「戦略的知財活用海外展開補助金(正式名称:戦略的知財活用型中小企業海外展開支援事業費補助金)」は、高い技術力を保有し、知財を活用した海外展開に取り組む中小企業者に、出願費用を一部助成するとともに、海外ビジネスの専門家による海外展開サポートを行う事業です。
中小機構では、令和元年度に10 社を採択、以後3年間に渡って、支援を行ってきました。
この記事は事業最終年度である令和3年度に作成した事例集を再編集したものです。
また、戦略的知財活用海外展開補助金は令和3年度で終了した事業ですが、中小機構では中小企業のみなさまの海外展開を支援 しています。詳しくはお近くの中小機構地域本部 までお問い合わせください。

ハードウェア/ソフトウェア/マテリアル3つのテクノロジーを融合した、世界初のデジタル香りコントロール装置を開発

当社は、世界で初めて映像や音響と連動して香りの高速切り替え提示が可能な香り制御装置「アロマシューター」の開発・製造及び販売を行う国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)発のベンチャー企業で、産学連携で化学分野の研究開発を行う企業・大学等が多く入居するACT京都(京都市成長産業創造センター)にオフィスを構える。
様々な種類の香りの再現や香りを使用した技術開発により、世界中の人々が香りでつながる社会の実現を目指している。

アロマジョインが入居するACT京都(京都市成長産業創造センター)

香り制御技術のリーディングカンパニー

社長の金東煜(キム・ドンウク)氏は韓国釜山出身。NICTの研究員時代に取得した数多くの国内外特許の使用権を得て2012年10月に株式会社アロマジョインを設立した。特許は香り分子を噴射する技術に関するもので、従来のミスト方式に比べ香りが残らないため、高速で多種類の香り分子を切り替え噴射することができる。この技術を用いたハードウェア、ソフトウェア、カートリッジのシステム「アロマシューター」のビジネス立ち上げを目指している。同時に当社独自に関連技術の特許出願を進めており、10余件の国内外特許を取得した。

香りでつながる世界を目指して

Aroma Shooter©が採用されたモーションチェアVoyager©

展開分野としては、①VR等の「娯楽」、②デジタルサイネージ等の「広告」、③空間ソリューション等の「健康」が考えられ、展開地域としては①米国、②欧州、③中国、④韓国を想定している。既に米国企業のVRモーションチェア用に多くの納入実績があり、今後米国各地の展示会等に出展して認知度を高め、ビジネスパートナーの開拓を進めていく。
今後の米国、英独仏国をはじめとする欧州、中国、韓国等海外でのビジネス開拓を念頭において、関連特許をPCT出願し、ビジネス展開国へ移行を進めるにあたり、専門的助言の必要性を感じ、当事業に応募した。
「香りビジネス」という比較的狭い世界でのビジネス展開であり、パートナー候補の探索やアポイントメント取得のサポート等は特段求められておらず、定期的に知財、ビジネスの進捗状況をヒアリングしながら、海外事業計画書で示した戦略通りに進めて良いか確認し、軌道修正する場合の方向性等を助言するのが主な支援の内容となった。
知財面では初年度に関連特許のPCT出願を行い、次年度以降米国、欧州等への国内移行を行うべく、手続きを開始した。

国内のデジタルサイネージ分野を中心にコロナ禍を進む

主力と思われたエンターテインメント向けの需要は、コロナ禍からの回復にしばらく時間がかかると思われるため、海外のパートナー候補との商談再開を待ちつつ、当面は国内のデジタルサイネージ分野で一カ所でも多く導入実績を作ることに注力した。

米国での事業パートナー開拓のため、当初出展を予定していた現地展示会SXSW(オースティン、3月)、AWE2020(サンタクララ、5月)等は、コロナ禍で軒並み中止となっており、翌年1月のCESもバーチャル開催となり、ビジネスパートナー候補との接触が全く図れない状況が続いたが、何とか状況を打開すべく次のような活動を試みた。
① 開発者向け特価オファー
② 当社主催のハッカソン「Hackaroma」の開催(2020年6月)

スマホで制御可能な「Aroma Shooter🄬」

このハッカソンには、200余名の応募者の中から事前に選抜した6チームにアロマシューターを提供し、アロマシューターを用いたビジネスプランのコンテストを行い、ビジネスアイディアの収集や話題性のアップなどで収穫があった。

本事業で海外の知的財産権を取得

国際特許の取得手続き、商標登録等知財面での前進はあったが、ビジネス面ではビジネスパートナーとのマッチング機会と期待していた各種展示会がコロナ禍で軒並み中止、オンライン開催となり、期待された成果を得るには厳しい状況が続いた。そのような状況下でも開発者コミュニティ形成を目指したハッカソン開催や国内サイネージビジネスでのコラボレーション等粘り強くアフターコロナに向けての種を撒き育てていく。