海外展開を進める企業にはできるだけ前払いで代金を回収することを推奨していますが、これはもちろん相手があってのこと。海外の売り先からNET30とか船積み後60日あるいは、L/C At sight等と専門用語で後払いを要求されることもありえます。本稿では貿易におけるさまざまな決済についてお伝えします。

日本の「月末締め」と海外の「NET60days」の違い

日本では月末締め翌月払いというような締め請求スタイルが広く浸透していますが、このようなスタイルは、アジアのごく一部で使用されているams〇days(After Monthly Statement:月次明細書発行日から〇日後払い)という支払方法以外、海外ではあまり聞きません。

1日に請求しても、20日に請求しても、月末等の一時点で集計され、買い手の決めた支払日にまとめて支払われるという日本のスタイルはほとんどないと言えます。支払者側にとっては、全ての支払いを集中させることで手間を解消できたり、支払いが延びることで最大1か月分の金利が浮いたりというメリットがありますが、受取者側は月はじめに請求しても、入金が早まるわけではない独特な商習慣と言えます。

一方海外ではNET60という表記で請求書日付から60日後決済というような支払条件をよく見ます。支払期日の起算日が請求書日付で、支払猶予(ユーザンス)期間が確定している点が日本の習慣とは異なります。

支払猶予をつけることは金利分の値引きをすることと同義です。値引き額が不明で起算日から確定日数ではなく、最大翌月の支払日まで延びる(請求書の到着が月をまたぐとさらに翌月まで延びる)という締め請求は海外では受け入れられにくいと感じます。

商品出荷と資金決済はどちらが先か?

海外のお取引先に対して輸出をする場合にお金の回収方法はしっかりと考える必要があるでしょう。中小機構にご相談にいらっしゃる企業の方々にはできるだけ前金での回収をお勧めしています。商品出荷の前に回収を終えてしまえば、出荷したけれど支払われない、輸入者が倒産し資金回収できない、というリスクを排除できるからです。

しかし、こちらに都合の良いことは相手にとっては都合が悪く、逆に輸入者からは後払いを要求されることもあるでしょう。この場合、前払いであれば排除できるリスクがそのまま顕在化してしまいます。

このようなリスクを回避するために日本は手形、いわゆる約束手形があります。日本では「支払人が振り出す手形」という決済手段は一般的ですが海外ではほとんど見たことがありません。

しかし、NET60の条件で商品出荷し60日後にT/T(Telegraphic Transfer:送金)で受取ることになれば、本当に60日後に取引先から支払われるかどうかのリスク(信用リスク)を輸出者側がとることになります。

では約束手形が使えないとすれば、どのような保全の手段があるのでしょうか?

書類(B/L、Bill of Exchange等)を使用した同時決済

これまでは商品(モノ)出荷と資金(カネ)決済はどちらが先かという観点で述べました。この背景にはモノは出荷して届くまで時間がかかりますが、カネの決済は一瞬で完了するという時間差の問題も隠れています。モノとカネを同時に交換できれば、カネを払ったのにモノが届かないという問題は発生しません。

等時間差が生じる海外との貿易でモノとカネの同時交換を成立させる決済方法はないのでしょうか?ここからはB/L(Bill of Lading:船荷証券)やBill of Exchange(荷為替手形もしくはDraft)といった書類を利用して銀行経由で、モノとカネの同時交換を実現する方法をお伝えします。

貨物を船積みすると、船会社からB/Lが輸出者に発行されます。B/Lは貨物を引き取る権利を示す有価証券で、これを手に入れた人がモノを得る権利を有します。輸出者はこのB/LをBill of Exchangeとともに輸出者側銀行経由で輸入者側銀行に送付します。Bill of Exchangeは荷為替手形と訳されていますが、日本の一般的な手形とは異なり、「支払う側」ではなく「請求する側」が支払いを指示するために発行します。このBill of Exchangeには支払金額や支払期日、たとえば60days after B/L date(船積み後60日払い)や At sight(一覧後払い、書類を見たらすぐに支払うという条件)等が記載されています。

輸出者側銀行は輸入者側銀行にこれらの書類を送付し、輸入者側の銀行は輸入者に対して、Bill of ExchangeやB/L(モノと同等の価値)を含む書類が到着した旨を連絡します。支払条件がAt sightの場合には支払い(カネ)と引き換えに書類(モノと同等の価値)を渡し、60days after B/L dateのような後払いの場合には、期日に必ず支払う旨の輸入者の署名を裏面にしたBill of Exchange(カネ)と引き換えに、B/L(モノと同等の価値)を含む書類を渡します。

このように双方の銀行の機能を使うことで、モノとカネを同時に交換することができるのです。

このようなBill of Exchangeを利用した書類による決済をD/P(Document Against Payment:支払渡、支払いに対して書類を引き渡す決済)やD/A(Document Against Acceptance:引受渡、支払いの確約に対して書類を引き渡す決済)といいます。この取引では輸入者の倒産等のリスクを回避できませんが、銀行の支払保証を付加したL/C(Letter of Credit:信用状)を利用するL/C付荷為替手形決済とすることで、輸入者の信用リスクをL/C発行銀行に転嫁することも可能です。

まとめ 貿易での支払い、決済条件のいろいろ

海外取引・貿易では日本の商習慣とは異なる点も多く見られます。

・日本では一般的な締め請求は海外ではあまり見ない

・日本の「支払者が振り出す」手形決済は海外ではほぼ使われない

・B/LとBill of Exchangeを利用した書類による取引でモノとカネの同時交換が実現できる

・このような取引にL/Cの機能を付加しリスクカバーすることもできる

後払いを要求された場合には、資金回収リスクが発生しますが、モノだけ取られカネが回収できないという事態を回避する方法はあります。海外の取引先から後払いを要求されましたら、ぜひ専門家にご相談いただければと思います。

中小機構では海外取引の専門家によるご相談を無料で受け付けています。お困りごとはいつでもお気軽にご相談ください。

筆者紹介

井村 正規 中小機構 中小企業アドバイザー(国際化・販路開拓)

商社の財務部門に35年勤務しました。貿易決済については若手担当者および管理職時代にのべ10年経験しています。
2022年から中小機構で海外展開のアドバイザーとして日々中小企業のお客様のご相談に対応しています。

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