ベトナム経済のGDP成長率は7.1%と2008年の世界経済危機以降で最も高い数値を記録した。2019年の成長率も6.6%〜6.9%を見込むなど東南アジアの中でも随一の成長を見込んでいる。

伝統小売が圧倒的だった街中においても、コンビニエンスストアの数は2000近くにまで増加し日本でおなじみのファミリーマートやミニストップなどの看板を良く見かけるようになった。2019年の秋にはいよいよユニクロや無印良品もベトナム進出を予定しており、2・3年前と比較すると都市部の様子は様変わりしている。

ベトナムの成長を語る際によく「中間富裕層の人口拡大」という言葉が用いられることが多い。ベトナムの中間富裕層の定義はBCGが規定した収入 1,500万ドン(約7.2万円)の家庭を指すことが多いが、実際はこの程度の世帯収入の家庭においては収入の殆どが日々の生活の維持に費やされるため、娯楽的な消費に費やされる割合は少ない。そういった背景もあり現在のベトナムにおいて、多くのビジネスでよりターゲットにされているのはより高所得の3,000万ドン(約14.4万円)ほどの層であることが多い。公式な数値はないものの、当社で調査した結果などからではホーチミン・ハノイの2都市においては大凡上位10-15%程度の層がこの所得層にあたる。

この高所得層は娯楽への出費が高く、余暇を楽しむ習慣を持ち始めているのが特長である。ベトナムでは「週末何しているの?」といった日常会話における質問に対して「週末は映画を見てカフェにいる」との定型分が返ってくることが非常に多く余暇の過ごし方が画一的だったのだが、これらの高所得層においては数々の趣味を持ち始め多様な過ごし方をするようになっている。

その中でも特にベトナム人は昔から健康意識が高かったこともあり、フィットネスジムやヨガなどの運動需要は大きな盛り上がりを見せている。カリフォルニアフィットネスのようなチェーン店から小規模のヨガスタジオまで多くのフィットネス環境が展開されているが、ローカルジムであれば月額500円程度、設備のより充実したチェーン店舗であっても月額2・3000円程度と費用が比較的廉価なこともあり人気を博している。また、一定の金額を払うと1000以上のフィットネス施設が利用できる「ウィーフィット」アプリは、1ヶ月の利用者が15万人を超えるなどちょっとした流行となっている。

旅行需要も盛り上がりを見せている。日本など遠方地への観光を楽しむのはより限られた超富裕層に限定されるものの、余暇や連休などにベトナムの国内旅行へ行ったり、LCCなどを利用してタイやカンボジアなどの近郊での観光を楽しむ人々も増えてきている。ベトナムも他のアジア新興国と同様ソーシャルネットワーク大国であり、こういった旅行での写真を頻繁にFacebookやInstagramなどのソーシャルネットワークに投稿されている。これらの行動が更なる旅行欲を刺激しているように感じる。

現状非常に好調なベトナム市場であるが、ビジネスをする上で注意をしなくてはならないのは市場サイズである。成長率は高いとはいえ、タイやインドネシアなどの他の東南アジアの国々と比較すると市場サイズは半分以下の業界も多い。また、中心土地がホーチミンとハノイに分かれることもアプローチを難しくしている要因の一つである。特に日本のビジネスやサービスの場合は付加価値を伝えることが重要になってくるが、前述の都市部の上位10-15%の層への効果的なアプローチが必須となってくる。

プロフィール

執筆:黒川賢吾
2018年度国際化支援アドバイザー。横浜国立大学卒業。NTT、ソニー、ユニクロで主に海外マーケティング業務を担当し、2014年にAsia Plusを創業。ベトナム最大手となるオンラインマーケットリサーチ事業を展開している。

監修:加藤 裕功(かとう やすのり) 中小機構国際化支援アドバイザー