アセアン経済共同体(AEC)、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日中韓FTA、日EU・EPA・・・、経済のグローバル化が、その規模と範囲をますます拡大していく中で、海外展開に挑む中小企業は、今後、引き続いて増えていくことでしょう。
グローバル化の進展とともに、ますます多くの中小企業が、輸出することで海外に市場を広げたいと考えることは自然なことです。しかし、一方で、「一生懸命頑張っているのに、輸出の成果があがらない」という企業が少なくないようです。そこで、本稿では、貿易を行うために必要な幾つかの基本的な知識に就いて解説します。
国内取引と海外取引のビジネス環境の違い
日本国内では、売手も買手も同じビジネス環境の中で商売をしています。売買双方ともに、民法、商法を始めとする日本国の法令の下にありますし、商売を巡って紛争になれば、裁判に訴えることもできます。
しかし、海外とのビジネスではどうでしょうか?
海外の国には、それぞれ民法や商法もあるでしょうし、裁判所もあります。しかし、日本の法令は、海外の国には及びませんし、日本の裁判所の判断は、基本的に海外の国には及びません。貿易では、売手と買手が共通のビジネス環境にない点が、国内ビジネスとは大きく異なります。ですから、本来、貿易は非常にリスクの高いものでした。
貿易は、専門知識を要する分野!
そこで、世界の貿易業界では、後述する「貿易の商慣習」や「貿易の規則」を創りあげたのです。また、金融業界では、基本的に国内商売にはない、「信用状決済」、「D/P・D/A決済」といった貿易決済の方法を確立していますし、保険業界では、輸出代金が支払われないリスクに備える「貿易保険」も充実させてきています。輸送途上の事故に備えるための「損害保険」は、貿易のインフラとして早くから整備されてきました。
貿易では、契約書を作るのが常識になっています。貿易の契約書には、国内取引の契約にはない準拠法条項等もあります。
貿易は専門知識を要する分野です。何も勉強しないで貿易をすれば怪我をするのは当たり前のことです。
貿易の専門知識とは?
安全に貿易を行うには、貿易の専門知識を修得し、それを使いこなせるようになる必要があります。これだけは絶対に欠かせないという事項に絞って解説します。
1.貿易の商慣習
貿易では、商談は売手か買手どちらかからの引き合い(Inquiry)に対して、売手が買手側に提示するオファー(Offer)と買手が売り手側に提示するビッド(Bid)を交互に行うことによって進行します。オファーもビッドも、規格、単価、数量、決済条件、包装、船積時期等の取引に必要な条件を、一括して相手方に提示して、相手方に対して受けるか(Accept)、受けないか(Un-accept)の二者択一を迫ります。通常、買手側が売手のオファーを受けないのであれば、売手側に自分の買いたい条件でビッドします。売手が、このビッドを受けないのであれば、売手は再度、買手側にオファーします。いずれも、取引に必要な条件を相手方に一括提示して、受けるか受けないかの回答を求めます。このように、国際ビジネスの商談は、オファーとビッドの繰り返しで進み、どこかの時点で、どちらかが相手の出してきた一括条件を受諾した瞬間に、契約が成立します。双方は確認した条件の通りに契約書を作成して、それに署名しなければならない、これが貿易の商慣習です。オファー、ビッドは、狭義の意味では、「値段を提示する」意味でも使われることもあります。
慣用語句 | 日本語訳 | |
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オファー | サブコンオファー | 最終確認条件付き売り申込み |
ファームオファー |
確定売り申し込み |
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ビッド |
サブコンビッド |
最終確認条件付き買い申込み |
ファームビッド |
確定買い申し込み |
|
台湾・フィリピン・ベトナム・シンガポール | ソフトウェアー製造業(輸入・輸出) | 海外で作成したソフトウエアーを輸入、さらにはカスタマイズの上、再輸出している。販路開拓につきご支援をいただきたい。 |
台湾 | 食品製造業(輸入・輸出) | 公的機関の補助金を使って、海外展示会に出展したものの、その後どうやってとり進めればよいか指南いただきたい。 |
オファーには、相手が受ければ即契約が成立するファームオファー(Firm Offer)と、相手が受けてもオファーした売手が契約成立したことを確認した場合に契約が成立するサブコンオファー(Offer subject to our final confirmation」があります。ビッドの場合も同じで、ファームビッド(Firm Bid)と、サブコンビッド(Bid subject to our final confirmation)があります。通常、商談がまだ初期段階では、サブコンでの提示を行い、真剣勝負での商談になると、ファームでの提示となります。
海外の商談会に参加して、海外バイヤーから、『オファーしてください』と言われて、その意味が分からなかったために、商談に入ることができなかった事例が起きています。貿易のプロは、共通の貿易知識を欠く「貿易の素人」とは、リスクがあるからビジネスしないのです。
2.貿易の規則
「FOB Yokohama US$1,500 per M/T」、これは、「取引単価は、横浜港で在来船の本船船上に貨物を積載するまでの費用込みで、トン当たり1,500米ドル。貨物の売手から買手への引渡しは、横浜港で本船船上に貨物を積んだ時点で、買手はそれ以降の費用と危険を負担する」ことを意味しています。
貿易の規則(INCOTERMS2010) | |||||
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引渡地 | 輸送手段 | 引渡し | 貿易条件 (取引用語) | 簡易呼称 | |
取引用語(貿易条件)の種類 | 輸出国で | 在来船 | 本船に貨物を置いた時 | FAS・FOB・CFR・CIP | 在来船用語 |
在来船以外のすべて | 運送人に貨物を引き渡したとき(より厳密な定義あり) | EXW・FCA・CPT・CIP | 在来船貨物以外の用語またはコンテナ・空輸用語 | ||
輸入国で | すべての輸送手段 | 輸送手段から貨物を荷卸しして。買主の処分に委ねたとき | DAT | 到着ベース用語(輸入国荷卸し後引渡) | |
輸送手段に貨物を積んだまま、買主の処分に委ねたとき | DAP・DDP | 到着ベース用語(輸入国荷卸し前引渡 |
公開日:2016年 4月 22日
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