海外ビジネスのあるべき姿が見えてきた後、展示会に出展する前に整えるべき最低限の体制を紹介します。海外出展で市場を開拓するために必要なフェイズです。

海外市場で販売するためには、現地の規格に沿った表示(飲食品の材料表示ラベル、パッケージの安全表示)や使い方説明書の作成が必要です。
安全性が問われる商品(飲食品・医療機器・子供用玩具など)であれば認証の取得が、電気製品では電圧などを現地の規格にあわせる仕様変更が必要となる可能性があります。

パッケージも現地にあわせて

消費財の場合、パッケージデザインや箱当たり入り数などを現地で売りやすくするために変更・商品開発する場合もあります。そのためには、現地のマーケティング情報を得る手段(販売パートナーなど)を確保している必要があるので、出展後に変更する場合が多くなるでしょう。展示会の会期時点でパッケージが完成していない場合、出展する商品自体は見本でもかまいませんが、商談のためには、量産の目途をつけて、販売開始のタイミングを把握しておく必要があります。

海外向けブランディングの構築

ブランディングが重要な商品では、海外市場ごとのブランディング、あるいは国ごとのブランディングを構築する必要があるので、それぞれの市場に詳しい人を探しましょう。
展示会に向け、新たなブランドとして準備し出展することが望ましいですが、そうした人材の確保は簡単ではないため、国内でのブランディングのまま、あるいは仮のブランディングを行って出展し、展示会の場で人材を探す方法もあります。

自社の権利や技術を守るために

ブランド名や商品名などは、現地で他社の商標権を侵害していないか調べるとともに、自社の権利を守るため、進出先国で登録をします。「先願主義」の国で商標権を他社に先におさえられ、オリジナルであるにも関わらず商標変更を余儀なくされるケースも発生しています。
自社技術については、先進国では特許により保護しますが、販売先が特許権の侵害トラブルの多い市場であれば、特許申請せずブラックボックス化するほうがよいかもしれません。商標権などの知的財産権については、特許庁や工業所有権情報・研修館(INPIT)で海外向けの情報も収集できます。

誰が、どこまでプロモーションを担当するか

現地の消費者やユーザーに、どのように訴求して購買につなげるのかを考えます。
ディストリビューターを通す場合は、プロモーションはディストリビューターの責任範囲でもあるので、展示会で現地の販売・プロモーションを任せられるディストリビューターを見つけることが出展の大きな目的になります。
生産財など、直接ユーザーに販売するような商品の場合は、海外展示会への出展がまさにプロモーションとなりますが、あわせて現地業界誌への広告掲載などを行い、長期的に効果的な方法を探っていくことになります。

WEBサイトがないのは致命的

展示会で商品に興味を持ったバイヤーは、詳細情報や信用できそうな会社かどうかなどを、WEBサイトを見て確認します。そのため、海外向けのWEBサイトがないのは致命的といえます。まずは、シンプルなデザインと簡潔な文章を心がけてサイトをつくるのがよいでしょう。なお、同じWEBページ内に日本語と英語を併記するのは、SEO対策上では不利になります。別ページを用意しましょう。

展開形式、商品によって変わる納品・輸送方法

小さなものであれば国際宅配便(クーリエ)や国際スピード郵便(EMS)などで、産業機械など大きなものの場合は国際貨物輸送の業者に依頼するなどして送ります。海外での輸送を提携先に委ねている一部のクーリエやEMSでは、送付先の国によって配達状況の追跡ができない場合がありますので注意してください。
ディストリビューターを通す場合は、受注数がまとまるので納品方法も比較的シンプルです。直接ユーザーや小売店などに少量で納品する場合は、日本から送るか現地に在庫を持つか検討します。当初は数がまとまらないので、日本から送るほうが現実的です。

物流費用は輸出価格に影響する

物流費用は海外での商品価格の大きな割合を占めることがあるので、納品や輸送にかかる経費は、あらかじめ見積もりをとっておき、展示会出展時に商品価格とともに説明する必要があります。
輸送には航空便と海上便があり、速さと価格に差があります。航空便での輸送費用は、容積(サイズ)と重量を比較して、大きいほうで計算されます。価格は段階的に設定されているので、国内での納品に使っている箱より、少しだけ小さい箱にすることで安くなる場合もあります。
相談は、国際貨物の輸送に慣れている業者の、慣れている担当者にしてください。地域によっては国際貨物の取扱いが少なく、十分なサポートを得られない場合もあるようです。現地に倉庫を借りる場合は、日本からの指示でピッキングやシッピングを行う業者を探します。
なお、海外での物流は日本よりも荒いのが普通です。壊れ物の輸送について、損壊があった場合、保険をかけていても商機を逃す恐れはありますので、しっかりと梱包してください。

「前受金、日本円」でまず交渉する

海外での販売先の信用度は、一般に把握が難しいため、前受金(advanced payment:代金先払い)ではじめることをおすすめします。バイヤー側には不利になるため応じてもらえない場合も多いですが、「今後、注文もレギュラーになり、お互いの信頼関係が深まれば条件を再考する」などと伝えて理解を求め、当面は前受金でリスクを少なくします。国際取引に慣れている海外企業も当然のように「前受金100%」からはじめています。自信を持って交渉しましょう。
決済方法は、数十万円くらいまでの規模であればクレジットカードやPayPalでの決済が多く、銀行間での海外送金は手数料が高いため好まれません。前受金以外に、L/C(信用状)取引は安心ですが、売り手側も買い手側も銀行に手数料を払わなければならないほか、買い手側にとっては銀行にデポジットを求められるなどの負担もあります。お互いの企業規模や取引相手国にもよりますが、取引が数百万円以上の場合に利用されることが多い決済方法です。なお、決済通貨は、最初から現地通貨での見積書を出す必要はありません。できるだけ為替リスクを回避できる日本円での販売を心がけて交渉します。

メンテナンスやアフターサービスも考慮する

展示会で見込み顧客などと商談をした後、成約や納品、代金回収のための営業フォローをすることになります。語学ができる者を担当者にするのか、外部に委託するのかなど、社内でその体制を決めておきます。展示会で現地窓口を委託できる業者を見つけられれば、海外バイヤー側も安心感があり、営業上の利点となります。
生産財などでは、メンテナンスや消耗品供給などのアフターサービスも商品の一部となります。ディストリビューターを通す場合は、彼らの責任範囲に含めることになります。ユーザーに直接販売する場合は、現地でメンテナンスのみ可能な提携先を探して、コストのかかる日本からのアフターサービスを最小限に抑える方法を考えます。また、「守り」の体制整備としては、商品によりますが、PL保険を付保します。

運賃、保険料などをどこまで負担するか

商品を工場(または倉庫)で引き渡すときの価格(工場渡し価格)に輸送費、貨物保険料などを乗せて、輸出価格を設定します。売主がどこまで負担するかは、インコタームズ(貿易取引における国際的な取り決め)に従って整理されていますので、詳細は貿易実務の本などに譲りますが、ポイントは輸送費と、輸出手配分と貨物保険料の費用を乗せるかどうかです。これから海外輸出を考える場合には、まず次の4条件のうち、EXWとFCAで価格を算出することをおすすめします。できればCPTとCIPでの価格も用意してください。

輸出価格の算出表

小口の輸送ではクーリエの利用も

小さな商品で数がまとまらない場合、あるいは最初の取引でサンプル商品を販売する場合は、国際宅配便(クーリエ)や国際スピード郵便(EMS)を利用してドアツードアで送ることができます(クーリエには通関業務が含まれていますが、EMSでは商品が20万円を超える場合は、通関手続きが必要です)。
関税は通常、輸送業者から相手先に請求が行くので輸出価格には算入しません。貨物保険料に上限があることにもご留意ください。
なお、クーリエでは利用頻度の高い大口顧客が優遇されるため、国際取引に慣れている海外バイヤーのほうが高い割引率で利用しているケースがあります。交渉時に確認し、安く済むほうが輸送を手配するとよいでしょう。