「魚介類の缶詰を製造しています。10年以上前に、タイにも製造拠点を設立し日本を含むアジア市場向けに輸出も伸長してきました。現地の工場はハラル認証を取得して居り、且つ、中高級品にも強みを有していることから、富裕消費者層が厚いといわれるGCC市場向け輸出も検討したいと考えています。 基本的な質問ですが、そもそもアラビア湾岸諸国の人々は魚介類を食する習慣があるのでしょうか? もし、魚介類を食するとして、缶詰の魚介(例えば、ツナ缶)を食べているのでしょうか? 手始めにUAE市場を考えていますが、魚介缶詰(特にツナ缶)の市場性はありそうでしょうか?」

「先ず、GCCのアラブ人は肉類の嗜好がより強いとはいえ、地理的に海に面していることから、魚介類も食べられています。GCC市場を見る場合、重要な視点は『多国籍の出稼ぎ人が人口の大多数を占め、それらの異なる食文化の出身者人口構成と彼らの食の嗜好が、食品・食材の消費に反映されている』ということです。

富裕消費者層が厚いというイメージとは逆に、コモディティーに関しては、GCC市場は典型的なプライス・マーケットと言えます。既に、知名度を確立しているブランドも存在するので、新規に参入し”ブランド・イメージ/知名度”を新たに築くのは決して容易ではないと思われます。先ずは、現地で市場調査を実施され、現地の食品や缶詰類の有力トレーダー(代理店候補)を発掘され、それら業界の内部者のインプットも参考にして御社製品の品揃え/価格帯を踏まえた市場参入計画を立案されることがスタートであろうと思われます。ドバイで毎年2月に開催される食料食品関係の国際展示会Gulfood(地元のみならず、世界中から業界の関係者が集まる大規模展示会)にタイミングを併せて訪問され、同展示会視察及び、缶詰類の主たるPOSである現地のスーパーマーケット/ハイパーマーケットを巡り、魚介缶詰の市場の嗜好と価格傾向を把握されることも、効率的な市場調査になりましょう。」

以下に補足します。

1.中東はツナ缶の輸入国

「Gulf Food Industries (UAE)/営業ディレクターのArnab Sengupta氏に拠れば、『中東のツナ缶市場規模は約US$1.0Bil程度であり、米国のUS$1.4Bilには及ばぬも大きな市場である。』(The National紙2017/9/15)」に見られるように、ツナ缶の輸入市場である。全輸入量の内、UAE/サウジアラビア/クウェイトの3カ国が特に大きなシェアーを占めており、タイが最大の輸出国である、との記事も見られる。タイ製の“GEISHA”ブランド(川商フーズ)のツナ缶は有力ブランドとして、それらの市場で定着している。

2.UAEの市場規模

UAE全体の人口は、約940万人(2017 UN統計)であり、アブダビ(約291万人)、ドバイ(約245人)の2首長国で、全体の約57%を占める。UAEは外国籍居住者比率が高く、UAE国民12%に対し、外国人88%と圧倒的多数が外国人(主として、出稼ぎ者)である。国籍別構成比では、UAE約12%に対して、インド約38%、バングラデシュ約10%、パキスタン約9%、その他南西アジア約2%、エジプト約10%、フィリピン約6%、その他国籍13%(2015年推計)と全人口の約6割が南西アジアからの人々である。今日では南西アジア~アラビア湾岸~東アフリカ~中東地域全体のビジネス・ハブに発展したドバイは歴史的にもインドと関係が深く地理的にも近いことから、人口の約半数がインドで占められている。大手スーパーの中にもインド資本の店舗が複数系列展開して居り、食品・食材の品揃えにも、それら異なった食文化圏出身の消費者のニーズが反映されている。

3.日本のメディアが創り上げた「神話」

日本では、GCCの国々は「金の使い道に困っている富裕層で溢れて居り、言い値で売れる市場」のように取上げられることが多い。然し、これは飽くまで日本のメディアが作り出した視聴者受けするイメージであり事実とは異なる。一部、裕福な自国民がいることは確かだが、圧倒的大多数の住民は外国からの出稼ぎ人であることは前述の通り。現実には、GCC市場の自国民富裕消費者層であっても、競合品のない希少価値の商品・製品には躊躇せず支出するかもしれぬが、類似品・競合品のあるアイテムは厳しく安値を求める。即ち、基本的にプライス・マーケットである。

4.食品の嗜好

食品・飲料の消費額(2012年)内訳

パン・穀物 14.2%
肉類    22.2% … 肉類(含む、鶏肉)に強い嗜好性
魚介類    8.4% … UAE/Dubai人は伝統的に魚介類(主として鮮魚を調理したもの)を食する習慣はある。価格の安い缶詰は主たる購入者は(出稼ぎ)外国人
乳製品    12.8%
その他食品  32.5%
飲料     9.9%
計   100%
(数値の出典:JETRO「日本食品消費同国調査アラブ首長国連邦」2017)

5.UAE/Dubaiでの魚介類食習慣

(1) 缶詰・冷凍加工品を世界中から輸入

地場に加工食品製造業が殆ど無いことから、世界中から輸入している。
⇒ 一部高級品もあるが、競合品が殺到し基本的にプライスマーケット

(2) 魚介の購入場所/食べ方

・ UAEはインド洋とアラビア湾に面して居り、伝統的に魚介類を食してきた。肉類魚料理は日常的に食卓に上る。
・ Dubai には大規模な魚市場があり、毎日、入荷する鮮魚を購入可能
・ 身近な購入場所としては、スーパー・マーケット/ハイパー・マーケットの鮮魚コーナー
・ 地元民の典型的な調理法は、①揚げる、②焼く、③米とハーブとで炊込む、くらいが主たる料理法。日本ほど多種な調理法はない。

6.魚介缶詰の販売チャネル

(魚介缶詰の主たる購入者・消費者は(出稼ぎ)外国人。地元民はサラダに混ぜる程度。)

消費者が主として購入するPOSは、以下の通り
(1)街中に散在する grocery store (小規模個人経営食料雑貨店)
(2)ハイパーマーケット
‘① LuLu *(印)… インド系ゆえ、インド人居住者の嗜好に合った品揃えが豊富
‘② Carrefour (仏) … 売り場面積と品揃えの幅広さはトップクラス
‘⑤ Al-Maya (英) ・ GIANT (独) ・ Waitrose *(英) ・ HyperPanda (KSA)
(3)スーパーマーケット
‘③ Spinneys * (英) … 品揃えがより欧米的
‘④ Choithrams *(印)…品揃えはより地元~インド・パキスタン的 ‘
Union Coop(UAE) … ドバイ政府系生協で15店舗程度を展開。品揃え はより地元密着。
注)- 上記*印は、ネット販売を行っている企業。ネット上に商品と価格を掲載。
当該サイトにアクセスすることで、競合商品の小売価格をチェックできる。

- 上記①~⑤は売上規模の順位。①②が③以下を引き離しダントツの1・2位。
- ドバイは生活圏が地理的に限られた地域に密集している都市。徒歩範囲内に小規模食料雑貨店点在しているが、ドバイは典型的なクルマ社会であり、駐車場を備えた大型店へのアクセスは容易ゆえ、大型店舗での纏め買いが主流。

7.ターゲット消費者層絞込み

ツナ缶の需要が存在することは事実であるが、「どのような(スペックの)商品を、幾らで、誰(どの消費者層)に、何処で販売するか?」を、見定めることが重要であろう。
即ち、
○ ツナ缶の種類の内、例えば、
Solid meatか、Chunk meatか、Sliced meatか、フレークか?
ヒマワリ油煮か、オリーブ油煮か、水煮か?
高級品か、廉価・普及品か?
UAE国民(アラブ人)狙いか、出稼人(どの地域からの)狙いか?
高級スーパーか? Hyper market、出稼人に人気のインド系スーパーか?

8.代理店発掘

UAE/ドバイで販売するためには、UAE籍の企業を代理店として起用する必要がある。ハラル認証を既に取得されていることは、既に必要条件の一部をクリアーされていることになるが、現地での販売ルートの開拓や実際の輸入に係わる許認可取得等で有能な代理店の発掘と起用は不可欠。その為には、現地での市場調査は必須であり、前述のGulfoodは、食品(含む、缶詰)のサプライヤーのみならず、卸売業者等業界関係者が一同に集結する場でもあり、有力業者の発掘には貴重な機会であろう。
(参考)代理店選定に関しては、「中東ビジネスのヒント」第2編、第3編、第6編、第7 編を併せご参照下さい。 以上

プロフィール

国際化支援アドバイザー(国際化支援)富山 保
総合商社に38年勤務し長年海外ビジネスに携わってきた。若い頃の会社派遣のアラビア語研修皮切りに、 合計約15年間の現地駐在経験(サウジアラビア・UAE等)を有する。