2011年の総選挙以降、ミャンマーへの関心が高まり日本企業のミャンマー進出が加速しております。それまでは軍事政権であり、政府には徴税・国民には納税意識が低かったので税法はあるにはありましたが、ほとんど機能していませんでした。税法自体が昔の英国法に準拠しているため時代にそぐわななっており、2012年以降は頻繁な法律変更で専門家でも戸惑うことが多々あります。またミャンマーと日本では未だ租税条約も発行しておらず、日本からの進出に関して駐在員の個人所得税において特に注意が必要です。(将来の課税リスクを回避しておく必要があります)
概要
ミャンマーでは日本のように個人所得税法と法人税法が分かれていません。所得税法
として包括されています。
●税法施行状況
・所得税法・・・1974年発効、1991、2006、2011、2014、2015年改正
・商業税法・・・1990年発効、1991、2006、2011、2014、2015年改正
●租税条約
・日本-ミャンマー両国間では2016年1月現在、租税条約は締結されていません。
●居住者と非居住者の定義
・居住ミャンマー人→ミャンマー居住のミャンマー人
・非居住ミャンマー人→ミャンマー国外に居住し所得を得るミャンマー国民
・居住外国人→ミャンマー国内に183日以上居住外国人
・非居住外国人→居住外国人でない外国人
●課税年度
・4月1日から3月31日までとなっています。年末税務確定申告は課税年度終了日から3ヶ月以内となっております。
所得税法
1.個人所得税
① 個人所得税の申告及び納付について
給与所得:会社が源泉徴収し毎月給与支払後7日以内に税務申告書作成・納付することになっております。
② 計算方法
計算方法は下記の通りとなっております。
総所得
△基礎控除 20%
10,000,000チャットを超えない範囲で
△配偶者・扶養控除に対する基礎控除
△生命保険料控除(ミャンマー側のみ)
*会社が負担する個人所得税・会社が負担する家賃なども経済的利益の供与として所得に全額加算して課税されます。
③居住者の税率
例)居住者の給与所得 | ||
---|---|---|
から | まで | |
チャット | チャット | 税率 |
0 | 2,000,000 | 0% |
2,000,001 | 5,000,000 | 5% |
5,000,001 | 10,000,000 | 10% |
10,000,001 | 20,000,000 | 15% |
20,000,001 | 30,000,000 | 20% |
30,000,000以上 | 25% | |
※2,0000,000チャットを超えないと課税対象にはならない。 |
④非居住外国人の税率
国内源泉所得に25%を課税(控除なし)となっております。
2.法人所得税
概要)
ミャンマーでは法人税として規定があるわけではなく、「所得税」として規定されている法律を法人にも適用しています。
・居住外国法人
→ミャンマーでミャンマー会社法その他の法律により設立され、外国人の株主で
構成されている会社又は外国人の株主が含まれている会社。
・非居住外国法人
→居住外国人以外
[日本]
2012.4月以前 | 2012.4月~2015.3月* | 2015.4月~ | ||
---|---|---|---|---|
中小法人 (資本金1億円以下) | 年800万円以下の部分 | 18% | 15% | 15% |
年800万円超の部分 | 30% | 25.5% | 23.9% | |
中小法人以外の法人 | 30% | 25.5% | 23.9% |
*ただしこの期間復興特別法人税あり
法人税額に10%の税で。
[ミャンマー]
居住外国法人 | 全世界所得(MICは国内のみ) | 25% |
---|---|---|
非居住外国法人 | 国内対象所得 | 25% |
法人所得税損金不算入項目
・個人的な費用、資本金、事業規模から見て過大と判断される費用
・引当金
・固定資産除却損
・キャピタルロス
繰越欠損金
欠損金の繰越は3年間となっております。
商業税法
①概要
日本の消費税とは類似していますが、控除などについては似て非なるものです。
・国内で生産、販売する商品、売上額に課税。
・海外から輸入した商品の輸入価格(荷揚げ価格)に課税。
・一部のものを除き概ね5%。(一部のもの:たばこ、ビール、ワイン、車等)
②課税対象
1 商品の製造販売業 20,000,000超
2 サービス業 20,000,000超
3 商品取引貿易業 20,000,000超
③申告と納付
・商業税納付は毎月でその月が終わった翌月10日以内に納付しなければなりません。
・申告書の提出は四半期毎で各四半期終了1ヶ月以内に提出しなければなりません。
・課税対象範囲の売上が20,000,000チャットを越えたかは、会計年度が終了するときに判断します。20,000,000チャットの売上が無かった場合は課税対象にならないので、納付した商業税は翌年度に繰り越し相殺することになります。
・確定申告は4月1日から6月30日までに提出する必要があります。
④計算方法
(製造・販売等に対して課税される商業税)-(原材料、商品等に支払った商業税)
ただし、仕損品、不良材料など、使えなかったものに係る税金は控除できません。
また、上記購入に係る税金を相殺する際には、相殺する金額は商品の売上額に課税される税金が限度となります。
※サービス業は直接外注費に対して商業税を相殺できるようになりました。(通達 180/2015)
⑤輸出免税
一定の品目(石油、天然ガス、ルビーなど)以外の商品を海外へ輸出するものは 免税になります。(2012年通達No.121)
⑥登録・届出
・課税所得が生じる事業者は事業開始1ヶ月前に税務事務所に登録申請する必要があります。
・製造業者やサービス業者はその登録証を本社の前に掲げ、その他、常に閲覧できるようにしておかなくてはなりません。
・課税所得を得る製造業、サービス業者はその事業が始まって10日以内に税務事務所の局長に通知しなければなりません。
⑦非課税品目
食料品・衣料品・医薬、医療用品・生活雑貨等、生活必需品70品目。ただし、輸入品に対しては5%で課税されます。
⑧高税率品目表
商品の種類 | 税率 |
---|---|
タバコ |
120% |
紙巻きタバコ、酒類 |
60% |
宝石 |
15% |
車(ライトバン、ワゴン、ジープを含む乗用車)、チーク材その他の木材 | 25% |
ガソリン、ディーゼルオイル、ジェット燃料 | 10% |
天然ガス | 8% |
その他の税金一覧
国税
国内の生産、消費活動に対する税 | |
---|---|
物品税 |
酒類や薬品など特定の品目に課税 |
輸入ライセンス料 |
個別の輸入ライセンス取得時に貨物の金額に応じて徴収 |
国営宝くじ税 |
宝くじに課税 |
運輸税 | 車両の登録時に支払う |
印紙税 | 各種契約書、覚書等作成時、作成した文書に貼付 |
関税 | すべての輸入品が対象。税率は品目により異なる |
国家の資産の利用に対する税 | |
土地税 | 農地や産業用地の利用者に課税 |
水資源税 | 灌漑施設(灌漑に使用される水)に対して課税 |
森林税 | 木材に関わる各種ビジネスに対して課税 |
鉱物資源税 | 鉱物資源の採掘や利用に対して課される一種のライセンス料 |
鉱物資源ロイヤルティー | 各種鉱物資源の生産量に対して課税 |
水産税 | 漁業を行う者が取得しなければならないライセンス取得料 |
宝石税 | 原石の生産、ドル建売上に対して、定率で課税 |
地方税
例:ヤンゴン市
資産税 | ヤンゴン市内にある住居、宿泊施設に課税 |
---|---|
看板税 |
原則看板が掲示されている土地、施設の所有者等に課税 |
事業ライセンス料 |
ヤンゴン市内で事業を経営するもの。毎年。事業規模や業種により異なる |
車両税 |
年一回。自動車の所有者。車輪税、夜間税、駐車税の3税 |
プロフィール
1969年山口県生まれ。1993年立命館大学文学部卒。
大学卒業後、地元に帰り地方公務員となるも退職し上海に語学留学。 語学留学後、中国・インドネシアの日系企業で勤務。2004年弁護士・会計士・税理士とベトナム進出支援を目的とした
「株式会社VACコンサルティング(旧ベトナム アドバンスト コンサルティング)」を東京・ベトナム(ホーチミン)に設立。 2013年ベトナム事務所をVACサイゴン税理士事務所に組織変更。
また2010年より日本企業のミャンマー進出支援を開始し2012年1月にヤンゴンに日本の税理士事務所と合弁で会社を設立。 現在はベトナム・ミャンマー進出日系企業向けに現地法人設立から設立後の税務申告・会計処理・労務管理までを支援している。