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食肉加工品の独自開発で食肉業界を生き抜く
シェフミートチグサの前身は、現代表取締役である鴨狩 弘氏の父親 友允氏が1964年に千葉市花見川区に創業した「千種精肉店」である。創業当初は、個人商店として食肉の小売りが中心であったが、次第に業務用卸の割合を増やし、1996年には現社名の有限会社を設立して食肉加工品の製造を開始、2003年に株式会社に改組して現在に至っている。
価格競争の激化など、経営環境が厳しさを増す中、同社はこれまで自社ブランドの開発に力を入れてきた。2008年には千葉県の経営革新計画の承認と地域産業資源活用計画の認定を立て続けに受け、2015年には千葉大学発ベンチャー企業との連携による新商品開発に取り組むなど、精力的に製品の多様化と高付加価値化に取り組んでいる。なお、現在は弘氏の長男の大和氏(専務取締役)が弘氏の片腕として商品開発、海外事業を中心に活躍している。
ベトナム進出のきっかけは市場ターゲットの国際化の必要性を感じたため
海外展開を考えるようになった動機は、国内市場だけに頼っていては事業を次の世代に良い状態でバトンタッチできなくなりそうだという危機感だった。少子化により肉・肉製品の国内需要が頭打ちになる公算が大であることに加え、TPPなどにより輸入自由化が進めば輸入肉の大量流入が不可避と懸念されたためであった。
同社の海外展開は、2010年にジェトロ千葉の「千葉ブランド農水産物・商品輸出協議会」の活動に参加して香港に焼豚を輸出することから始まった。海外で行う宣伝・プロモーションに参加して日本の豚肉加工品の品質アピールを精力的に行った結果、香港の大口顧客との取引も始まり、海外展開が軌道に乗りつつあったが、東日本大震災時の原発事故発生後、千葉県産豚肉に対する放射性物質検査も厳格に実施されるようになったために輸出が完全にストップしてしまい、大きな挫折となった。
ちょうどその頃、ハム・ソーセージの製造に関するベトナムでの視察の機会があり、鴨狩 大和専務が現地に赴き調査をしたところ、現地の食文化はまだ日本ほど発達しておらず、加工食品の安全に対する認識も遅れているため、同社の高品質で安全なハム・ソーセージに対する潜在需要はかなり大きいという感触を得た。そして、数年かけて慎重に検討した結果、最終的に進出を決意した。
現地で感じられるベトナム経済の躍動感や親日的な国民性、肉の消費量が比較的大きい点、日系企業の進出や地場産業の振興がまだこれから、などの点もベトナムの魅力であった。
良質の豚肉の供給体制整備の成否が事業成功のカギ
事前準備で苦労したのはハム・ソーセージの原料となる豚肉の良質な供給先の確保であった。事前調査で近隣の養豚場・屠殺場を何か所も巡回して、飼育や屠殺の実態や生産される肉の質をチェックしたところ改善すべき点が多々あり、今のままでは日本と同じ品質の製品を作ることが難しいと考えざるを得なかった。そこで、同社の改善要求に応えることに積極的な業者を日本に招き、日本の方法を実地に見せて理解させたりすることで、日本に近い品質の肉を確保できるようなビジネスモデルの確立を実現することができた。
また、同社製品のような高品質・高価格のハム・ソーセージはそれまでベトナムに存在しなかったため、販路開拓も重要なテーマであった。ベトナム市場には国産やタイ産の大量生産で安いハム・ソーセージが出回っており、消費者向けの流通ルートが現地資本に握られているため、同社が入り込む余地はほとんどなかった。そのため、味や品質を評価して価格が高くても購入してもらえるホテルやレストランなどの業務用ルートが主な売り先となり、そのような顧客を個別にあたる必要があった。
成長著しいベトナム国内の食肉加工品市場に照準
現地調査を行いベトナム側パートナーと検討した結果、合弁会社の事業概要は下記の通りとなった。
(1)事業内容:
①ハム・ソーセージ等の食肉加工品および精肉の製造および販売
・ 一般消費者への販売は一部の小売店ルートに限定し、業務用の需要を主な販売先とする。
・ 国内販売だけではなく、ベトナムからの輸出も将来考えられるが、いま日本に輸出すれば日本の農家・同業者を圧迫することになるので日本への輸出は当面考えない。機会があればベトナムの周辺国への輸出に踏み切る可能性はある。
②和牛の日本からの輸入・販売
(2)工場所在地:ダナン市ソン・チャ区ダナン水産サービス工業団地ゾーン(敷地面積 2.2ha)
(3)合弁会社のパートナー:ダナン市の個人投資家
(4)出資比率: 同社65%、ベトナム側35%
当初の出資比率は51%であったが、増資により65%までシェアを増やした。
最大の誤算は工場建設の大幅な遅れ
会社設立から操業開始までの準備段階においては、日本とベトナムのビジネス習慣の違いから苦労させられることが多かった。特に事業計画に深刻な影響を与えたのが工場建設の遅れであった。同社としては工場建設を日本のゼネコンに発注する意向であったが、パートナーが現地ゼネコンの起用を強く推したため、最終的には「郷に入っては郷に従え」と考えてパートナーの提案に同意した。現地ゼネコンの工事費は確かに日本のゼネコンより低かったが、実際に工事に入ると設計通りに仕上がっていない箇所が多数発見されたので、すべてリストアップして手直しを要求した。しかし、それも完全には直されておらず、その欠陥が現在でも尾を引いている。しかも手直しのために工期が大幅に遅れる結果となったため、操業開始が更に遅れることとなった。
同様なトラブルは設備工事でも発生しており、今から振り返ると、当時現地側パートナーの意見に妥協せず、断固として自分の主張を通すべきだったと後悔している。
また、準備段階ではベトナム人従業員の教育に多くの時間とコストを割いた。合弁会社の創業メンバーの人選・採用は現地側パートナーに任せたが、紹介されたメンバーはいずれも高学歴で優秀に見えて心強かった。ただ、食品加工の仕事は当然未経験のため、マニュアルや現地での説明だけでは不十分だと考え、日本で研修を受けさせた。
ほとんどの社員は英語を話せないため、研修開始時期から常にベトナム語の通訳の同席は不可欠であった。最近はダナン市に進出する日系企業も多く、観光客も増えているため、日本語―ベトナム語の通訳が不足しており、多額の給料を用意しなければ優秀な通訳を確保できなくなっている。
当面の重点は高級外食店への業務用卸
2014年にダナン工場で操業を開始したあと、最も注力した課題が現地顧客の開拓であった。ベトナムは養豚頭数が世界4位の豚肉生産大国で、ベトナム人の消費量も大きいが、同社が生産・販売しようとした豚肉加工品は、添加物が健康に良くないという説が広まっている上に、大量生産の安物が出回っているため、同社が小売店ルートで一定のシェアを確保するのが難しいことが分かり、高価格でも品質が良ければ購入してくれる高級飲食店をメインターゲットにすることにした。そして営業努力の結果、ダナン市の5つ星クラスの外資系ホテルが最大の顧客となり、ハム類が朝食のビュッフェなどで消費されている。さらに製品の品質が現地で評判となり、日系のデパート・スーパーマーケットや日本食レストランからも多数引合いを受けるようになってきている。
また、2014年3月に日本からの牛肉輸入が解禁された際、同社は輸入ライセンス取得の第一号業者となり、当初からの念願であったベトナムでの和牛の普及活動を開始し、各種の紹介イベントを精力的に行っている。
しかし、会社経営では今でも習慣や文化の違いに悩まされている。ベトナムでは外資の投資ラッシュが続いており、同社が日本で研修を受けさせたスタッフも、他社から高い賃金で誘いがあればためらいなく転職してしまうため、従業員を引き留めるために毎年定められる最低賃金上昇率以上の賃上げをする必要がある。
今後期待していること
これまで当地での和牛の普及に努めてきたが、和牛の真価を評価されるためにはやはり日本の食文化のベトナムへの浸透が不可欠である。その意味では最近日本食レストランが急増しているのは追い風で、すき焼きやしゃぶしゃぶを正しい食べ方で食べる機会を増やし、和牛はやはり味が違うということを体感させることが和牛普及への近道であると期待している。
また、現地資本100%となっているハムメーカーとハム・ソーセージなどの加工品の販売提携を始めることも視野に入れている。
プロフィール
株式会社シェフミートチグサ
所在地 千葉県千葉市花見川区千種町210‐5
創業 1964年
設立 1996年
資本金 3,900万円
従業員数 40人
事業内容 食肉の加工及び販売、食肉加工品・調理加工品・惣菜の製造及び販売
電話番号 043‐259‐3705
URL http://www.chefmeat.co.jp/
公開日:2017年 3月 16日
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