株式会社Keiden

株式会社Keidenは、1971年、現最高顧問の酒井信世氏が個人経営で創業、独自ブランドによるカードキー・セキュリティ機器の製造販売で50年の歴史を持つ老舗鍵メーカーである。長い歴史で数多くのノウハウを蓄積し、特にカード錠の開発、製品化の特殊技術、品質の高さでは業界でも高い評価を得ている。本格的な海外展開を始動すべく、まずは米国に焦点を当てて現地調査を開始することになった。

酒井信世氏は10年ほど前にアメリカの展示会に出展し、現地錠前メーカーと商談を進めた経験を持つが、残念ながら、その時はビジネスの成約には至らなかった。

Keiden社の強みは50年の歴史で積み上げた独創的な技術、とりわけ20年程前、自社開発により特許を取得した「eシリンダー」である。「eシリンダー」は、錠前のシリンダー部分を交換するだけで、今までのメカニカル錠が信号を受けて施解錠される電気錠に生まれ変わるという独自技術だ。特殊構造による防犯性の高さに加え、既設錠にも簡単に取り付けできる利便性、低コスト、省電力等が特徴の「eシリンダー」は、国内では大手錠前メーカーから共同開発のコア部品として採用されるなど、既に業界での高い信頼、知名度を確立している。

この独自技術を組み込んだ製品を海外に紹介し、「Keiden」として信頼のブランドを世界に広めていくことが酒井氏の強い想いである。酒井氏は海外事業を模索するため、英語が堪能な若手人材を海外担当として中途採用した。酒井氏の指揮監督の下、社員2名を中心メンバーにして海外展開ハンズオン支援(長期支援)が始まった。

海外事業計画書作成から渡航準備まで総合支援

米国展開で先ず気になるのは、「eシリンダー」の市場性である。果たして海外の市場で受容されるか?鍵や錠前と言えば私たちの毎日の生活を支えている身近な道具だが、業界や市場の状況については馴染みがないものだ。まして、「eシリンダー」という独自開発した特殊構造が海外で受容されるのか、日本でできる限りの情報収集をしながら、現地の実情を確認することが必要と思われた。そこで、中小機構のアドバイザーは、「市場を自分の目で確かめに行きましょう」と提案をし、支援計画の中心に渡航調査に置くことにした。

日本でできる限りの情報収集を行い、仮説をしっかり立てるとより現地調査の効果は大きい。まず、担当メンバーには、競合他社の動向やアメリカの防犯事情など、ネットの情報の調査や、アメリカの現地アドバイザーとのオンライン面談を通して、出来る限りの情報収集を事前に準備するようアドバイスした。外部環境の分析に加え、自社の強みや弱みなど内部環境も徹底的に分析し、そこから導かれる戦略骨子を海外事業計画書仮説版に盛り込んだ。

海外事業計画書の作成支援は当伴走型支援の最大の特徴である。戦略や計画を文書化することで、「経営方針と目標が明確になった」、「自社の強み・弱みを認識できた」等のコメントを頂くことの多い好評の支援だ。

Keiden社においても、海外事業計画書の仮説版の作成を通して戦略の方向性を明確にし、またその実現に向けた商談ツールの作成など、具体的な施策に対する支援を計画的に実施した。

現地での商談にむけてパワフルかつ分かりやすい営業ツールを準備

現地調査は店舗訪問と展示会での企業訪問の2本立てで実施することにした。業界関係者と話を交わすことで市場ニーズを把握したい。そのためには自社製品を訴求するための商談ツールが必要だ。そこで、シカゴで日系企業のアメリカ進出支援をしている現地アドバイザーの助言の下、商談に使える営業提案書とフライヤーを作成することになった。単に日本語を英訳するだけでは実際の商談では使えない。アメリカのバイヤーの心を動かすメッセージや文章構成、訴求の勘所等についてアドバイスを受け、何度も修正を加えながらパワフルな資料に仕上げることができた。特に、現地アドバイザーが勧めるレターサイズ表裏のコンパクトなフライヤーは、多忙で時間を取れないアメリカ人バイヤーに製品のエッセンスを瞬時に伝える上で大変有効なツールとなった。

また、営業ツールには、「eシリンダー」の強みを、「破錠困難な防犯性」、「様々な制御機器に組み合わせ可能な汎用性」、「取付工事の容易性」の3点に集約して盛り込んだが、これは海外事業計画書の仮説版を策定した際の整理が直接役立った。計画書のおかげで、戦略と一貫性のある戦術を円滑に作ることが出来たと言える。

アメリカへの現地渡航での収穫と、鍵業界の実情からみえた課題

1週間の旅程で、シカゴ郊外の店舗訪問、及びピッツバーグでの展示会「DHI conNextions」に足を運んだ。業界関係者の生の声を収集できたことが最大の成果だ。アドバイザーと中小機構職員が同行した。シカゴでは現地アドバイザーの図らいで、知り合いの業者から鍵の取り付けのデモを交えての説明を受けるなど、一味違った聴き取り調査を経験できた。また、ピッツバーグの展示会では、過去に一度アプローチしたものの音信が途絶えていた企業のブースを訪れ商談再開をその場で申し入れるなど、劇的な現場対応を味わった。実際、その企業とは帰国後、製品の仕様要望や価格交渉等のやり取りが続いた。

一方で課題も明らかになった。アメリカの鍵業界は想像以上に地域性の高い業界であり、地域によってメーカーの勢力図が異なる。地場の小売店との関係構築が鍵を握る泥臭い市場と痛感。また、緊急時の解錠対応や消防法の規則など、製品開発に反映すべき課題も見えてきた。

今回の渡航調査で得た気づきや経験、そして支援全体を通して学んだノウハウは、支援終了時に中小機構に提出する海外事業計画書に盛り込んだ。全て今後に活用できるものばかりである。本支援により、海外展開の初期プロセス一連を網羅することがきたという点で、大いに意味のある伴走型支援を提供できたと考えている。厳しい道のりではあるが、計画をブラッシュアップしながら、海外展開を力強く推進して頂きたいと願ってやまない。

シカゴ近郊の鍵専門店にてヒアリング調査

企業の声

海外展開について知識ノウハウが無かった弊社に対し、本当に一から手取り足取り教えて頂きました。支援1年目はコロナ渦真っただ中であり、様々な問題に直面しました。サンプルの送付や販促ツールを作成し、Web会議のアポイントメントを取ることに成功しました。しかし、途中で相手の応答が途絶えるという困難な局面もありました。そんな時には、アドバイザーや職員の皆様に支えられ、結果として渡航が実現し、非常に貴重な情報と経験を得ることができました。無理なお願いなどに対しても快く承諾してくださり、毎回お話しさせて頂くことが弊社の大きな財産となりました。

企業プロフィール

株式会社Keiden
URL: http://www.keiden-jp.com/
代表者: 代表取締役社長 小林 香
所在地 東京都文京区
資本金 2,000万円
従業員数 39人
業種 製造業
事業内容: カード錠、非接触IC取替錠、カードリーダー、電子シリンダーの製造販売
商品内容: シリンダーを取り換えるだけで既存の錠前を電気錠にする「e-Cylinder」「Fe-Lock」等の自社開発製品

Keiden社の社長(中央)、及びプロジェクトメンバー

担当アドバイザー: 泉 俊雄 中小機構 中小企業アドバイザー(国際化・販路開拓)

中小機構について

独立行政法人中小企業基盤整備機構(略称:中小機構)は経済産業省が所管している中小企業政策の中核的な実施機関です。起業・創業期から成長期、成熟期に至るまで、企業の各成長ステージで生じる様々な経営課題に対応した支援メニューを提供しています。
「海外展開ハンズオン支援」では、国内外あわせて300名以上のアドバイザー体制で、海外ビジネスに関するご相談を受け付けております。ご相談内容に応じて、海外現地在住のアドバイザーからの最新の情報提供やアドバイスも行っております。どうぞお気軽にお申し込みください。

「海外展開ハンズオン支援」
※ご利用は中小企業・小規模事業者に限らせていただきます。