「海外をちょっとのぞき見コラム」は海外現地の最新状況やホットなトピックスをお伝えするコラム記事です。第29回目は、シンガポールにお住まいの青木アドバイザーに現地事情をお聞きしました。

※なお、このレポートは2023年8月時点の情報であり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。

シンガポールでプラントベースミートとミルクの認知が進展

「プラントベース(植物由来)フード」は、ここ数年、日本でも認知されるようになってきましたが、 シンガポールではより存在感を増しているように感じます。 2019年にアメリカのプラントベースミートブランド「Impossible Meat」がシンガポール市場に参入。大々的なPR戦略を展開後、他新規ブランドの参入も牽引し、プラントベースミートのスーパーマーケットでの販売面積は増床されています。また飲食店でも、メニューの一部にプラントベースフードを取り入れる店舗が年々増えていると感じます。

さらに、プラントベースミルクも、スウェーデンのオーツミルクブランドOatlyがシンガポールの大手飲料メーカーYeo’sと2021年に共同でシンガポールに製造工場を建設、東南アジアへの販売に力を入れて行っていることから、牛乳の代替として広まりつつあります。
プラントベースミルクは飲食店でも浸透していて、多くのカフェでは牛乳の代替としてプラントベースミルクが選択できます。牛乳よりも割高ですが、豆乳・オーツ・アーモンドミルクのいずれかをそろえている店舗が多いようです。

グローバル展開をするOatlyのオーツミルク(MaddieRedPhotography - stock.adobe.com)

シンガポールのプラントベースフード需要の高まりは本物か

シンガポールでプラントベースフード・飲料が認知されやすかった背景としては、元々一定数のベジタリアンが存在するということもあります。 シンガポールではベジタリアン人口は7%ほどで、市場調査コミュニティ「YouGov」が2020年に発表したデータによるとフレキシタリアンは39%ほどとのアンケート結果を得ています。
2020年に発生したコロナの影響で、より環境や健康に対して深く考える機会があったことから、結果として食生活の一部に菜食を取り入れ食肉をへらそうとするフレキシタリアンが増えたとの見方もあります。

ただ、周りのシンガポール人の友人らの様子を見ていると、ベジタリアン、フレキシタリアンを表明する方は一定数存在するものの、あえてプラントベースミートを積極的に摂ることに傾倒している人は少なく、伝統的な菜食としての野菜や豆腐を中心としたお料理を食べている方が多いように感じます。
レストランのシェフからは、一定の層にはプラントベースミート料理の需要があるという声も聞いていますが、小売りのバイヤーからは注目商品や種類は増えているが、まだまだ大きな売り上げには至っていないとの意見が多く聞かれます。

シンガポールの若手シェフ達はプラントベースミート料理をよく研究している
(写真:Si Hanシェフ, Supply & Demand Esplanade)

プラントベースハブとしてのシンガポール

10年後にはプラントベースフードはより生活に溶け込んだものになっているかと思います。シンガポール政府は、他国に先駆け2020年に培養肉の生産を認め、海外からのプラントベースフード企業の誘致に力を入れ始めています。シンガポールがプラントベースフードのハブになるよう国をあげて取り組んでいるものです。

シンガポールで2022年9月に開催された食品展示会FHA(Food and Hotel Asia)でも、プラントベースフードブランド企業が並ぶコーナーが大々的に設けられ、訪問者で賑わっており、欧州、東南アジアのスタートアップブランドが積極的に出展している様子が印象的でした。フードテックの最前線企業は投資家から得た資金、最高峰のマーケティングを駆使して、東南アジアへの売り込みに力を入れています。

注目度の高かった英国のフードスタートアップMoving Mountainsのブース

ただ、プラントベースフードを試食する機会はこれまで数多くありましたが、個人的な本音としてはまだまだ「心からおいしい。」と思えるプラントベースミートが少ないなと感じています。
「おいしさ」という日本企業の得意分野は、プラントベースとしては出遅れた感もある日本企業が他国の競合に追いつき、追い越す重要なポイントになるのではないかと感じています。

筆者紹介

青木 康子 中小機構 中小企業アドバイザー(新市場開拓)

2014年、シンガポールで食のマーケティング会社を創業。
食イベントブランドを起ち上げ、1年半で約100のイベントを開催後、イベント、マーケティング、メディアPR、調査業務に従事。
2020年、コロナ禍での飲食店支援の為に、日本食・食品関係者のネットワークを立ち上げる。
シンガポールの食品販路開拓では、JETRO貿易コーディネーター(農水・食品分)含め300件以上の企業相談に対応。
シンガポールの食のインフルエンサーとしても活動。東京都女性ベンチャー成長促進事業「APT Women」6期生。

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