食品・雑貨の輸出に詳しく、国内外の展示会における具体的な商談指導に定評がある横山 徹さん。初めての海外販路開拓に役立つヒントと注意点を伺いました。

食品輸出の場合、まず特有の制度があります。たとえば動物検疫や植物検疫がありますし、残留農薬や抗生物質に関してはコーデックス(CODEX)という食品の国際規格がありますが、国ごとにその基準値よりも厳しく設定している場合があるので、それに従わなければなりません。
日本人にとっては思いがけない規制もあります。たとえば煮干しをアメリカへ輸出する場合、内臓を除去しないと許可が下りないんです。我々の感覚で「干してあるから安全だし、煮干しはこういうものだから」と言っても通用せず、日本にシップバック(返送)されるか、現地で廃棄処分になってしまいます。
EUでは、かつおぶしが輸入禁止なんですよ。かつおぶしを燻す過程で生じる焦げやカビを使う点が問題視されているからです。加工してあればよいのかというと、それは各国の輸入当局に聞いてみなければわかりません。
輸出入通関手続きは複雑ですから、ほぼ各国に、輸入可能かどうかを事前に教えてくれる「事前教示制度」があります。農林水産品の加工品であれば、そのサンプル写真を輸出したい国の税関窓口に送って打診すると、「これはだめですよ」「可能ですが、こういう手続きや検疫を受けてください」というふうに文書で教えてくれるのです。便利でわかりやすいので、その回答を参考に段取りをするといいですね。

展示会でも輸入禁止品はダメ
中小企業によくある勘違い

展示会出展のための持ち込みでも、各国の規制ルールを守る必要があります。ただ、実際には展示会に輸入禁止のものが並んでいるという場合があるんですよ。
よくある勘違いは、輸入禁止の品だと気づかずに展示会に持ち込んでしまい、違う意味で人気が出てしまうケースです。禁制品で珍しいから試食に人が群がってきただけなのに、「これは売れる!」と勘違いして製造をはじめてしまうんですね。でも、実際には輸入できないのだから売れません。これは中小企業さんに非常に多いトラブルなんです。
輸出入はなにも大袈裟なものではなく、みなさんが海外旅行に行って手荷物を持ち込むときの手続きと基本的には同じなんです。禁制品を持ち込んでも見つからないのは税関を通過するときに見逃されているだけで、見つかれば当然ペナルティーが発生します。悪質な場合は、関税法違反となります。他企業の「うちは平気だったよ」という言葉を鵜呑みにせず、自己責任で調査して持ち込んでください。

物流はとにかく自己防衛
投げても蹴っても割れない梱包を

サンプル注文や現地催事への小口発送は、日本の大手宅配業者の国際宅配便が便利です。ただし、日本の業者であっても、海外に荷物が渡ったとたん、「誤配」「破損」「紛失」という3つの問題が起こる可能性があります。先進国でもこれは同じで、日本国内の感覚で梱包をすると、瓶のたぐいはガチャガチャに割れてしまいます。
なぜかというと、海外では積み下ろしの際に、荷物を「投げる」からなんです。荷物の取扱いの常識が、日本とはまったく違うのですね。なので、とにかく商品を梱包材でぐるぐる巻きにして、投げても蹴っても割れないようにして送るしかありません。私はいつも、「頭の上から3メートルくらい先にポーンと投げて割れていなければ、どこの国でも大丈夫です」とアドバイスしています。
誤配と紛失に関しては保険でカバーするか、どうしてもリスクを避けたければハンドキャリー(手持ちで運ぶ)しかありません。自己防衛しかないのです。

表示ラベルの裏ワザ
現地で類似品を見てみよう

食品には「消費期限」と「賞味期限」がありますが、海外では基本的に「消費期限」を表示すればOK。その際、気をつけたいのは現地の気候や気温を考慮することです。
「常温で保存」という表記ひとつとっても、日本と現地の常温の感覚は違います。暑い国なら27~30℃、逆にロシアあたりは寒くて常温がマイナス5℃かもしれません。現地でトラブルが起こらない表示を心がけてください。
既存商品をそのまま海外で販売する際も、裏面の表示ラベルは販売国側の決まりに対応して貼る必要があります。
何をどう表示したらいいのかわからないときは、現地のスーパーマーケットに行き、類似商品の表示ラベルを見て参考にすることです。ラベルには輸入業者の連絡先も記載されているので、そこに連絡して商売のきっかけにしている中小企業さんもいますよ。
展示会で陳列のみを行う際は、保税(外国貨物に対する関税の徴収を一定期間猶予する制度)が認められる場合もあります。会場で販売する場合は、原則的には、その国の法律にのっとった通関や納税の手続きが求められます。

「日本の味」にこだわりインバウンドを海外顧客に

基本的に食品は、保守的な分野です。どこの国の人も食べ慣れたものが一番で、海外の新しい食べ物が浸透するには時間がかかります。
ただ、最近はインバウンドの影響で、日本の「本物の味」が人気ですね。ラーメンやカレーもそうですし、ここ7~8年で売れ始めたのが生卵です。生卵って、日本人以外は食べる習慣がなかったんですよ。ところが日本の旅館に泊まると、朝食に卵かけごはんが“ジャパニーズスタンダード”といって出てくるわけです。最初は違和感があったものの、思い切って食べてみると外国人にとってもやっぱりおいしいんですね、生卵は。
逆に生で食べられるということは、それだけ新鮮で安心安全ということでもある。日本の卵は殺菌洗浄していて、サルモネラ菌の心配がないですからね。すごいということで人気が出て、生卵が輸出されるようになったのです。
このように、日本国内で商品を味わってくれた外国人が、自国に帰れば海外の顧客になる可能性があります。いかにして観光客をうまく囲い込み、シナジー効果をあげていくかが、いま重要なマーケティング上の課題となっています。

ビジネスの4つの流れを理解しトラブルを回避する

ビジネスには、「商流」「物流」「金流」「情報流」という4 つの流れがあります。日本国内ではあえて意識しなくてもみなさん上手くできているところですが、海外企業との取引では言葉や商習慣の違いからトラブルが発生しやすいため、あらためてビジネスの4流を意識し、一つひとつ取り決めをしながら進めていく必要があります。
とくに「情報流」が耳慣れないかも知れませんが、これは日頃のコミュニケーション順序のことです。たとえば、間に商社が入る間接貿易なのに、現地販売店からメーカーに直接オーダーが入ってきてしまうケースがあります。そこはちゃんと情報流に則り、商社を通してオーダーしてもらうようお願いしなければなりません。商社が状況を把握できなくなると荷物を運ぶ船を確保できなかったり、為替変動などで利益が確保できなくなるといった恐れがあるからです。情報流が乱れることで物流や金流が乱れ、信頼関係を損ねてしまうことがあるのですね。
ただ、現実には教科書通りにきっちり進めるのはむずかしいでしょう。柔軟に対応すればよいのですが、それでも最初に「情報流はどうしますか?」「物流は?」「金流は?」と確認し、取り決めを交わしておくことが肝心です。

CHECK POINT 1
ビジネスにおける4つの「流れ」:商流・物流

CHECK POINT 2
ビジネスにおける4つの「流れ」:金流・情報流

収益ではなく「人材教育」を目的とした海外展開もアリ

教科書的にいえば、海外展開や展示会出展では、なぜ出るかという「目的」をはっきりさせることが大事だとされています。でも、現実には最初から明確な答えを出せる中小企業は少ないのではないでしょうか。私は、目的は動きながら考えてもいいと思います。
そもそも海外展開って、みんなが儲かっているわけではないんですよ。少なくとも食品輸出が収益の屋台骨になっているという中小企業は稀ですね。収益のメインにならないのだとしたら、本当に海外に出る必要はあるのでしょうか?
国内の商売で生きていけるなら、なにも無理に海外に出ることはありません。自分の半径5キロ以内の商圏でメシが食えるなら、そのほうがいいのです。
でも、社長さんが相談に来て、20~30代の息子さんや娘さん、あるいは社内の若手を「後継者に育てたい」というような場合は、僕は100%海外展開をすすめています。
海外で販路開拓しようと思うと、先ほどの商流や人脈づくりをきっちりやらねばなりませんから、儲けはともかく、人はすごく成長するんですよ。これは教育費や人材育成費の先行投資といえるのではないでしょうか。
まずは、海外展示会へ出る前に、国内展示会で練習してみてください。練習の場として、いま一番適しているのは「フーデックス」です。一昔前は国内業者向けの展示会でしたが、最近は来場者の外国人比率がどんどん増えているんですよ。いま海外のバイヤーたちは、日本各地の知る人ぞ知るような食材を探して歩くのが楽しいようですから、小規模であることがむしろチャンスになります。国内で海外取引のノウハウを蓄積して、海外販路開拓に取り組んでください。

海外では遠慮はトラブルの元
なんでもズケズケと聞いてみる

海外展示会には、良いバイヤーもたくさん来ますが、詐欺師やよくわからない人たちも集まってきます。慣れない市場で親切に便宜をはかってくれる人がいる一方で、怪しいブローカーの場合もあるので気をつけなければなりません。
その人物が「商流」のどのポジションに入ろうとしているのかがわからなければ、迷わず「あなたは何者ですか?」「私たちと何をしようとしているの?」「手数料をとるの?」等々、しっかり聞いてください。日本人同士では「こんなことを聞いたら失礼かな?」ということも、海外ではズケズケ聞くべきなのです。
買い手に対しても遠慮することはありません。「俺はスーパーを30軒持っている地元の有力者だ」と言って取引を迫り、商品を持ち逃げする相手もいます。それを避けるには、「スーパーの場所はどこですか?」「明日、見に行くから教えて」とズケズケ聞いて、自分の目で確認すればいいのです。
海外に出る以上、肚を決めて地元の人たちと付き合う必要がありますし、疑っていてはきりがありません。最初にどういう人なのかをきっちり見極めることで、落とし穴に落ちる確率は非常に低くなります。