平成24年から平成30年まで7年間、中小機構では、中小企業の皆様の海外展開をハンズオンで支援する「海外ビジネス戦略推進支援事業」を行ってきました。
この記事は事業最終年度である平成30年度の事例集を再編集したものです。
また、海外ビジネス戦略推進支援事業は平成30年度で終了した事業ですが、中小機構では中小企業のみなさまの海外展開を支援 しています。詳しくはお近くの中小機構地域本部 までお問い合わせください。
中小機構が「第三者の目」となり、客観的な経営判断ができた
1971年創業。山形県寒河江市で、工業・建築用塗料や塗料設備の販売、関連コンサルタント業務を行っている。原価コストや工程の提案から、導入後のアフターフォローまで、一貫したサービスを提供。社長のネットワークが広く、今回のベトナム進出も、人とのつながりから決まったという。現地調査でハノイとホーチミンを訪問、あえて首都ではないホーチミンに進出することを決めた。現在、法人設立に向け準備を進めている。
いつの間にか増えていったベトナムでの取引
冬は一面、銀世界に覆われる山形県の寒河江市。当社は、ここから工業・建築用塗料や、関連機材を全国へ販売している。「売ったらそこで終わり」ではなく、品質コストのコンサルや導入後のメンテナンスまで行う、ワンストップサービスが強みだ。5年前、日系企業と取引するため、タイに事業所を設立した。そして今回、次のアジア拠点として、ベトナムのホーチミンを選んだ。
「最初は、人づきあいから始まったんですよ」と、代表の菅野清文さんは言う。もともと菅野さんは、タイでの仕事の合間に、よくベトナムへ遊びに行っていた。協力企業で30年来つきあいのある人が、ベトナムに駐在していたためだ。その企業は別業種だったが、取引先の工場から、塗装機械の相談を受けることがあったという。「うちではできないが、もしスガタ商事さんで受けられるなら、やってほしい」と、ベトナムの取引先を紹介してもらうようになった。
やがて、ベトナムに進出している他の日系企業とのつながりも増えていく。海外で日本人同士が出会うと、特別な連帯感が生まれるものだ。ビジネスありきではなく、飲み仲間、遊び仲間として、業種を超えた人づきあいが続いた。そのうち「菅野さんから商品を買いたい」と言われるようになり、ベトナムでの取引が徐々に増えていった。
中小機構の海外ビジネス戦略推進支援事業を知ったのも、ベトナムつながりだ。現地では、山形にいたら会うことがなかったであろう、他県の社長たちとも知り合うことができた。ある日、「ベトナム進出しませんか」と、本事業の存在を教えてもらった。その企業も、中小機構の支援を受けて海外進出を果たしていた。詳しく内容を聞いた菅野さんは、応募することにした。
中小機構の目を通し、客観的にベトナムを見たい
ベトナムに知り合いの多い菅野さんが、なぜ支援を必要としたのか。すでに何度も現地に行っており、ビジネスイメージも持っていた。ベトナムの情報を得るためなら、もう十分なネットワークがあるはずだ。菅野さんからは、こんな答えが返ってきた。「現地で出会った色んな方から、ベトナムに来てよ、と言ってもらいました。ありがたい話ですが、みなさんベトナムのいいところばかり教えてくれるんですよ。それを鵜呑みにしていいのか、判断に迷いました。悪い面を知らないままで本当に大丈夫だろうか、と」。
中小機構と一緒に現地を見て、客観的な意見が知りたい。進出先を首都のハノイにするか、知り合いの多いホーチミンにするかで、迷いもあった。不安や疑問を解消し、方向性をはっきりさせるために、申し込んだ。
現地調査の事前準備として、中小機構からは事業計画書のほか、「損益計画書を作ってください」と言われた。まだ詳細がわからない中、こんなに早く損益計画書を作るのは初めてだった。現地の事務所を借りる値段や人件費などを、できる限り厳密に計算していく。作ってみると、イメージがより具体的になった。「自分たちだけで準備を進めていたら、あの段階で損益計画書は作っていなかったと思います。事前に数字をきっちり出すことで、金額が理解しやすくなりました。かなり役に立ったので、現地調査のあと、さらに具体的な損益計画書を作り直しました」。現地調査に向けては、菅野さんと中小機構のネットワークを使い、訪問先を決めていった。法人設立の手続きや、危険物取扱の法律関連をどこに聞けばいいかなど、限られた日数で情報が網羅できるようスケジュールを組み、ベトナムへと向かった。
点だった情報が現地で線につながった
ベトナムでは、中小機構の職員、田辺アドバイザーと共に、首都のハノイとホーチミンをまわった。菅野さんと親しい企業はホーチミンに多かったが、やはり経済の中心であるハノイも見ておきたい。実際、日本の大企業はハノイに集中している。菅野さんは、ホーチミンに進出することをほぼ決めていたものの、実際にハノイを見ると迷ったという。「まず首都に進出するのが自然な流れかな、とは思いました。一方で、ハノイにある日系の大企業が、新規でうちと取引してくれるとは考えにくいとも思いました」。
日系の中小企業を訪問しヒアリングを続けるうち、タイとはまた異なる、ベトナム独特の事情も見えてきた。メイド・イン・タイで何でも物が揃うタイとは違い、ベトナムは多くを輸入に頼っている。品質のよい物はまだ少なく、「日本の建築資材を使いたい」という声が多かった。また、ベトナムは送金のハードルが高いため、「直接輸入するより、スガタ商事のような商社が代行してくれる方が助かる」とも言われた。強みである、コンサルやワンストップサービスのニーズも高い。今まで細切れに入っていた情報が、計画的に調査をまわることで、線としてつながっていった。日系の中小企業の数は、ハノイよりもホーチミンの方が多い。「うちのニーズはホーチミンにある」と、心が決まった。
さらに、実務関係も明らかにしていった。投資局で許認可手続きの詳細を聞いたり、会計事務所で税務関係や人材雇用のアドバイスをもらったりと、法人設立に向け具体的な情報を集める。海外経験豊富な田辺アドバイザーと一緒に行動できたことも、菅野さんにとっては大きかった。「食事や移動中の何気ない会話の中で、色々な話を聞くことができました。単なる雑談で終わってしまわないよう、常に情報を得ようと意識しました」。訪問先は製造業をメインに考えていたが、「違う業界を見てみるのもいいですよ」というアドバイスをきっかけに、かねてより付き合いのあった別事業の企業を訪問。帰国後にそこから連絡があり、思いがけず新しい取引につながるという、嬉しいサプライズもあった。
海外での実績を日本に還元したい
菅野さんは現在、法人設立に向けて着実に準備を進めている。今まではベトナムのいいところしか聞かなかったが、中小機構という第三者の目が入ることで、悪い部分も知ることができた。「今まで、自分では本当かどうか判断ができなかった情報の裏付けが取れ、疑問が払拭されたことで、確信を持ってGOサインが出せました」。
今後は、ベトナム法人から買いたい企業、日本のスガタ商事から直接買いたい企業、両方のニーズに応えられるようにする。商品によっては、日本から買う方が、コスパがいい場合があるためだ。今回のベトナム進出は、あくまでも、日本の事業を安定させる手段の1つと考えている。
「色んな人とのつながりから、ベトナムに窓口を作ることができました。そこから、日本の仕事にもつなげていきたい。今、取引がある県外のお客さんの中には、ベトナムで出会った人もいます。今後もいいつながりを広げる中で、事業に還元していきたいですね」。東北から始まった菅野さんのネットワークは、国境を越え、ますます広がっていくだろう。
公開日:2019年 10月 15日
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