造、販売を行っている。デザイン・エコ・保存性と3拍子そろったパッケージは高い評価を受け、高級和菓子メーカーなど、全国3,000社と取引がある。今回、取引先のパリ進出や、EUのプラスチック使用規制強化により、パッケージ業界へのビジネスチャンスが生まれそうなことから、海外進出を決めた。得意とするデザイン性の高い「環境配慮型パッケージ」を広めるため、フランス進出に踏み出した。

日本食の普及とエコ、2つのビジネスチャンス

フランス、特にパリは、EUの中でも洋菓子の激戦区だ。最近は、日本食ブームに乗った菓子店や飲食店が、パリに進出するケースも多い。関係の取引先がパリに出店するにあたり、当社にも「パリに来てほしい」と誘いがあった。和菓子のパッケージは保存性の確保と、用の美のバランスが難しいため、開発に高い技術が必要だ。当社は、創業者が羊羹のパッケージを開発して以来、内容物に合わせた高品質のパッケージを開発・製造してきた。業界からの信用は厚い。

さらにきっかけとなったのは、2018年、世界中で問題提起された「海洋プラスチックゴミ」だ。きっかけは、捨てられたストローが鼻に刺さったウミガメの、苦しそうな姿がSNSで拡散されたこと。以後、クジラの胃から大量のプラスチックごみが出てくるなど、海洋汚染が深刻な状態であることが世界に認識された。環境先進国であるEUでは、すぐさまプラスチック容器の規制を強化。日本でもレジ袋の有料化が進むなど、環境に対する意識が高まっている。

代表の尾関勇さんは、こう語る。「弊社は以前より、自然素材を使った環境に優しい容器を開発してきました。EUのプラスチック規制は今後、ますます厳しくなるでしょう。そこで、日本が得意とする、紙を使ったデザイン性の高いパッケージの需要が出てくるのではと思いました」。フランスへの本格進出を決めた尾関さんは、「海外ビジネス戦略推進支援事業」に応募した。

事業計画書でビジョンが明確に

綿密な打合せを重ねた、中小機構の職員(左)、尾関社長(右)と竹野さん(中)

中小機構と現地調査の準備を進める中で、驚いたのは事業計画書をかなり作りこんだことだ。海外進出のきっかけから、最終的にどこを目指すかまで、ぼんやりと考えていたことを全て明確にする必要があった。毎月、中小機構とのミーティングが迫ると、尾関さんとマーケティング部主査の竹野さんは、頭を悩ませながら計画書に向き合っていたという。「とても細かく、正確に、筋を通すことが求められました。しかしそのおかげで、計画がどんどん洗練されていきました。ゴールが明確になり、そこに至るまでのステップが整理された。この計画書には会社のビジョンがまとまっているので、全社員が読んでいます」。

さらに中小機構と相談し、フランス市場調査を専門業者に依頼。プラスチック規制の詳細や今後の動向、パッケージに対する安全基準などの知識を得た。また、商談先候補がどんなパッケージを使っているかも、写真とともに知ることができた。ぶ厚い調査結果のファイルは、さながら「フランス進出マニュアル」だ。尾関さんたちは、現地調査が終わった今でも、何か疑問がわいたらまずこのファイルを開くという。

現地の訪問先は、和菓子店に限らず、フランス人経営のレストラン、洋菓子店、パッケージの卸売り店など、幅広くアポイントを取った。できる限りの事前準備をし、尾関さんと竹野さんは、5日間の現地調査へと向かった。

商談を前に進めたのは、規制に関する知識

「パリでは、中小機構の現地登録アドバイザーにも、大変お世話になりました」。調査に同行したのは、フランスで食品関係の仕事をしている、ベテランアドバイザーだった。ふつうは、日本の名前も知らない会社がいきなり営業したところで、なかなか取り合ってはくれない。しかし、独立行政法人である中小機構のアドバイザーと調査に来ました、と言うと「話を聞いてみようか」と責任者が出てきてくれる。

次に商談を前へと進めたのは、事前調査で仕入れたプラスチック規制の知識だった。フランスは法律関係が厳しく、将来的な規制の動きを誰もが気にしていた。商談の際、こちらから先に「今後、こういう変化がありますよね」と切り出すと、向こうも「この会社、わかってるな」と真剣に話を聞いてくれる。

アンゼン・パックスの原点である、羊羹のパッケージ。和菓子は保存が難しい食品だ

相手からも、今のパッケージに対する不満がどんどん出てきた。フランスでは、有名菓子店であっても、大量生産の規格品を使うのが通例となっている。それしか選択肢がないからだ。規格品なので、サイズが合っていない、保存性が低い、家に持ち帰るころには中身がぐちゃぐちゃになっているなど、様々な問題があった。当社なら、機能性を備えたパッケージを、食品ごとにオーダーメイドで作れる。

フランス人は気に入ったらすぐに決断するため、サンプルを見せると話が早く進んだ。その場で前向きな回答をくれた店もある。日本の技術を使った「環境配慮型パッケージ」のニーズがあることを、はっきりと確認できた。一番反応が良かったのは、やはり高い品質や使い勝手の良さを気にする訪問先だった。「事前にアドバイザーと打ち合わせし、戦略をしっかり練ってから商談したのが良かったと思います。どの訪問先でも、雑談では終わらず中身のある話ができました。大量のサンプルを、腕が筋肉痛になりながら持って行ったかいがありましたよ」と、尾関さんは振り返る。

フランスに根付く会社になるために

現地調査を終え、自社の強みがはっきりわかったのも、大きな成果だ。フランスに流通しているパッケージは、ほとんどが日本以外のアジア産。競合の国々は、今ある商品を「売る」ことには長けている。しかし、将来の規制や社会の意識に合わせて品質向上を提案し、オーダーメイドの商品開発ができることは、他にない大きな強みになる。

商談を進めるため、尾関さんと竹野さんは調査後、交代で毎月フランスへ行っている。「間隔を2か月空けると、もう忘れられてしまう。今あるチャンスを、しっかり掴みたいんです」。そう言いながらも、性急なビジネス展開をするつもりはない。まず少数の店舗で信頼を得てから、紹介してもらう形で着実に広げていきたいと考えている。この先、長くフランスに根付くパッケージメーカーになるために。今まさに、大事な一歩を踏み出したところだ。

 

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