デザインのみならず、集客や売り上げにも効果のあるブースづくりを追求する一級建築士の竹村尚久さん。「展示会のレベルが上がり、出展に成功する企業が増えれば」と、長年蓄積した貴重なノウハウをセミナー等で広く伝えています。

当社は創業以来、年間約100 件のブース設計に携わってきました。昔は失敗もありましたが、1社ごとに苦心しながら、「どうしたら来場者に興味を持ってもらえるか」と工夫を重ねることで、ノウハウを蓄積してきました。
私がブースデザインで重要視しているのは、ブランディングに関わる「デザイン性」と利益につながる「集客性」を両立させることです。出展を成功させるには、単にきれいなブースをつくるのではなく、集客するにはどうすればよいかをとことん考え抜いてデザインする必要があります。
ところが、いま展示会で私たち以外にそれを実現しているブースはほとんどありません。
出展コンサルタントは集客のノウハウはありますがブース設計に関しては専門外ですし、ブース設営の専門業者は出展企業の注文通りに建てるだけというケースがほとんどです。デザイナーを入れれば見た目はきれいになりますが、それだけでは集客効果は見込めません。

「見込み客」を招き寄せる計算され尽くしたブースの力

私のブース設計には、無駄な線は一本もありません。棚の位置も、照明の光量も、通路の角度さえも、すべて集客のために計算ずくです。
さらに商品の陳列(VMD)や、展示会当日のブース内のスタッフの立ち位置や動きまで綿密にアドバイスするので驚かれます。
なぜ、そこまで突き詰めるのかというと、的確に「自分たちのお客様」に見つけてもらえるように計算され尽くしたブースと、なんとなくつくったブースとでは、「成果の質」が違うからです。
考え抜かれた理想のブースには、「見込み客」の獲得率を高める力があります。人海戦術でブースに人を呼び込み300枚の名刺を集めたとしても、今後の取引につながる見込み客がほとんどいなかったのでは出展は成功とは言えませんが、たとえ100枚しか名刺は集まらなくても、そのうち50人が見込み客であれば出展したかいがあるのではないでしょうか。
最近うれしかったのは、やや不利な小間位置を割り振られたブースに、理論的に導線を仕掛けることで活況をつくり出せたことです。その企業は2000~3000万円の売上げを見込んでいましたが、それを大きく上回る1億5000万円の売上げを達成し、ブースデザインの威力に驚いていました。このような成果を導き出せてこそ、ブースデザインは成功したと言えると私は思っています。

「徹底的な来場者目線」で捕まりたくないお客様を捕まえる

では、どのようなブースが理想的なのでしょうか。基礎的なことですが、まずブースデザインにおいては、徹底した「来場者目線」が大事です。
多くの出展企業は「大規模な展示会に出展すれば、たくさんのお客様にブースに来てもらえる」と考えがちですが、期待に反して、まずお客様は集まらないのが現実です。 なぜなら、来場者は「目的以外のブースに捕まりたくない」と考えているから。なかなか立ち止まってくれないばかりか早足で、ブースの前を通り過ぎるのはほんの数秒。チラッチラッとブースを見る時間もわずか0.5秒ほどで、もし逆側のブースに興味を引かれてじっと見られたらおしまいです。
こうした来場者の心理や行動を理解すると、「通路際」のつくり込みがいかに重要であるかということや、より遠くからでも目を引く工夫をしないと、お客様に近寄ってきてもらえないことがわかります。
また、初めて出展する人が陥りがちな失敗が、「商品の出し過ぎ」です。ブースの一小間は、「こんなに狭いんですか!」と驚くほど小さなスペースなのですが、そこに「あれも置きたい」「これも置きたい」と盛り込んでしまい、一番アピールしたい商品を埋もれさせてしまうのです。
そうならないために商品は絞り込み、バイヤーに1分間で商品説明できるシートをつくるのがおすすめ。そのほうがずっと効果的で、印象に残ります。
照明をうまく壁にあてていないケースも残念ですね。光を壁や四隅にあてるのは、空間を明るくするインテリアの基本テクニックなのですが、意外に知らない人が多いようです。

ブースデザイナーは、まだ少数自ら基礎を学んで活用を

現在、そうした集客性にまで踏み込んで提案できるブースデザイナーは、まだほとんどいません。
その背景には、「ブースにそこまで予算をかけられない」という企業側の事情もあると思います。
たとえば、集客効果を高めるには照明器具が要ですが、私たちが推奨する明るいLEDライトは1灯1万円もします。予算が厳しい場合、多くの設営会社では、「では照明は3000円のものにしましょう」という提案でコストダウンを図ります。照明の意味や成果は後回しになってしまうんですね。
しかし、私は成果を最優先すべきと常に考えていますので、「照明は譲れないので、絶対に入れましょう」「その代わり、収納付きの高価な展示台をやめて代用品を探します」というような提案でコストダウンを図ります。限られた予算を有効活用できるのです。
多くの出展企業がブースデザインの重要性に気づき、ブースデザイナーの存在が当たり前になれば、展示会のレベルが上がり、今よりもっと成功者が増えるはず。そんな思いで、ここ数年、セミナーを通じて広くノウハウをお伝えしています。その中から、出展に成功するために最低限これだけはおさえてほしいポイントをご紹介します。
設営会社へのオーダーの際にも役立つはずです。ぜひ、ご活用ください。

CHECK POINT 1
「遠くからの目線」を意識し、頭より上にキャッチを配置する

来場者にブースに立ち寄ってもらうためには、できるだけ遠くからブースに気がついていただくほうが効果的。遠くにいる人は、人混みの中でも見える「ブースの上部」を見ます。「遠くからの目線」を意識して、必ず人の頭より上にキャッチを配置してください。

CHECK POINT 2
キャッチの言葉は、「瞬時」に読める工夫を

次のミッションは、キャッチの言葉。歩いている来場者が「パッと見た瞬間」の0.5秒で「何が言いたいのか」を伝えなければいけません。英語や漢字よりも「ひらがな」、文章よりも「単語」、そして「一番はじめに気づいてほしい言葉を大きく書く」などの工夫をしてください。海外でも「ひらがな」を使うことで、日本企業であることがひと目で伝わります。

CHECK POINT 3
来場者が立ち寄りやすい雰囲気づくり「動的待機」と「さくら」

来場者は「自由に見たい」「捕まりたくない」と考えているので、スタッフの待ち方や立ち方を工夫します。
ブースに近寄りやすい雰囲気を出すためには、動的待機とさくらを活用するのが効果的です。

CHECK POINT 4
「陳列」と「展示」の違いを理解して並べる

海外、とくにヨーロッパは、建物を見てもわかるように「見た目」をとても大事にする文化。ブース全体のデザインはもちろん、陳列もおろそかにはできません。まず、「陳列」と「展示」の違いを理解して並べましょう。陳列は、商品の種類と内容を正確に伝えるためのもの。展示は、商品の魅力を伝えるためのディスプレイです。

陳列も展示も、「余白」を大切に、あれもこれも置こうとしないこと。とくに小さいブースほど、テーマを決めて出す商品を絞り込んだほうが魅力的です。他の商品は引き出し等に入れておき、商談の際に必要があれば取り出すようにします。

CHECK POINT 5
照明は、明るく!

照明には、ブースを目立たせ、商品をきれいに見せる効果があります。集客効果のうえで優先順位が高く、予算をかける必要があります。要になるのは、照明器具の色と強さ、そして光をあてる場所と方向です。以下の3点をおさえてください。
とにかく明るい照明器具を
白っぽい色の、光が強い電球を選んでください。当社が用いるのはCDMやLED投光器です。
値段は高いのですが、その価値はあります。

お客様の方向から商品を照らす
商品には、必ず光をあてること。その際、お客様が見ている方向と同じ方向から光をあてるようにします。
お客様の足を止めるために重要な通路際の商品に光をあてるには、上に梁を設けて照明器具を設置する必要があります。

床ではなく、壁を照らしてブース内を明るくする
壁に向かって照明をあてることで、空間を明るく広く見せることができます。
ブースの四隅を照らすのも、空間を広く見せる効果があります。

CHECK POINT 6
ブースイメージの「カラー」を決める

ブースイメージを統一し、どのように打ち出すか考えましょう。決定方針の基本は3 つです。
1 メインカラーを決めて統一
会社のコーポレートカラーや、ブランドイメージを表現するカラーをメインカラーに決め、「◯◯色のブース」という印象を来場者に与えると効果的です。ユニフォームなどもメインカラーで統一します。
2 取り扱ってほしい店舗イメージに合わせる
高級なセレクトショップに置きたいなど、ターゲットが明確な場合に効果的です。バイヤーが「自分たちの店舗に置いたらこうなるのだな」と想像しやすいイメージを打ち出してください。
3 周辺ブースとの差別化
当社では、ギフトショーの香りのエリアは白系のブースが多いため、あえて濃い色をイメージカラーにして差別化したこ
とがありました。来場者の目を引くことは重要なので、こうしたブースイメージの決定方針も有効です。
写真・図版提供:SUPER PENGUIN株式会社

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公開日:2018年 3月 6日

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