中国・インド・アセアンのほぼ中心という抜群の立地に位置するバングラデシュは、1億6千万人の人口を抱える世界第7位の人口大国です。豊富な若年労働者・人件費の安さを活かした生産拠点として、また2015年には低中所得国入りを果たすなど、年平均6%の安定したGDP成長を続ける期待の消費市場でもあります。
バングラデシュでの事業展開可能性
NEXT11
バングラデシュは、東南アジア・南アジアではインドネシア・パキスタンと並ぶ将来の世界経済への影響力が評価され、*NEXT11の一国にも選ばれています。
*NEXT11・・・ゴールドマンサックスが2005年に名づけた 「50年後の世界経済において、BRICs各国ほど甚大ではないが、非常に大きな影響力をもたらす潜在性を秘めた国々」
生産拠点としての魅力 – 世界第二位の縫製品輸出国
バングラデシュは、今や中国に次いで世界第二位となった縫製・アパレル品輸出国です。日本でもユニクロやH&Mなど多くのアパレルショップでバングラデシュ製の服が売られています。
その競争力として、以下の内容が挙げられます。
1 人件費の安さ(東南・南アジアでは、ミャンマー・カンボジア・ラオスと並ぶ最安国)
2 労働人口の多さ(東南・東・南アジアで中国・インドを除けば、インドネシア・パキスタンに次ぐ人口1億6千万人の人口大国で、今後も人口増加は続く見込み)
繊維・アパレルの産業集積・欧米への長年の輸出実績
消費市場としての魅力 – 人口2億人への増加予想
人口予想では2億人まで延びるとされており、低所得層から富裕層まで消費意欲は旺盛です。
近年の消費関係の動きとしては以下のような事象があります。
相次ぐ飲食店の出店
2016年に入ってからはアイスクリームのコールドストーンが出店、ドーナッツのクリスピー・クリーム・ドーナツも出店の予定で、2008年に開店したケンタッキーフライドチキンやピザハットも店舗数を増やしています。
広がるスマホ利用
若年層を中心にスマホの利用が急速に進んでおり、2015年末でのスマホ利用者は8百万人です。中国製・インド製などの廉価なモデルは5,000円程度での入手が可能です。2016年中に新たに8百万台の販売が見込まれています。
オープンの続く外資高級ホテル
ビジネス出張者が滞在する外資高級ホテルは、ビジネス出張者増加が続く状況下、稼働率・部屋料金共に高止まりしています。これに対応するため、続々と新規ホテルがオープンしており、また新規建設計画も進んでいます。2015年にはル・メリディアンがオープンし、インターコンチネンタル、JWマリオット、シェラトン、ヒルトン、ハイアットなどの新規オープン計画があります。
*消費市場状況・人々の生活スタイルについては以下のページに詳しく記載があります。
ジェトロ・ダッカ発行「ダッカ・スタイル」
https://www.jetro.go.jp/world/reports/2014/07001591.html
バングラデシュでの事業展開で注意点
事業パートナーの見極め
日本で知り合ったバングラデシュ人とバングラデシュで事業を開始してみたものの、仲違いするケースも多々あり、ビジネスパートナー選びには特に注意が必要です。バングラデシュの日本人コミュニティや、日本人コミュニティとつながっているバングラデシュ人に照会してみることや、信用できる人物・組織からの紹介であることがとても重要です。
日本で出会ったバングラデシュ人やまたはバングラデシュに詳しいと称する日本人に「ひとめぼれ」するような形でビジネスをスタートさせてしまい、失敗しているケースも多々ありますので、その点にも注意が必要です。
特に経営者や代表者が勘や直感により、日本などで知り合ったバングラデシュ人を事業パートナーとして、事業展開を始めて、後々問題になっているケースが多々ありますので、その人物に関する評判をなるべく多くの人から聞く等の事前調査をしっかりすることが大切です。
事業展開検討・着手時にはできるだけ多くのパートナー候補やバングラデシュのことをよく知る日本人・バングラデシュ人と会い、見識及びネットワークを広げていくのがいいかと思います。そのなかでパートナー候補になりそうな人・会社と巡り合えたら、まずは小規模でビジネスをスタートしてみて、パートナーとしての信頼性・実力、価値観が共有できることを確認していくのが好ましいと思います。
ビジネスパートナーとして優秀かつ信頼できる人もいれば、日本に長年住むバングラデシュ人の中にはバングラデシュの現状にはそれほど詳しくない人もいるのが実情です。また2大政党が激しく対立しあう政治環境下、政党政治に巻き込まれないように、パートナー選定はもちろんスタッフ採用時も気をつける必要があります。
事業パートナーとの決め事はすべて文書化しておくことも肝要です。ただし問題が発生した際にバングラデシュ国内で訴訟等法的対応での解決を試みるのは、まず無理だと認識しておく必要があります。
担当者・駐在者の人選
第一に、担当者・駐在者は、バングラデシュ(人)を柔軟に許容できる人材であることが好ましいと思われます。
バングラデシュ(人)のことを嫌いで常に悪く言う、関心がない人もいるのですが、本人にとってもバングラデシュの人にとっても好ましい関係ではなく、また事業もうまくいっていないケースが多いように思います。少しでも好きなところを・いいところを見つけ、関心を寄せられる人物であることが最低条件のように思います。片言でもいいのでベンガル語を話すととても喜んでくれます。
バングラデシュは日本に比べると生活環境が決していいとは言えない国で、近隣のアジア諸国、特に東南アジア諸国に比べると厳しい生活環境ですので、こうした環境に適応できる・適応する意思・意欲のある担当者を選定するのが良いと思われます。有形無形のルールへの対応や日本では想定できない課題・問題も次々に発生するため、その都度臨機応変に対応できる心構え、能力が大切になります。
また日本サイドでも現地の状況・苦労を理解しようとすると共に、日本人を駐在させる場合には健康管理休暇や買い出し休暇制度を設ける等、できるかぎりのバックアップをしてあげる必要があります。
ベンガル語ができる日本人としては、バングラデシュに約2年間住んでいた海外青年協力隊のOB・OG達がおり、概ねベンガル語での意思疎通には問題ありません。再度バングラデシュで働いてみたい・活動してみたいと思っている人もいるので、仕事能力を判断した上で採用するのもいいかと思います。
文化・国民性の違い
① 親日的、ベンガル人・イスラム教徒が9割
ベンガル人が98%、イスラム教徒が約90%を占めているバングラデシュは、多くの国同様の規模を持つ州から構成され、非常に多様性に富んだインドに比べると、中小企業にとっては取り組みやすい国と言えます。国民性も穏やかでフレンドリー、また親日感情も非常に良い国です。
フレンドリーで親日的な人々
② 日本とのカルチャー・国民の気質の違い
インドを中心とした南アジア文化圏に属し、メンタリティ等非常に日本とのギャップが大きいです。中国や東南アジアと近いところもありますが、違いが大きいところもありますので、中国や東南アジアでの知識・経験がそのまま使えないことも多々あります。
以下、その例をいくつか挙げたいと思います。
(例1)「No Problem」は本当に問題なし?
先方の「No Problem」の言葉は基本信用せず、最後まで物事を完結させる・完結したことを確認するまで、安心しないことが大切です。
できないことでもNoといわず、できると言い、分からないことでもとりあえず答えるといったバングラデシュ人の気質が後々問題になるケースが多々散見されます。(これはアジアの他国でもよく見られる傾向かと思いますが、)まずはやってみて、ダメだったらダメと言えばいい(ダメだったという連絡が来ないケースも多々ありますが。。。)という人々の気質があります。
自分にも他人にも厳しいのが日本のカルチャーだとすると、自分にも他人にも甘いのがバングラデシュのカルチャーです。
ただ、大抵の場合、できると言った時には、いささか楽観的ではありますが、本当にできると思っている場合が多く、そこに悪意はないケースが多いように思います。深く考えずに、Yes、できると即答する国民性があると言えるでしょう。YesはYesでも実は曖昧なYesなので、バングラデシュのYesは日本の「前向きに検討します」位に捉えておいた方がいいかもしれません。
(例2)明文化されていないルール・慣習、機能していないルール・法律
これまでにお伝えしてきたように不確実なことが多い環境にあって、様々なことに臨機応変に対応できることが非常に大切になります。事前調査などに時間を費やしても、やってみなければ分からないことも多く、まずは行動することが、実は効率的とういうことも多々ある。
不確実なこと、不透明なことが多いということは、逆に言えば決められていることが少ないため、臨機応変に対応してもらえるという側面もあります。
*文化の違いや国民性などについては以下のページに詳しく記載があります。
バングラデシュで仕事をするために知っておきたい10のポイント
https://www.jetro.go.jp/world/asia/bd/10points_inbd.html
その他、ビジネス阻害要因となっている項目
・製造業では縫製産業以外の主要産業は育っておらず、材料・部品の現地調達が難しく、多くを輸入に頼らなければならないこと
・道路・電力・水道・ガスなどの主要インフラの脆弱性
・オフィスワーカー・マネージャーの賃金の高さ
・政治的不安定さ(ホルタルと呼ばれるストライキなど)
バングラデシュへの現地出張時におけるアドバイス
アポイントメント取得及び変更は柔軟に
アポイントを取る際には、渋滞状況も鑑み、効率的に回れるようルート・日時設定をすることが大切です。できれば当地のこうした事情を熟知した人にアレンジしてもらうのがいいかでしょう。舗装状況の良くない道路を車で移動する時間が長いこともあったりして疲労は想定以上に溜まりますし、交通渋滞による遅延を防ぐ目的でも、日程に余裕を持たせたり、時には滞在ホテルに先方に来てもらう形でのミーティング実施もお勧めです。また直前でのアポイントメントのキャンセル等もよくあるので注意が必要です。一方で前日・当日など直前でのアポイント申入れにも気さくに・柔軟に応じてくれることも多いので、現地到着後も臨機応変にスケジュール変更ができよう準備しておくと良いかと思います。
休日・連休
役所や銀行は金・土休みですので注意が必要です。バングラデシュの連休は主に年 2 回。イスラム教・イスラム暦に基づく断食月明けの連休(ロジャ・イード)とそ の約 1.5 ヵ月後の犠牲祭(コルバニ・イード)。多くの者が里帰りをするため、工場でも 1 週間程度の休みとなります。 政府の祝日扱いはそれぞれ 3 日間ずつですが、中国の春節時のように、連休後に田舎にとどまったまま職場復帰しない人もいるため注意が必要です。
進出済日系企業に話を聞く
限られた時間の中かとは思いますが、進出済企業の方の話はぜひ聞いて頂きたいと思います。生のそして最新の情報や体験が聞けると思います。
最後に
ビジネスを行うに当たって、困難な点・障害となる点も多々ありますが、国の成長性・成長余力を考えれば、長期的な視点を持って、苦労してでも進出する価値は十分にある国だと思います。
プロフィール
2007年よりバングラデシュ在住。首都ダッカにて、ウェブ制作、パン・デリバリー事業を経営、また日系企業進出支援を行う。大学卒業後、2000年~2006年、三井住友銀行(東京・ロンドン)にて、中小企業営業・国際審査業務等に従事。