新規市場向けに、新たに出会った現地企業との取引関係を築く為には、
市場の特性の理解 / 製品の競争力及び競合他社状況の見極め / 代理店候補の能力・意欲の見極め / 自社組織の見極め / 専門商社起用の検討、等々
様々な観点から詰めていく必要があります。
以下に、夫々に就き概説します。

(1)構造物の表面塗装用という製品であれば、当然、気候条件は無視できぬ要素であろうと思われる。「中東と言えば猛暑の砂漠地帯」とのイメージだが、内陸部は超乾燥気候である一方、沿岸部では非常に多湿である。共通しているのは、4~9月頃には気温が非常に高く、時には50℃を超える高温になる(内陸では、砂漠気候の為昼夜の温度差が大きい)こと。また、地域に拠り多少濃淡はあるが、3-5月頃には度々、砂嵐に見舞われる、ということも塗料という製品の性能発揮には影響なしとはしないと思われる。
(2)中東の中でも、石油・ガス収入に恵まれているアラビア湾岸6か国(クウェイト、バハレーン、サウジアラビア、カタール、UAE,オマーン)では、石油・ガス生産関連施設、石油化学プラント、アルミ製錬所等プラント類、大型ショッピング・モール、港湾設備機器類、空港改修等々機能性塗料の潜在需要は大きいと思われる。

2.当該製品の競争力

〇 「機能性」を訴求する製品であれば、先ずは、類似競合製品に対して、性能・機能優位性の実証が必要であろう。その方法としては、協力的なユーザー候補(企業)を選定し、競合品との比較実証テストを一定期間実施することが理想的である。しかし、それを初めての市場で単独で行う事は難易度が高いと思われ、現地の代理店候補、或は、起用専門商社と実施することが現実的。
〇 同時に、競合製品の顔ぶれ/販売価格の調査、及び自社製品競争力の確認(その際の、価格とは、品代・海上輸送費・保険・関税・現地代理店側での保管・陸送費用+代理店の利益を含んだ価格)の実施も必要。
〇 これら比較実証テスト/市場調査結果を見て、勝算ありと判断されれば代理店の正式起用の段階にすすむこととなる。

3.競合他社の勢力調査 / 国際見本市への訪問・出展

〇 GCC6か国では、70年代後半からの石油収入の増大に伴い、急速にインフラの拡充が進展した。第1次湾岸戦争後の90年代は、一時、社会インフラ整備はスローダウンしたが、2000年代初頭からは折からの石油・ガス・石化製品市況の上昇を受けてインフラ建設は急速に進んだ。その間に、世界の有力塗料メーカーの中には、現地生産を開始したところも出ている。(例えば、ノルウェーのJOTUNは1975年に、既に、ドバイのフリーゾーンに進出し、その後も、生産塗料レパートリー拡大、生産量拡大の投資を継続し、2000年代にはGCCの代表的な構造物/建築物の外装塗装事業を最も多く受注している。)
〇 同市場/中東市場での有力競合プレーヤーの動静を効率的に把握するには、毎年3月にドバイで開催される”Middle East Coating Show”(域内最大の塗料の国際見本市。同地域で製造・販売している塗料メーカーや代理店、或いは、今後、同市場への進出を計画しているメーカー等も出展している。)を訪問することは一考に値しよう。同見本市訪問の機会を捉えてドバイ市内の建造物・構造物や、少し足を伸ばして、アブダビの石油・石化コンビナート地域を視察すれば、同地域での需要/用途を肌で感じることが出来よう。
〇 輸出を実現できた暁には、同見本市への出展は、同市場での製品のブランド名の露出度を一気に高める効果的な宣伝・商談の場となり得よう。

4.企業(代理店候補)

〇 機能性塗料は、潜在顧客開拓活動・販売活動・サービスが不可欠な製品(商品)であるが故に、市場開拓に際して代理店の起用は必須であろう。先ずはアプローチ越した企業の代理店としての適性をチェック・判定する。その際、次のような諸点をよく見ることが重要。
- 財務状況
- 本業(建材の販売等)の実態と実績
- 会社組織(部門の構成、責任者、部門ごとのスタッフ数、業容、等)
- 販売力(販売方法、ショールーム、倉庫、施行能力、等)
- GCCに於ける塗料市場に関する情報収集能力
⇒ 慎重に見極めるべき点は、販売能力と決済能力
(「代理店起用」に関しては、「海外ビジネスのヒント」第3回 /第6回ご参照。)

5.市場の見極め

〇 新興国の輸入・販売会社であれば、「Made in Japan」の商品の代理権(取扱権)の獲得を目指して、積極アプローチをすることは自然である。(品質・性能に対する信頼性と、日本企業の概して理性的な態度・対応は、海外トレーダーにはステレオタイプ的に共有されている感あり。)然し、商権を付与する日本企業としては、当該製品の競争力と、代理店補の実力・適性を見極める前に代理権(取扱権)をコミットすることは絶対に避けるべき。後々、(ビジネスが上手く進まぬ際に)問題の種になりかねない。
〇 先ずは、対象市場を絞込み(代理店候補のホームグランド市場が良い)テスト・マーケティングの期間(この間は、他企業には声を掛けず、代理店候補企業のみと進める)を設け、その間に、市場性の見極めと代理店候補企業の実力・適性の見極めを行うべき。
〇 テスト・マーケティングを通じて、当該市場に於ける競合他社の顔ぶれ、競合他社品を販売している代理店の顔ぶれ、彼らの売り方や価格を調査し、テスト期間終了後の戦略を練るべきであろう。

6.自社組織(+陣容)の見極め / 商社起用の検討

〇 テスト・マーケティングを開始する段階から、代理店候補企業との間で相当量の英語での交信(主としてメールであろうが、必要に応じて国際電話やスカイプによる会議も)を行うニーズが生じる。拠って、社内で(英語のコレポンができる)輸出開拓の担当者(初期段階では兼務となろうが)を予め決めて置き、スピーディーなコミュニケーションを行う事は重要。
〇 テスト・マーケティングの進展に伴い市場性の手応えを感じたら、専任担当者の任命、更には、輸出・マーケティングを受持つ部門を設置するといった経営資源の配分が必要となろう。この部門が代理店の教育・指導、代理店の活動報告を通じての市場運営、オーダー取付け、輸出決済、生産手配・管理、輸出実務、輸出代金決済等々責任をもって行うことになる。
〇 ビジネスの初期段階では、現地側企業とのタイムリー、且つ、スムースなコミュニケーション、及び、実務処理が非常に重要となる。この点で、自社の陣容・能力が十分でないと判断される場合は、現地に駐在事務所を置く商社の起用も選択肢として検討されるべきであろう。

プロフィール

国際化支援アドバイザー(国際化支援)富山 保
総合商社に38年勤務し長年海外ビジネスに携わってきた。若い頃の会社派遣のアラビア語研修皮切りに、 合計約15年間の現地駐在経験(サウジアラビア・UAE等)を有する。