小売・サービス業の経験を生かした展示会でのお店づくり(ブース設営)のアドバイスが好評の田中聡子さん。接客までフォローするそのテクニックは、「すぐにできて効果的」と好評です。

展示会出展って、すごくお金がかかりますよね。ただ商品を並べて発表するのではなく、来場した人たちに「今日、商談して帰ろう」と思わせなければもったいない!良い意味で“寝た子を起こす” のが展示会の役割です。

出展するみなさんは新規のお客様を開拓したいと思っていますが、来場者のなかには目的のブースだけ見に行って一目散に帰る人が大勢います。忙しいし、会場も広いので、知らないブースをじっくり見てまわったりしにくいんですね。

でも、街を歩いていても、「ん? いま何か私の目にいいものが飛び込んできたぞ」と興味を引かれて、ふらっと寄り道することってあるじゃないですか。さらにそこで感じのいい接客を受けると、予定外のものでも思わず購入してしまったり、「こんなにいい店があったんだ」「また来よう」と好印象が残ります。

展示会でもそんなふうに新規客の足を止めることができれば、寝た子を起こすことができるんです。いったい、どのような工夫をすれば効果的なのか、ブースづくりのコツをお伝えします。

CHECK POINT 1
「主役」「脇役」をはっきりさせる

Q. これはなんの昔話でしょうか?

左のイラストは、すぐに『桃太郎』とわかりますよね? それは主役がどーんと大きく、真ん中にいるからです。ところが、同じ構成要員でも右のように脇役のサルが真ん中で大きな顔をしていると、一目では桃太郎のお話だとわからなくなって混乱してしまいます。

じつは、売れるお店づくりの前提には、「適時」「適品」「適量」「適所」「適価」という5 つの適性があります。「適切なタイミングで、適切な商品を、適切な量だけ、適切な場所で、適切な値段で売れば売れる」ということです。

ところが、このなかでよくなおざりにされているのが、「量」と「場所」。売る側は自分たちのメインの商品(主役)が何かを知っていますが、お客様は何も知りません。主役が一目でわからないと「何の店?」と混乱してしまいます。そして「自分には関係ないだろう」と判断し、通り過ぎてしまうのです。

ブースづくりも同様です。まずブースの「主役」と「脇役」をはっきりさせて、主役をどーんと大きく打ち出してくださいね。

まず足を止めてもらい、
バリエーションは接客で伝える

たとえば、赤いPOPが目立つからといって、すべてのPOPを赤くしたら意味がありませんよね。売る側はつい「あれもこれも」とアピールしたくなりますが、まずは「うちはコレ!」と絞り込んで打ち出したほうが成約率の高い見込み客に気づいてもらえます。

その後、接客しながら必要に応じて、「こんな商品もありますよ」「こんなこともできますよ」と脇役を紹介していくと商談がまとまりやすく、おすすめです。

CHECK POINT 2
来場客の「3 つの目」を意識する

〇「遠目」の役割:ブースの存在に気づいてもらう

〇「中目」の役割:来場者をブースの中に誘導する

〇「近目」の役割:「きの・こ(機能+効果)」で納得度アップ

CHECK POINT 3
ブースを支える「接客の力」

展示会でも「売場は舞台」。実際にお客様が名刺交換したくなるかどうかは、「人」が握っています。慣れないからといって、事務所にいるのと同じ気持ちでブースに立っていては邪魔なだけ。接客もしっかり事前準備していきましょう。

必ず事前に接客研修を


日頃、工場や研究所で働いている技術者を、何の説明もなくブースに派遣していませんか? 隅のほうでむっつり押し黙っていたり、自社ブースの前でヒマそうに腕組みしていたり、腰に手を当てて通せんぼしてしまっている姿をよく見ます。
こうした残念なケースは、接客の重要性を理解していないために起こります。接客に不慣れで、「どうしたらいいかわからない」のです。

営業職以外の人員をブースに出す際は、事前に必ず接客研修を行い、名刺交換のやり方から再教育して「これなら大丈夫だから安心して行ってこい」と送り出してください。その手間も含めて展示会のブースづくりです。

「なぜ、あなたなのか」を伝え、前向きに取り組んでもらう


「この商品の凄さをもっとも正確に説明できるのは、開発技術者である君だから」というように、「なぜ、あなたに頼むのか」という理由がわかると、不慣れな接客にも前向きになれます。「数合わせで行ってきて」はNGです。

ブースに人が入りやすい「動的待機」


スタッフがさりげなく動いていると、お客様は入りやすい

ブース内では「動的待機」を心がけましょう。
動的待機とは、店の中をさりげなく動きながら、お客様のご来店を待つこと。何もせずに立っているだけではお客様はブースに入りにくく、入っても監視されているようで居心地が悪くなり、すぐに立ち去ってしまいます。
商品の整理整頓やディスプレイの調整などをしながら、お客様に呼ばれたらすぐに対応できるよう目配りしてください。

接客の基礎は「ど・こ・み・え・た」


〇接客の基礎は「ど・こ・み・え・た」

もし、病院に行ったときにお医者さんが白衣を着ていなかったら、「この人、本当にお医者さんかしら?」と不安になってしまいますね。身だしなみには、相手に自分が何者であるかをわかりやすく伝える役割もあります。展示会では、ひと目でこのブースのスタッフだとわかるように、カラー統一したお揃いのユニフォームをつくるのがおすすめ。お客様から格段に質問してもらいやすくなります。

〇遠目から「背中」を見られています

スタッフの様子は、案外、遠目からも見られています。つねに「ど・こ・み・え・た」を意識し、気を抜かないようにしましょう。せっかく見られているのですから、ユニフォームの背中側にキャッチコピーを印刷しておくと効果的。正面側は目が合うため、お客様にあまり見てもらえません。「背中」が見られているのです。

印象に残るアプローチ


〇気軽に「体験」できる仕掛けで足を止める

接客業でも、アプローチは非常にむずかしいもの。お客様は売り込まれるのが嫌なので近寄ると逃げますし、なかなか商品に触ろうとしません。

そこで、「どのように向こうから興味を持って試してもらうか」が腕の見せどころ。

たとえば、見た目よりも軽い金属の新素材であれば、店頭で「この鉄アレイ、何キロだと思いますか?」とクイズを出し、チャレンジしてくれた人に粗品を渡すといった仕掛けをすることで、興味を持ってくれたお客様と自然に会話することができます。

〇会期後の営業にも役立つ!

こうした体験型のアプローチは、その場の賑やかしだけではなく、後日お客様との親和性を高めるためのテクニックにもなります。展示会では多数の名刺交換をしますが、「鉄アレイの重さクイズをやっていた◯◯産業です」と言えば、すぐに「ああ、あの会社か!」と思い出してもらえます。