欧米向けWebサイト構築 STEP BY STEP ガイド (1) BtoC: 越境EC編

このガイドブックは株式会社エンパピリオに委託して作成しました。

株式会社エンパピリオでは、中小企業の海外販路開拓の支援事業を展開しています。事業内容は、海外事業戦略策定、現地市場調査、製品マーケティング、展示会・商談会への出展支援、海外向けWebサイト構築、越境EC、SNS発信など、リアルなビジネス(=現地での販路開拓活動)とオンラインのビジネス活動を両面からハンズオンで支援しています。エンパピリオのパピリオはラテン語で「蝶」を意味します。蝶の様に花々を飛び回り大きな花を咲かせるお手伝いがしたい、という想いのもと、日本の中小企業の支援をしています。当社は2017年3月に経済産業省認定の『経営革新等支援機関』に認定されました。

EUのEC市場トレンド

Ecommerce Foundation から出されたレポート 2017 European Ecommerce Report によると、ヨーロッパにおける2017年のBtoC Eコマース(EC)の市場規模は前年度比+14% 伸長し 6,020億ユーロ(約78兆円)に達する予測でした。

国別で見るとオンラインで買い物をする消費者の割合が高い国は UK (87%), デンマーク(84%), ドイツ(82%)。 年齢層では、16-24歳の67%がオンラインで買い物をしており、25-54歳で64%, 55-74歳で35%となっています。(2016年統計値)。

ヨーロッパ市場への参入を図るグローバル企業も増加傾向にあり、ヨーロッパのEC市場は日本にとっても魅力ある市場と見られます。

本稿では、ヨーロッパ向けに着物の直接販売を検討している企業を題材として、リサーチやプランニングから集客施策・数値管理、そしてECストアの運営など、越境ECサイトの構築プロセスや手法についてSTEP BY STEPで説明します。

中小織物株式会社の場合

アンティーク着物の販売を手掛ける中小(なかしょう)織物株式会社。 ほとんどが一点ものでインスタグラムなどのSNSからの発信なども功を奏し、海外の消費者から問い合わせも来るようになりました。そこでそろそろ自社の越境ECサイトを構築し、海外消費者向けに直接販売をしてみようと考えています。

インスタグラムの海外からのフォロワーとしては、フランスやドイツなどからのアクセスが多いので、まずはこれら2か国を中心としたEU諸国を主なターゲットと見ています。

こうしてスタートした中小織物株式会社の 『Kimono EC Project』。 海外向けECサイト制作にあたり、まずは考えるべきこと・やるべきことを整理してみましょう!

※中小織物株式会社は架空の企業です。

中小織物社 Kimono EC Project 全体像

step1.リサーチ
既に海外向けに着物を販売しているサイト、日本の産品を販売しているサイトなど、他社サイトを研究します。

step2. プランニング
ECサイトのデザインや、カテゴリー、実装する機能などを決めていきます。

step3. 集客施策
集客方法について考えます。 人的リソースが限られる中、できるだけ効率的な進め方を考えます。

step4. 数値管理
集客状況や売上など定期的にモニタリングするKPIを設定します。

step5. ECストア運用業務
商品の発送、在庫管理、問い合わせ対応などECストアの業務フローを構築します。

STEP1:リサーチ

競合分析

自社のECサイトのデザイン、商品ラインナップ、サービス内容(送料等)などを決めるにあたり、既に海外現地で人気のある競合サイトを参考にする、というのは一つの有効な手段です。 今回、海外の現地で人気のあるサイトを特定する方法の一つとしては、対象国のGoogleサイトで、 “buy kimono online (着物を通販で買う)“ に相当するフレーズを現地語で検索してみます。上位表示されたサイトはそれだけクリック数の多いサイトですので、現地で人気のあるサイトの一つであるとみなすことができます。

次のページの画像は、Googleフランス (google.fr) で ”acheter un kimono en ligne“ 、 およびGoogle ドイツ (google.de)で ” Kaufen Sie Kimono online “ と検索した結果です。 これらの検索フレーズはいずれも“buy kimono online“ をGoogle翻訳機能を使ってフランス語、ドイツ語に翻訳しました。

Tips & Techniques

日本にいながらドイツやフランスでの検索結果を見る方法

日本からGoogleドイツ (www.google.de)やGoogleフランス (www.google.fr)にアクセスをしても、検索をした時点で日本のGoogle に強制転送(リダイレクト)され、日本でのGoogle検索結果が表示されます。つまり、ドイツ人やフランス人が現地で検索した結果を見ることはできません。

そこで、検索するときに、Google検索のURLを次のように書き換えてください。

https://www.google.com/webhp?gl=fr&hl=fr&gws_rd=cr
Googleフランスでフランス語ページの検索結果を表示したい場合)

「gl=fr」は「Googleフランスで」という意味で、ドイツなら「gl=de」とします。
さらに、検索結果からフランス語ページを除き英語ページだけ検索したいときは、次のようにします。

https://www.google.com/webhp?gl=fr&hl=en&gws_rd=cr

また、Googleドイツでドイツ語ページのみの検索結果を表示したい場合はこうです。
https://www.google.com/webhp?gl=de&hl=de&gws_rd=cr

このようにURLを書き換えて検索することで、現地での検索結果を見ることができます。
ページ翻訳機能なども使って、いろいろ試してみてください。

※他の国の検索結果を調べたい場合は、「glパラメータの国コード」を、他の言語での検索結果を調べたい場合は「hlパラメータの言語コード」を、ネットで調べてみてください。

フランスのnipponboutique(www.nipponboutique.fr)、ドイツの japanwelt (www.japanwelt.de) いずれも着物だけでなく日本の産品全般を扱っている現地のECサイトでした。

サイトのカテゴリー構造、色味、商品ラインナップ、そしてSNS発信状況、送料、決済手段など参考情報としてチェックします。 また品ぞろえの点では、アマゾンドイツ (Amazon.de), アマゾンフランス(Amazon.fr)などで販売されている着物もチェックします。 すると、自社の商品はデザインのバリエーションも商品点数も現地のサイトよりかなり豊富であることが確認できました。 また、現地で人気のある色味やデザインの傾向もわかってきたので、商品ラインナップに反映できそうです。

ここでは、ドイツ、フランスそれぞれ1サイトずつ例として挙げましたが、実際に競合サイト調査をする際は、5-6サイトくらいは比較先として見てみるとよいでしょう。また、このように比較項目を一覧表にしてまとめると、より客観的な把握が可能となり自社の方策が打ち出しやすくなります。

STEP2:プランニング

ECサイトの仕様を決める

プランニングの段階では①のリサーチで得た結果を基に自社ECサイトのデザイン・カテゴリー構造、ECストアのサービス内容、サイト上に実装する機能など、いわゆるECサイトの “仕様” を決めます。 ここでは、サービス設計について掘り下げてみます。

右のグラフは、ヨーロッパ地域でインターネットショッピングをしている購入客が越境ECサイトに対して抱いている不満点に関するデータです。例えば、購入者の17%が配送スピードに関する不満を抱いています。また技術的な問題も13%と高い値を示しています。

データソース:2017 European Ecommerce Report
http://www.ecommercefoundation.org/reports

配送スピードに関しては、ヨーロッパの都市部ならまだしも郊外地域になると想定以上の日数がかかる場合も考えられます。 追跡サービスのある配送サービスを選ぶ、できれば発送時にそうした追跡番号を注文者に提供できる様な機能を実装できると良いでしょう。 また技術的な問題も含め購入者からのオンラインコンタクトには、自動返信機能を導入し、“XX時間以内に返信します” といったサービスレベルに関する記載を入れておくと良いでしょう。 返品やキャンセルのルールについては、競合サイトのルールも参考にしながら、自社で対応可能なルールを設定し、ECサイト上の利用規約に明確に記載しましょう。

STEP3:集客施策

そもそもサイト来訪者はどこから来るの?

インターネット上ではその流入元は次の様に区分されます

1 ダイレクト

Webブラウザ上でURLを直接入力、またはブックマークからの訪問、メールからのアクセスなど

2 オーガニック検索

Googleなどの検索エンジンからの検索による訪問。検索結果に表示される有料広告からの流入は含まない

3 ソーシャルメディア

Facebook, インスタグラム, YouTube, TwitterなどのSNS

4 リファレル

他サイトからのリンク

5 有料広告

リスティング広告、ディスプレイ広告などの有料オンライン広告

つまり、自社サイトの集客施策、というのは上記それぞれ流入元からの流入を増やす作業、ということになります。 では、それらの流入を増やすには具体的に何をすればよいのでしょう?

また、中小織物社では今回の海外向けECストアの運営は、国内向けECストアの担当者が兼任で担当することになっています。 ある程度売り上げ規模が大きくなるまでは当面一人で対応しなければなりません。人的リソースも限られる中、やることにも優先順位を付けて効果の大きそうなことから優先的に始めていきたいと考えています。 ではそれらをどうやって判断・決めればよいでしょうか

やリ方の一つとして、対象地域の競合サイトのやり方を分析し、それらの良いところを取り入れるところからスタートする、という考え方があります。今回の様な着物の販売サイトの場合、フランスのnipponboutique(www.nipponboutique.fr)、ドイツの japanwelt (www.japanwelt.de) の様な現地企業のサイト、または越境ECで日本から海外に着物を販売しているサイトなどが、どうやって集客しているか調べてみます。

Web分析ツール活用による競合サイトの流入分析

SimilarWeb(シミラーウェブ:https://www.similarweb.com/ja)は、イスラエルの企業が開発したWeb分析ツールです。

Google Analyticsが自社のサイトのアクセス分析を行うツールであるのに対し、SimilarWeb等のWeb分析ツールを使うと競合他社のサイトのアクセス分析ができます。 SimilarWebには一部の機能のみ使用可能な無料版と、多岐にわたる分析機能を備えた有償版があり、いずれもSimilarWebサイトにログインし、Webブラウザ上で分析機能を使用することができます。ここではSimilarWeb無料版を使って説明します。

次のグラフは、前述のjapanwelt(ドイツ)、nipponboutique(フランス)、そして既に越境ECで着物を販売している日本のサイトの3サイトの流入経路の構成比(%)を表しています。例えば、(a) のjapanwelt(ドイツ) では、サイト来訪者の61.19%がオーガニック検索、つまり検索エンジンから流入しています。 (b)のnipponboutique(フランス), (c)の日本の越境ECサイトもそれぞれ 72.36%, 61.31% と検索エンジンからの流入が高い比率を示しています。

現在検索エンジンの主流はGoogleですので、Google対策がいかに重要か、こうしたデータを見ると改めてわかります。 Google対策については次の章で掘り下げて説明します。

また、(c)の日本の越境ECサイトでは、14.16%を有料の検索広告から送客しています。 特にサイトオープン時、検索エンジンからの流入が少ないうちはこうした検索広告をうまく使うことでサイトの認知度を上げることも有効と考えられます。

逆に、3つのサイトともソーシャルメディアからの流入率が2%未満とさほど高くありません。多くの場合、ソーシャルメディアからの流入率は検索エンジンやダイレクト、リファラル(外部サイトからのリンク)と比較すると低い場合が多いですが、中小織物社では既にインスタグラムからの集客で国内では効果が見られています。また、着物と同様にビジュアルイメージが重要な要素である海外のアパレルグッズのサイトでもソーシャルメディア流入率が30%を超えるようなサイトもありますので、ソーシャルメディアにはまだ伸びしろがある可能性も考えられます。

検索エンジンからの流入増加を目指す

良質なコンテンツを自社の顧客に提供する

先ほど、Googleなどの検索エンジンからの流入を増やすための対策が非常に重要であるとお伝えしました。 着物のECサイトの数がグローバル市場でまださほど多くは無いとはいえ、ECサイトをオープンしたからといって何もしなくてもGoogle検索結果に上位表示されるわけではありません。 検索エンジンで上位表示されるためにはSEO(サーチエンジン最適化)という取り組みが必須です。 SEOという言葉が日本で広がり始めてすでに15年ほど経っており、この言葉だけは聞いたことはあるという方も多いのではないかと思います。 検索エンジンの主流であるGoogle社のアルゴリズムもユーザーのニーズに合わせて年々変更されており、 SEOにはページの表示速度やモバイル対応(モバイルフレンドリー)のデザイン、そして掲載内容(コンテンツ)の品質など様々な要素があります。

現時点でのSEOでもっとも本質的な要素は 『良質なコンテンツを提供すること』 と言われています。 なぜなら現在のGoogle社の方針は 『検索ユーザーが必要としている質の高いコンテンツを上位表示させる』 ことだからです。 何やら概念的に聞こえてしまうかもしれませんが、私は 『ユーザーが欲しているであろう情報をきちんと理解しそれを丁寧に伝えていく作業を継続すること』 と捉えています。 地味でそれなりに時間のかかる作業ではありますが、中小企業の事業者様にも是非取り組んでいただきたいと思っています。たとえ広告宣伝費に多くのコストをかけられる様な大企業でなくても、ユーザーが知りたいと思っている情報をきちんと届けることができれば、検索結果で上位表示され、結果としてより多くの集客効果を得ることができるのですから、オンラインの世界は非常にフェアな世界だと思うのです。

では、 『顧客が知りたいと思っている良質なコンテンツ』 を作るにはどうすればよいのでしょうか?

SEOに効く(=オーガニック検索を伸ばすための)Webコンテンツ作成手順

1 テーマを決める

  • 自社の商品に関連し、よく検索されている “キーワード” を抽出する
  • 競合サイトで掲載されているコンテンツを参考にする
  • 自社の国内の顧客によく読まれているテーマを海外向けにも活用する

2 1で選定したテーマに関連するコンテンツを制作する

3 効果を測定し、1のテーマや2のコンテンツの改善を継続して行う

自社の商品に関連性の深いテーマを探し、それに関して顧客が知りたいと思っている情報を提供することで、質の高いコンテンツの作成を目指します。

キーワードの抽出

まず、着物(Kimono)に関連する内容ではどの様なキーワードがGoogleで検索されているのかキーワードツール(*) を活用して調べてみます。今回はGoogleのキーワードプランナーツールを使いました。紙面の都合上、本ツールの使い方については省略しますが、SEOに関するブログサイト等で詳しく紹介されていますので参考にされてみてください。

(*) キーワードツールについて: キーワード選びに役立つツールには、有料/無料それぞれいくつかあります。「キーワードツール」等の用語で検索すると、Google キーワードプランナーやそれ以外のツールの紹介など様々な記事にヒットしますので是非調べてみてください。

ここで、kimono robeというワードが気になったので、Googleの画像検索で調べてみます。
Google ドイツ (www.google.de) でkimono robe を画像検索すると以下の様に、着物リメイク風のローブが多く上位表示されます。よって、kimono robe で検索している人は、日本の伝統的な着物を探している対象では無いことがわかります。kimono dress の検索結果も同様でした。

一方、こちらは同じくGoogleドイツのサイトで、traditional kimonoと検索した時の表示結果です。 traditional kimonoで検索している人たちは中小織物社のターゲット顧客に近そうです。 よって、traditional kimono についてもう少し調べてみます。

抽出したキーワードからユーザーの求めている情報を推測する

今度は、Googleドイツの検索ボックスから “traditional kimono” と入力した後にスペースを一文字入れると、次の様な予測キーワードが表示されます。 これは、Googleのサジェスト機能と言って ”traditional kimono” と一緒によく検索されているキーワード群を表示する機能です。これらのキーワードから、”traditional kimono”についてさらにユーザーがどういう情報を求めているかが推測できます。

こうした情報から、中小織物社のECサイトでは、まず女性用、男性用でカテゴリーを分け、さらに

素材

デザイン

などの切り口別に、様々な種類のものをわかりやすく分類・表示する方針にしました。

また、さらなるSEO対策として、これまで日本語で書き溜めてきた着物ブログのコンテンツの中から海外でニーズの高そうな記事を随時翻訳し英語版ブログも開設しようと計画しています。 そこで先ほどのGoogleのサジェスト機能をもう少し掘り下げてみます。

顧客の潜在ニーズを掘り下げる

Keyword Tool (https://keywordtool.io/google) を使うと特定のフレーズに対してGoogleサジェスト機能で表示されるワードを全て抽出することができます。

先ほどの “traditional kimono”について、Google.de (Googleドイツ) の検索画面では上位10個が表示されましたが、このツールを使って同じく traditional kimono を調べてみると154個のサジェストワードを抽出することができました。

Keyword Tool にはエクセルへのエクスポート機能も付いています。

この様にして抽出したサジェストワードを眺めてみると、“traditional kimono accessories”, “traditional kimono and obi” など、着物に合わせる帯やアクセサリーに関するものや、”putting on a traditional kimono”, “how to wear a traditional kimono” など着物の着方(着付け)に関するものなどが見つかりました。中小織物社ではこうしたトピックを既に日本語ブログでも記事として掲載していたので早速英語化を行うことにしました。また、 traditional bridal kimono など、婚礼用着物に関するトピックも英語で紹介することにしました。

この様に、ツールを活用しGoogleユーザーの検索の痕跡をたどっていくことで、現地の潜在顧客のニーズを推測することができます。是非試してみてください。

こうして、SEOを意識したECストア上のコンテンツ構成が固まりました。中小織物社では今後さらにソーシャルメディアや検索広告、現地の着物ファンとのタイアップコンテンツ制作などにも取り組むことで、オーガニック検索だけでなくソーシャルメディア, 有料広告、リファレル(外部サイトからのリンク)など様々な経路から流入を増やす施策を展開していきたいと考えています。

STEP4:数値管理

越境ECで一定の売り上げを作るにはそれなりの手間もかかります。一方で、海外の現地消費者に直接自社の商品やサービスを届けることで現地消費者のニーズを掴むことができる貴重な場でもあります。 そのためにも売上目標を立てた上で実績をきちんと管理することが事業の成長には欠かせません。 本章ではEC事業の数値管理の考え方について説明します。

中小織物社の前年度の年商は1億円。 今回の越境EC事業では、初年度に売上の3%に相当する300万円、2年目に500万円、3年目に1,000万円を達成したいと考えています。国内の着物市場がマイナス成長の中、3年間で自社の売り上げの+10%分の伸長を創出できれば経済的な合理性があると考えています。

現在国内ECストアでは、注文金額が10,000円以上で送料無料にしていることもあり、一人あたりの平均購入金額は13,000円。また、ストアで購入時の購買率(サイト来訪者数に対して商品が売れる確率)は1.0% つまり来訪者100人中1人が実際に購入する、という割合です。
今回、越境ECストアでの平均購入金額は国内と同水準の100ユーロ(13,000円)と想定しました。

さて、今回の越境ECストアでの計数計画について考えてみます。

まず、ECストアの売り上げの基本構成要素は、
ECの売り上げ = サイト来訪数 x 購買率% x 平均購入金額

今回、初年度の売り上げ目標が300万円。平均購入金額は100ユーロ (約13,000円)と想定しています。購買率も一旦国内ECと同水準の1.0% と仮定することにしました。
300万円 = 来訪数 x 1.0% x 13,000

つまり、300万円の売り上げを達成するのに必要な年間来訪数は、
300万÷(13,000×1.0%) = 23,076です。

そこでまずは初年度の売り上げ目標について以下の様に設定してみます。

初年度、23,076のサイト来訪数を獲得し、その中の1.0%が平均単価 13,000円の商品を購入。 結果300万円の売上高を達成する

この 年間23,076 という来訪数は現実的な数値でしょうか?

まず自社の国内向けWebサイトの実績値を見てみると、昨年の年間来訪数は 約100,000 でした。 国内サイトの23%に相当する来訪数を初年度海外から集客するのは決して楽ではありませんが、無謀な数字では無いと見ました。 次に、再びSimilarWebを使って今回分析した競合サイトの来訪者数を見てみると、ドイツの japanwelt (www.japanwelt.de) の過去6か月の平均月間来訪数が約17万でした。 よって、年間180-200万ほどの来訪数があると推測されます。 今回の中小織物社の目標値:23,076と単純比較するとかなり大きなボリュームです。 ただし、japanwelt では着物以外の多くの日本の産品を扱っており、 japanwelt全来訪数の中での着物関係の比率が1.5-2% だった場合に23,076とほぼ同程度という規模感です。 そう考えると決して楽観的な数字ではありませんが、ドイツ以外の国々にもアプローチすることを考えればこちらも無謀な数値ではなさそうです。

この様に、設定した目標値が 『妥当かどうか』 検証するのも目標を達成するための重要なプロセスの一つですので様々な数値と見比べて検証してみると良いでしょう。

また、この時点では購買率 (1.0%), 平均単価 (13,000円) もあくまでも推測値です。が、少なくとも売上目標金額を構成する3つの要素に分解しておくことで、後々それぞれの推測値と実績値にどれだけギャップが出たか精査しやすくなるため、次年度さらに精緻な数値計画を立てることが可能になります。

さて話を戻し、中小織物社では年間来訪数:23,076を達成するための集客施策を次の様に設定しました。

ダイレクト:着物ブログの読者を増やしブックマークをはってもらう
オーガニック検索:SEO施策が徐々に効いてくるのが半年後からと想定し、商品紹介ページや着物ブログを通して継続した良質コンテンツを制作・発信する
ソーシャルメディア:インスタグラムのアカウントページの英語化、英語でのタグ付けを強化
リファレル:インフルエンサーとなる現地の着物ブロガーとタイアッププロモーションを実施
有料広告:Googleの検索広告への出稿

これらを基に、それぞれの施策から獲得する目標来訪数を設定します。 この目標値を算出するのは難しいですが、決して適当な数字を入れるのではなく、何らかのロジックを基に数字を組み立ててみてください。 例えば、「検索」からの流入については、自社の国内向けWebサイトの検索からの流入数の推移を参考値とする、といった感じです。

この時に自社の既存国内向けサイトや海外の競合のサイトの分析結果などを指標にしておくと、後々今回の海外向けサイトの実績値を評価する際に、“予測とのギャップは何か?” が考えやすくなります。 自社の国内サイトと何が違うのか、海外の競合サイトと何が違うのか、それは良いのか悪いのか、悪いなら何を改善すべきか、といった改善策を打ち出しやすくなります。

次の表はこうして推定した流入数を基に作成した予実(予算 vs実績)管理チャートです。

月別に来訪数、購買率、平均単価をモニターし実績値を入れていきます。流入経路別の来訪数はGoogleアナリティクスから取得できます。予算を下回った数値に関しては、改善の施策を考えます。上回った数値に関しては伸び代ですから、さらに伸ばす施策を考えます。こうした数値のモニタリング・分析⇒改善策⇒実施 のPDCAサイクルを繰り返すことで年間での目標数値達成を目指します。

売上を構成する要素に分解することで、より精緻な数値管理が可能に!

ここでは検索エンジンからの流入比率は55.1%(*1)と、競合サイトと比較すると低めに設定しています。初年度はSEO効果がまだ十分ではないとの想定からです。二年目以降は検索エンジン比率を上げていずれ有料広告コストをカットする計画です。

そして、年度末には目標売上額(300万円)に対してどのくらいの売り上げ実績を上げたか評価します。 実績額が目標(=予算)を上回っても下回っても評価は必ずしましょう。

ここで今一度当初の目標を振り返ります。

初年度、23,076のサイト来訪数を獲得し、その中の1.0%が平均単価 13,000円の商品を購入。
結果300万円の売上高を達成する

もし目標と実績のギャップが大きかった場合、来訪数:23,076,  購買率:1.0%, 平均単価 13,000円 の中でギャップを生んだ最大要因はどの数値だったのか、もし来訪数だった場合、さらにどの流入経路からの来訪数が予測を下回ったのか(検索エンジン? ソーシャルメディア?)など、要因を掘り下げて分析します。 そして次年度予算策定時、必要であれば数値を軌道修正、またはさらなる集客施策を追加、といったアクションを取っていきます。 これを繰り返すことで、年度初めに策定する予算の数値がより精緻なものとなり、それに対する達成度も向上します。
ここまで説明した内容はあくまで理論に過ぎません。現実は予測通りにいかないことがたくさんあるでしょう。個々の数字をきちんとモニタリングし、目標達成に向けて改善を重ねていく作業はとても地味で根気のいるものです。 一方で、方向性さえ間違っていなければ細かい努力の積み重ねはいずれ成果となって現れます。 是非、中長期視点で取り組んでいただければと思います。

STEP5:ECストア運用業務

集客施策や売上目標も定まり、ECサイトも完成し、いよいよ中小織物社のECサイトがオープンすることになりました。 さて、ここからが本番です。ECストアの運用にあたりお伝えしたいことはたくさんあるのですが、紙面の都合上ここでは海外向けの越境ECストアにおいて特に留意いただきたいポイントに絞って触れたいと思います。

■商品情報の掲載について

海外の消費者目線で必要と思われる情報を記載しましょう。例えば中小織物社の着物の場合、日本人と体型が違うヨーロッパの消費者向けに、着丈をわかりやすく表示する、モデル着用写真を載せるなどの工夫をすると良いでしょう。また、着物の着付けの仕方、着物と帯の合わせ方、など着物に関する様々な情報を提供するのも良いと思います。

■カスタマーサポートについて

英語(もしくは対象地域の言語)ができる人材が社内にいない、という悩みは多いと思います。 まずは問い合わせの数を最小にできる様、ヘルプ、FAQ、利用規約をきちんと作って掲載しておきましょう。 また、頻度の多い問い合わせは、返信内容をテンプレート化しておき、次回からそのテンプレートを活用する、というのも問い合わせ対応のスピードや質を上げる一つの策です。 問い合わせやクレーム内容をサービスの改善に反映していくことは購買率の向上に密接につながります。 定期的に問い合わせの数や内容を統計データ化し見直すと良いでしょう。

■ 在庫管理について

商品在庫については、店舗在庫や国内ECの在庫と共有する場合が多いかと思います。 注文受付後に在庫が無くてキャンセル、となるとこれもクレームになりやすいパターンです。 既存の在庫管理データと越境ECのシステムを連携しておき、注文受付時にリアルタイムで在庫有無を確認、在庫有を確認できた時点で注文確定にする、といった仕様にしておくと良いでしょう。

■ 発送について

発送対象国の選定については、いくつか考慮すべき点があります。 まず利用予定の配送サービスや決済サービスがカバーしていない国は必然的に対象外になります。 例えば、支払いはクレジットカード、配送はEMSに限定する場合、両方がカバーしている国のみが配送可能地域となります。 また、市場規模、言語、商習慣、物流インフラなどの観点からさらに対象地域を絞り込みたい場合もあるでしょう。 こうした制限事項はあらかじめシステム上に機能として実装してしまうことをお勧めします。例えば注文時、配送先の国をドロップダウンリストから選択する形式にし、配送対象外の国は選べない様にしておくと、必然的に配送可能な国の居住者のみ注文可能になり、不要なキャンセルやクレームを防ぐことができます。また、先にも書いた様に商品がなかなか届かない、というのはクレームの対象になりやすいパターンの一つです。追跡サービスのある配送サービスを使い、発送時にそうした追跡番号を注文者に提供できる様な機能を実装できると良いでしょう。インボイスなどの発送書類も注文時の入力情報を基に自動生成する様にしておくと、発送業務の手間が削減できます。

【ポイント】カスタマーサポート・在庫・発送について決めたルールは“機能”としてシステムに実装しておくことをお勧めします。 構築時の初期コストはそれだけかかりますが、後々の人的作業の負担軽減、クレーム低減につながります。むしろリアル店舗の運営よりも定型業務を自動化しやすいのはECのメリットといえるでしょう。より本質的なビジネスの拡大のための施策に時間を割くことができるためです。

THANK YOU FOR READING!

いかがでしょうか、思ったより大変そうだなーと思われた方もいらっしゃるでしょうか? 海外展開において、現地に法人を設立し店舗を構えることに比べたら越境ECは初期コスト、リスク管理の点でかなりハードルは下がります。 とはいえ、業務の実態は実店舗運営とほぼ同じです。 逆に24時間、世界各国にお店を開けている状態であることを考えると実店舗より大変な面があることも覚悟する必要はあります。 それでも海外の消費者の声やニーズを直接収集し、自社の商品を届けることができる越境ECには大きな魅力があります。 是非自社の成長戦略に寄与する事業に育てていただければと思います。

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EU販路開拓ガイドブックシリーズ

中小機構では、中小企業一社一社の輸出や海外拠点設立を経験豊富な専門家が一緒に考える「海外ビジネス戦略推進支援事業」を行なっています。今般、EU との経済連携協定の締結を契機として、EU進出を図る企業様の支援特別枠を設けるとともに、より幅広い方々を支援するため、「EU 販路開拓ガイドブックシリーズ」を作成していきます。

このガイドブックシリーズでは、進出を図る際に知っておきたいEU マーケットの動向や参入規制、展示会などを活用した販路開拓のポイントのほか、急速に進展を遂げるWEBを使ったマーケティングやEC モールの活用など、オンラインでの販路開拓のノウハウについても取り上げていきます。

平成30年3月から平成31年3月までの特別プロジェクトです。ご期待ください。

「海外ビジネスナビ」にて順次公開予定
https://biznavi.smrj.go.jp/

中小機構とは

独立行政法人中小企業基盤整備機構(略称:中小機構)は経済産業省が所管している中小企業政策の中核的な実施機関です。起業・創業期から成長期、成熟期に至るまで、企業の各成長ステージで生じる様々な経営課題に対応した支援メニューを提供しています。

全国10か所の地域本部等及び9か所の中小企業大学校を支援の最前線として、皆様の経営をサポートしています。このほか、国内外の他の政府系機関や地域支援機関とも連携し、幅広く支援メニューを提供しています。

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