京焼・清水焼を取り扱う株式会社東五六(とうごろう)の代表取締役社長である浅井洋平氏は、奇しくも新型コロナウイルス蔓延中の2020年12月に代表取締役社長に就任。それまでの収益の柱であった小売店舗での売上が激減する中、「3Dデジタルオーダーメイドサービス」を活用した事業にも挑戦。そのターゲット市場は国内市場だけではなく、成長著しいアジア市場も視野に入れた新たなものだった。そこで、中小機構の海外展開ハンズオン支援(長期支援)を利用して、輸出実現に取り組むことになった。

同社は伝統工芸品・陶磁器業界に属し、主に取り扱う京焼・清水焼商品の窯元や問屋も他の産地と同様に年々減少しており、業界は縮小傾向にあった。その背景には、国内消費低迷の影響によるもの以外に、オンラインシステムの普及によるネット購入者が増えていることや大量生産品の流入による低価格化、深刻な後継者不足などが挙げられる。特に後継者不足は大きな問題であり、職人や窯元が減少していくことは熟練の心と技の伝承が途絶えようとしていることを意味し、伝統文化の後退に繋がる。しかしながら一方で、「個人作家として活動していきたい」、「個展を開きたい」、「小売店で自らの作品を販売してほしい」という陶工も存在しているのも確かで、そのような人々に活躍の機会を与えるには、成長著しいアジア市場の需要を取り込むことが重要だと、浅井社長は考えていた。

そのような折、中小機構の海外展開ハンズオン支援事業の存在を知った。約1年に亘り、担当アドバイザーと中小機構職員が伴走して支援を行なってもらえる点に興味を持ち、当支援に申し込みを行い採択された。

事前調査を経てシンガポールの高級飲食店・ホテル市場をターゲットに

海外展開ハンズオン支援では、「海外事業計画の策定」を目的としており、最初に担当アドバイザーと共に仮説版の策定を行なった。自社の強みについては把握していたが、アジア各国の市場ニーズについては明確な知識を持っていなかった。そこでまずはある程度市場可能性が想定できる国を絞り込み、数ヶ国の現地アドバイザーからWEBミーティング形式で、現地の生活習慣や伝統工芸品へのニーズ・市場特性などの情報提供を受けた。中小機構には各国に海外在住の現地アドバイザーがいることで可能な支援であった。結果として、日本の食や伝統工芸品へのリスペクトがあり、低関税で輸出のハードルも比較的低い「シンガポール」をターゲット国として選定することにした。次に、例えば、高級飲食店・ホテルにむけたインテリア用品として利用できる商品など、数ある商品レンジの中からターゲット国のニーズに合致した商品を絞り込み、現地企業との商談に向けて英文PR資料を作成した。さらに、商流・物流・決済の観点から「シンガポール市場攻略のビジネススキーム」を構築することができた。このような体系的なアドバイス面談を約半年続けた結果、自信を持って現地企業と商談する準備ができた。

シンガポール人デザイナーとの共同開発も決まり京焼の新たな価値創出へ

具体的な想定顧客像に合致した現地企業との商談と、小売店などの市場調査を目的にシンガポールに渡航した。担当常駐アドバイザー及び現地アドバイザーの協力により、事前アポイントを取得できた10社を超える現地企業との商談も実現した。また、現地消費者が日常的に買物する百貨店やセレクトショップの販売現場調査も実施することができ、価格やデザイン的に十分勝負できることが判明した。

今回、当社がシンガポールで販売を目指す商品は2種類あった。1つ目は、酒器や茶器などのモダンなデザインのテーブルウェア。こちらの想定顧客としては、テーブルウェアの専門商社や高級日本食レストランとなる。2つ目の商品は、新しく開発した「Art-panel」と命名したインテリア商品。こちらの商品に関しては建築資材的な側面があるため、想定顧客を建築デザイン会社に絞り込んだ。このように顧客層は異なっていたが、バランス良くほぼ同数の現地企業と商談することができた。

現地商談の風景

今回の「気づき」と新たな挑戦

約1年に亘る「海外ハンズオン支援」を受けた結果、多くの成果があった。まず、初めてシンガポールにおいて当社商品の受注が決まった。日本では酒器などの売上が多いのだが、新製品の香皿(お香を焚く際に利用するお皿)の需要が見出せたことは大きな発見であった。くわえて、シンガポール人デザイナーとの間で新商品の共同開発が決まった。シンガポール市場向けにローカライズした京焼・清水焼商品の試作品も完成し、本格的販売に向けて準備を進めている。

また、今回の現地渡航を含む支援で、これまでは考えつかなかったような新たな課題も明確になった。テーブルウェア商品については、海外の生活スタイル(食洗器・電子レンジ使用等)にも対応可能な商品開発の必要性を感じた。また、インテリア商品に関しては重厚で重みがあるため、現地作業員による施工では剥がれてしまうのではないかと懸念する意見を多く耳にした。海外向けには、丁寧な施工を前提とする日本での仕様よりも軽量となるような商品開発が必要であると分かった。

また、これらの結果も含めて、海外展開事業計画にシンガポール市場向けの新商品開発プランを加えた。

企業の声

中小機構の「海外展開ハンズオン支援」では、1年間の事業計画を最初にしっかりと立て、事業の目的と最終ゴールを明確にしたうえで事業推進を行うことができます。毎月すべきことが明確化できたので非常に良かったです。また、月次の面談の中において達成度合いを都度確認することができ、軌道修正も効果的に行なえました。今後は、新たに「気づき」を得た課題にも取り組みながら、回復しつつあるインバウンドビジネスとも連動した海外ビジネス展開を進めるつもりです。

「海外展開ハンズオン支援」は、我々事業者が何をしたいかの想いをしっかり持っていれば、適切な支援を受けることが出来るので他事業者にもお勧めしたいと考えています。

企業プロフィール

株式会社東五六(とうごろう)
URL: https://tohgoro.co.jp/
代表者: 代表取締役社長 浅井 洋平
所在地 京都府 京都市
資本金 4,400万円
従業員数 6人
業種 卸売・小売業
事業内容: 京焼・清水焼を主とした製作企画及び販売。京都地域随一の商品数を扱う。創業以来培ってきた「作り手との広い人脈」、「伝統とモダンの調和をコンセプトとした作品づくり」を強みとしており、オリジナルの作家作品は、お客様から高い評価を得ている。
商品内容: 室町時代の茶の湯の流行を背景に広まり、400年以上にわたって進化し続けてきたと言われる京焼・清水焼は、日本人の感性や美意識を極限まで研ぎ澄ませた日本文化の結晶。「3Dデジタルオーダーメイドサービス」も活用した京焼・清水焼と、そこから派生させたインテリア商品(Art-Panel)をお客様に提供している。

清水寺から徒歩数分の茶わん坂に構える本社店舗

担当アドバイザー: 小峰 潤 中小機構 中小企業アドバイザー(国際化・販路開拓)

中小機構について

独立行政法人中小企業基盤整備機構(略称:中小機構)は経済産業省が所管している中小企業政策の中核的な実施機関です。起業・創業期から成長期、成熟期に至るまで、企業の各成長ステージで生じる様々な経営課題に対応した支援メニューを提供しています。
「海外展開ハンズオン支援」では、国内外あわせて300名以上のアドバイザー体制で、海外ビジネスに関するご相談を受け付けております。ご相談内容に応じて、海外現地在住のアドバイザーからの最新の情報提供やアドバイスも行っております。どうぞお気軽にお申し込みください。

「海外展開ハンズオン支援」
※ご利用は中小企業・小規模事業者に限らせていただきます。

公開日:2024年 3月 15日