中小機構とINPIT(独立行政法人 工業所有権情報・研修館)は2022年3月に連携協定を締結し、双方の強みを生かして、中小企業等の経営・知的財産支援の強化に取り組んでいます。

INPITの海外展開知財支援窓口 では、海外駐在及び知的財産実務の経験が豊富な民間企業出身の海外知的財産プロデューサーが中小企業の皆様からの知的財産全般の様々な相談に無料で対応しています。

「INPIT通信」では、中小企業が海外展開するうえで知っておくべき知的財産のポイントについて、INPITの海外知的財産プロデューサーに解説していただきます。

はじめに

中国の模倣品問題は自社製品を中国で展開する中小企業を悩ます問題と思います。企業時代の知見と現職の海外知的財産プロデューサーとしての中小企業支援を通じて、中小企業の中国における模倣品対策をご紹介させて頂きます。

中国の模倣品問題の概観と対策のポイント

本物の商品(真正商品)と商標を含めてそっくりの偽物(いわゆるデッドコピー品)や「無印良品」の事例のような本物と外観やイメージ等を模倣した、いわゆる模倣品は主に中国で製造・販売されています。中国国内では模倣品問題が多発しており、多くの日系企業が模倣品問題に巻き込まれています。また、中国製の模倣品は、陸路又は海路により中国から東南アジア、中東及びアフリカ等の世界各国へ不法に拡散しています。こうした模倣品問題の対策の第一歩は、模倣品のリスクが想定される中国等の海外諸国における商標権、意匠権及び著作権等の比較的容易に権利侵害が主張できる知的財産権の取得と保全です。

中国における模倣品の市場からの排除手段として商標権等の知的財産権の侵害を理由に裁判所へ提訴、又は、行政機関へ摘発(レイド)をもとめることがあります。中国の特殊事情により、今も多くの日系企業は民間の法律事務所や調査会社等を利用して市場監督管理局(旧工商行政管理局(AIC)と旧質量技術監督局(TSB)等を統合した新組織)、知識産権局(IPO)、公安局(PSB)及び海関(税関)等のレイドにより模倣品摘発を行っているようですが、費用が嵩む点に留意が必要です。模倣品対策に係る私の経験上、レイドは遊技機の「モグラたたき」のような感が否めず、下記のような経営的視点の複合的な模倣品対策がポイントです。

余談ですが、中国における著作権登録は他者の悪意の先駆け商標出願(冒認商標出願)対策として有用です。左図の事例は、自社のキャラクタ図形やパッケージデザイン等の著作物が冒認商標出願(赤点線枠)をされたのですが、自社の先行著作権登録により無効化した事例です。模倣品対策は商標権が主ですが、補助的な位置付けで中国の著作権登録も検討の余地が有るものと思います。

中国の模倣品対策の振り返り

次に私の企業時代の模倣品対策の振り返りをご紹介させて頂きます。

(1)中国駐在赴任前
中国駐在として上海市の現地法人へ赴任したのは2005年4月に起きた上海市暴動後の同年12月16日ですが、赴任前は海外関連の知的財産権の取得と活用に係る責任者として部下から上がってくる中国の模倣品問題に関与していました。当時は香港の英国系大手法律事務所に模倣品の市場監視や対策までを殆ど丸投げの状態にあり、中国模倣品問題の実情はわかりませんでした。また、2002年4月に設立された国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)に設立当初から前職の企業はメンバーとして参加していましたが、IIPPFに関し積極的な活動は行っていませんでした。

(2)中国駐在時代
中国駐在として赴任した上海市の現地法人は中国の投資性企業・持株会社(傘型企業)でした。傘型企業の赴任時の職務は企画部長兼知識産権代表であり、中国へ既に進出済の企業グループの製造・販売・サービス等に係る現地法人の経営支援と企業グループ全体の知識産権(知的財産)を統括する役割でした。私の赴任当時、R&D機能は中国に未だなかったため、知識産権代表としての主たる業務は模倣品対策でしたが、この業務は大きく言って二つでした。

一つめの業務は販売の現地法人(販売会社)と連携して、機器に使用される消耗品等の模倣品の摘発と市場からの排除です。私が赴任した傘型企業は製造会社や販売会社の設立後の法改正により認可・設立されたので、私の赴任時には既に販売会社が独自で模倣品対策を行っていました。従って、私の業務は販売会社が行っていた模倣品対策の監査からスタートしました。その結果、販売会社が依頼していた調査会社と販売代理店の不正をつきとめました。ここではその詳細は割愛させて頂きますが、私の模倣品対策業務は信用・信頼のおける調査会社を選定し他の調査会社と販売代理店等の調査にシフトしました。

二つめの模倣品対策業務は中国の日系企業で組織された知的財産権問題研究グループ(IPG)や欧米系企業で組織された中国外商投资企业协会优质品牌保护委员会(Quality Brand Protection Committee, QBPC)へ参画して企業間の連携を深めると共に、企業間で協力して海関、TSB及びAIC等の中国当局へロビー活動を行うことでした。IPGは日本人駐在員と彼らの中国人スタッフが中心となって活動し、QBPCは欧米留学経験のある中国人社内弁護士が中心に活動しており、それぞれのお国柄の組織マネジメントがみられて、これらの団体への参画は興味深かったです。

中小企業の中国における模倣品対策

現地駐在員を派遣できる大企業の模倣品対策をそのまま中小企業等の模倣品対策に援用することは非常に難しいのが実情と思います。従って、中小企業の中国における模倣品対策は、上述した経営視点の複合的な模倣品対策をベースに、この中でも特に、商標権、意匠権及び著作権等の比較的容易に権利侵害が主張できる知的財産権の確保と信用・信頼のおける販売代理店等の現地パートナーを見出して当該現地パートナーと連携して模倣品対策を行うことが重要です。

松島 重夫 INPIT 海外知的財産プロデューサー

国内製造業のR&D部門、知財部門(出願・権利化、契約・商標、渉外、知財企画、米国及び中国駐在等)並びに技術戦略部門に計33年半勤務。
中国駐在では、上海IPG副会長、同運営幹事及び同事務機WG長並びに北京IPG運営幹事等を歴任。
当該国内製造業を定年退職後、特許庁事業公設試知的財産アドバイザー(広島県担当)を経て、現職に至る。