「海外をちょっとのぞき見コラム」は海外現地の最新状況やホットなトピックスをお伝えするコラム記事です。第27回目は、ベトナムにお住まいの梅田アドバイザーに現地事情をお聞きしました。
※なお、このレポートは2023年1月時点の情報であり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。
ベトナムの実質GDP成長率は、厳しいロックダウンの影響もあり2021年は2.6%にとどまりましたが、2022年はすでに回復過程にあるとされ、国際通貨基金(IMF)は2022年7%、23年6.2%で成長すると予測しており、安定した経済成長を遂げているベトナムの一般消費者において健康意識や美意識が変化してきております。
都市部のオーガニックブーム
分かりやすい例として、都市部を中心とした、食品分野におけるオーガニックブームが挙げられます。都市部の中間層にとって、有機栽培・特別栽培された野菜・果物・穀物が高付加価値品として販売され、2015年前後から加速度的に需要が急増しています。
オーガニック商品のみを扱うオフライン・オンラインの小売業者が増え始めたのもこの時期で、2022年現在、多くの事業者が参入しております。
オーガニック商品は通常の商品と比較すると少なくとも1.5~3倍(商品によってはそれ以上)と、価格が高く、通常20,000 VND程度で販売されている玉ねぎ3個が、オーガニック栽培品であれば60,000 VND程度となっておりますが、安定した人気があります。
ベトナムではSNSを中心に、「農薬を大量に使用した物」や、「塗料で野菜を着色した物」など真偽不明のものをふくめた多くのニュースが流布しており、食品の供給体制が問題視されています。
日本・欧州・豪州などからの輸入品の信頼度が高いのですが、これは経済成長で消費者の平均所得が上がり購買力がついたという点だけでなく、食の安全性に関して国民の不安感が根強いという事も要因として挙げられます。
オーガニック野菜は、ラムドン省やダクラック省など高原地帯で栽培されており、とくに前者の代表的な都市である「ダラット」は高品質作物の産地として、ベトナム国内ではブランド化されつつあります。
LARIA TRADINGという企業が運営している「Farmers Market(ファーマーズマーケット)」という「健康的な食材」をテーマに掲げる地場の小売りチェーンがあり、ホーチミン市内に路面店中心で5店舗展開していますが、前述したような需要増を背景に、2023年内には10店舗まで展開店舗数を増やす計画を発表しています。
「Annam Gourmet Store(アンナムグルメストア)」という主に高級輸入食品を扱う商社が運営する小売りチェーンも、いわゆる高級スーパーマーケットを日系百貨店が入居する商業施設であるサイゴンセンター内を含め全国で15店舗展開していますが、やはり多くのオーガニック製品を販売していますし、「ORGANICA(オーガニカ)」という小売チェーンは米国ファンドからの出資を受け全国で7店舗を展開しています。
信用できない?国内の食品安全基準
ベトナムでは、日本でいうところの農林水産省の有機JAS認定にあたる「VIETGAP」という食品安全基準があり、一般消費者にも知名度が高く、多くのスーパーマーケットで「VIETGAP」品が販売されておりますが、2022年9月、ベトナム国内で大量の「VIETGAP」認証シールが偽造され、多くの基準に沿わないサプライヤーから提供されている青果物に貼られ、大手スーパーマーケットチェーンで販売されているという食品安全基準偽装を、ベトナム最大の日刊紙である「トゥオイチェー」が告発しました。
これは国内で反響を呼び、管轄当局である市場管理局はチェックを強化し、大手のスーパーマーケットでも入荷検査体制をあらためるという事態に繋がり、オーガニックブームの今後にも影響を及ぼすのではないかとみられています。
若者のビンテージ・レトロ志向
また健康だけでなく、国民の美意識も高まっております。
グローバル市場調査会社の英国MINTELによると、ベトナムの化粧品市場はすでに約23億米ドルに到達しているとの事ですが、一方、米国NIELSENの調査では、ベトナムの消費者はタイと比較した場合、1/4程度しか化粧品に出費していないというデータも有り、これがさらなる成長の余地として考えられています。
そのような市場拡大だけでなく、ここ数年は多様化も進んでおります。
ベトナムのファッションは、一般的にピカピカの新品や高級感に価値を感じる人が主流ですが、昨今、若者を中心にビンテージ・レトロが流行しつつあります。
代表的な例として、ANANASという地場のスニーカーブランドがあり、自社店舗を10店運営するなど、購入しやすい価格設定で10代・20代の若者から人気がありますが、2019年に上市した「Vintas Saigon 1980s」というラインナップはその名の通り、“80年代のサイゴン”(ホーチミン市の旧称)をテーマにしています。
メインターゲットとなるZ世代にとっては、このようなレトロなイメージを魅力的に感じるようで、「Cong Ca Phe」というカフェチェーンは、やはり80年代前後の北部ハノイのイメージを打ち出した内装で多くの若者の集客に成功し、ベトナム全国で60店舗を出店、韓国やマレーシアにも進出しています。
同様に、これまではベトナムにはあまり古着屋がありませんでしたが、最近はインスタグラムなどで都市部のおしゃれな若者をターゲットにした古着屋の広告をよく見かけます。若者にとって、環境に配慮したサステナビリティーとして、「古着を買うこと自体がかっこいい」というイメージが有るようです。
日本でも、若者の美意識として80年代のDCファッションの反動のような形で、90年代に古着ブームが起こりましたが、似たようなことが起こるかも知れません。
ベトナムではBTSやBLACKPINKなどの韓国アイドルグループも人気で、ファッションにも大きな影響があるため、単なるレトロ志向のブームというよりも、美意識が多様化し各人のセンスで選択できるような幅が広がったという事だと思われます。
また情報の速度が速まったことも挙げられます。
FACEBOOKが6,000万アカウント存在しSNSの影響が強いのですが、それに加えて近年NETFLIXやSpotifyなどの新興の外資サブスクリプション系サービスが浸透しています。感度が高い若者は、ハリウッド映画や韓国ドラマを封切りとリアルタイムで利用することができるため、海外トレンド情報の影響を受けやすく、ファッションや美容関連市場に大きな影響力を及ぼします。
このように、ベトナムでは経済成長とともに消費者の趣向が多様化し始めており、今後もこの波が継続していくものと思われ、ベトナム市場で商品販売やサービス提供をお考えの場合は、以前よりも細かく情報収集を行い、正確な市場動向把握が必要になってくると思われます。
筆者紹介
梅田 伸之 中小機構 中小企業アドバイザー(新市場開拓)
1977年生まれの45歳で、2006年よりベトナム在住。
2007年にベトナム初のオフィス用品カタログ通販会社を立ち上げ、その後、2010年に日本企業のベトナムにおける活動を市場調査、販売・調達代行、会社設立代行などでサポートするコンサルティング会社を立ち上げ、現在も同社の代表取締役社長を務める。
中小機構について
中小機構の「海外展開ハンズオン支援」では、国内外あわせて300名以上のアドバイザー体制で、海外ビジネスに関するご相談を受け付けております。
ご相談内容に応じて、海外現地在住のアドバイザーからの最新の情報提供やアドバイスも行っております。ご利用は「何度」でも「無料」です。どうぞお気軽にお申し込みください。
「海外展開ハンズオン支援」
※ご利用は中小企業・小規模事業者に限らせていただきます。
公開日:2023年 1月 10日
タグ:
ページコンテンツ
- 都市部のオーガニックブーム
- 信用できない?国内の食品安全基準
- 若者のビンテージ・レトロ志向
- 筆者紹介
- 中小機構について
- Related Posts
- 9月からが勝負のフランス ~海外をちょっとのぞき見コラム 第30回~
- シンガポールのプラントベースフードの今 ~海外をちょっとのぞき見コラム 第29回~
- NY野外フェス出店の勧め ~海外をちょっとのぞき見コラム 第28回~
- ドバイが目指す新しい未来 サステイナビリティ ~海外をちょっとのぞき見コラム 第26回~
- コロナ後に向かうタイ ~海外をちょっとのぞき見コラム 第25回~
- タイの未来戦略 ~EEC(東部経済回廊)とBCG経済モデルについて~
- 上海の『歴史に刻む2ヶ月間』とその将来~海外をちょっとのぞき見コラム 第24回~
- アメリカのハートランド、シカゴから 『コロナ禍明けに向けた働き方』~海外をちょっとのぞき見コラム 第23回~
- Related Posts