「戦略的知財活用海外展開補助金(正式名称:戦略的知財活用型中小企業海外展開支援事業費補助金)」は、高い技術力を保有し、知財を活用した海外展開に取り組む中小企業者に、出願費用を一部助成するとともに、海外ビジネスの専門家による海外展開サポートを行う事業です。
中小機構では、令和元年度に10 社を採択、以後3年間に渡って、支援を行ってきました。
この記事は事業最終年度である令和3年度に作成した事例集を再編集したものです。
事例集については中小機構ウエブサイトで公開しています。また、戦略的知財活用海外展開補助金は令和3年度で終了した事業ですが、中小機構では中小企業のみなさまの海外展開を支援しています。詳しくはお近くの中小機構地域本部までお問い合わせください。

当社は、1977年設立の産業用特殊電池部品の製造・販売業者である。創業当時は防衛装備の国産化が打ち出された時期で、海外製の電池を国産化する動きの中で、創業者である先代社長が電池用の特殊な材料を輸入して加工する事業を始めた。当初は主に防衛・研究機関の仕事を請け負っていたが、今では航空機・国際宇宙ステーション関連の特殊な受注も行うなど、電池業界における最先端の技術開発を支えている。製品製法の一部に国内特許を取得しており、これをベースに外国特許を申請し、航空・宇宙用途の電池に対するニーズが大きい米国での販路を開拓中である。

稼働中の人工衛星に採用実績あり

高価な金型を用いない特殊技術による製法に強み

当社の主力製品は溶接構造のバッテリーケースで、高価な金型による深絞り加工を行わず、高度な溶接技術と精密プレス技術を組み合わせて成型している。通常、航空・宇宙用途の電池に使われるケースは深絞り加工という絞り金型を用いた工法で作られるが、特殊用途向けのため、大量生産されるものではなく、金型を起こしてもそのコストを回収できない恐れがある。当社の溶接構造電池ケースは高価な金型を用いないためコストダウンが図れる他、短納期かつ多品種・少量受注にも対応できる。素材は主にアルミやステンレス鋼板を用い、0.1mm以下の板厚でも高い気密性を保持する技術力を誇っている。また、高い耐食性や比強度、生体親和性など優れた特性を持つチタンは、特に溶接の難易度が高いとされているが、当社はチタンで溶接ケースを作る特殊な溶接技術を有している。更に、航空宇宙・防衛産業に特化した品質マネジメントシステムに関する国際規格JIS Q 9100を取得しており、品質要求の厳しい航空宇宙用途の電池部品を製造できる品質保証体制を備えている。

製法特許を活かした海外販路開拓

品質検査

現在、電池に対するニーズは世界的に高まっており、電池の開発・製造業者が増えている。
これまで電池開発に携わることのなかった分野のメーカーも参入してきており、電池部品の需要は確実に増加していくと予想されている。この電池部品に対する需要の高まりの中で、当社は様々な展示会への出展やWEBサイトの活用等の営業活動を行ってきたが、その結果、当社の強みである高い技術力を評価してくれる企業が海外にも複数存在することが明らかになってきた。
一方、当社が強みとする高度な溶接技術を始めとする一部の特別な製法については国内で特許を取得しており、これを海外での販路開拓に活かせないかと考えた。そこで販売が見込めそうな複数の国を対象に国内特許をベースにした外国出願を行うこととした。

丁度そのような折に、それまで様々な形で支援を受けていた中小機構から紹介されたのが2019年度「戦略的知財活用海外展開補助金」だった。同事業では、3年間に亘り、特許の外国出願の支援を受けられるばかりではなく、知的財産を活用した戦略的な海外展開についてのビジネス面でのコンサルティングも受けることができる。これから海外戦略を推し進めるにあたり、海外企業との販売交渉・契約書作成実務等についての経験が乏しかったので、早速、同事業に応募したところ無事に採択されるに至った。

米国をターゲットとした顧客訪問戦略

採択後の最初の一歩は、「ターゲット市場の絞り込み」と「現地訪問先の選定」であった。
早速、中小機構本部の職員と知財/海外ビジネスそれぞれの専門家に島本工場に来訪頂き、様々な角度から情報・意見交換を行った結果、米国をターゲットとすることが決まった。それまでに米国企業との接触もあり、また、「米国は航空・宇宙産業が盛んで、これらの産業用電池に対するニーズが高く、電池部品の大きな需要の伸びが期待できる」との判断があった。
訪問先は中西部から西部にかけての産業用電池メーカー4社とJETROロサンゼルス事務所とし、当社からは大北専務が参加。また、中小機構の職員と米国駐在経験のある八重樫アドバイザーにこれに同行して頂くことになった。広い米国本土で5か所を5日間で廻る、しかも中西部からカリフォルニアへの移動を伴うハードなスケジュールだったが、早速客先とのアポイント取得に取りかかった。

米国企業の厳しい情報管理体制を知る

アポイントが確認されると、数社からNDA(秘密保持契約書)が送られてきて署名をして返送するように求められた。しかし、内容は慣れない法律用語満載の英文であり、そのまま署名をして良いものかどうか悩んでいたところ、本支援事業の枠組の中で、中小機構の登録アドバイザーで米国在住の大平米国弁護士に直接相談する機会が得られた。同弁護士に当社の状況に合わせた修正案を提案して頂き、客先に提示して双方合意の上でNDAを取り交わしたが、中小機構の機動力と人材のグローバルネットワーク層の厚さに改めて驚かされた。
こうして出張の準備は整い、予定通りに渡米して最初の寄航地シカゴに無事に降り立った。プレゼン用に英文資料と製品サンプルを多数持参したが、この製品サンプルが威力を発揮した。「百聞は一見に如かず」。行く先々で、サンプルが示す製品の精度と完成度が高く評価され、大北専務は、自社の強みである技術力に自信を深めると共に、米国での販路開拓にしっかりとした手応えを感じて帰国した。

溶接構造ステンレスケース

リチウムイオン二次電池試作

売買契約条件の交渉は粘り強く

帰国して間もなく、数社から試作品を含む新規発注の連絡があり、早速訪米の成果が現れた。発注書が届くと、契約履行の細目を規定する膨大な量の売買契約付帯条件が付随している。これを含めて受諾の署名をして返送するようにとのことだが、相手は訴訟社会の米国企業、嫌が上でも慎重にならざるを得ない。そこで、再び米国在住の大平弁護士との面談を設定して頂き、各条項の内容説明及び、当社の実情に合わせた修正案の提案を頂いた。この修正案を巡っては、相手企業の法務部を巻きこむ話になり、両社で最終合意に至るまでにはかなりの時間を要したが、それでも安易に妥協することなく、主張すべきことは主張して粘り強く交渉し、自社のリスクを軽減できたことは今後に活かせる貴重な経験となった。
事業2年目、米国で開催される展示会に出展して更なる顧客発掘を行う予定であったが、コロナ禍の影響で延期となってしまった。コロナ禍は最終年度の現在になっても収まらず、残念ながら新たな海外出張の目途も立たないが、幸いなことに既存顧客からの受注は継続しているので、既存顧客への確実な納品に注力している。

今後の取組

本事業への参画をきっかけに、製品輸出の道筋が少し見えてきたところだが、本格的な海外展開は未だ道半ばである。今後は製造・販売拠点を海外にも広げていくことで、より安定した成長を確保し、電池業界における最先端の技術開発を支え、その進歩、発展に貢献するとともに、高品質な部品を安定して供給するという企業ミッションを達成したい。

公開日:2022年 7月 27日

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