「戦略的知財活用海外展開補助金(正式名称:戦略的知財活用型中小企業海外展開支援事業費補助金)」は、高い技術力を保有し、知財を活用した海外展開に取り組む中小企業者に、出願費用を一部助成するとともに、海外ビジネスの専門家による海外展開サポートを行う事業です。
中小機構では、令和元年度に10 社を採択、以後3年間に渡って、支援を行ってきました。
この記事は事業最終年度である令和3年度に作成した事例集を再編集したものです。
また、戦略的知財活用海外展開補助金は令和3年度で終了した事業ですが、中小機構では中小企業のみなさまの海外展開を支援 しています。詳しくはお近くの中小機構地域本部 までお問い合わせください。

当社は、大手化学メーカーなどからプラントの一部設計・製作を請負い、得意とするモジュール工法で信頼と実績があるプラントエンジニアリング企業である。従来のモジュール工法を進歩させた新工法を発明したことから、「海外の中小規模プラント建設に貢献できるこの革新的な新工法を世界中に広く活用してもらいたい」と、海外各国での新工法の特許権取得を目指し、PCT出願を行うことを決意した。基礎出願である日本出願は権利化を達成し、海外9か国の審査が進行中である。

実績を重ねてきたプラント設備

革新的な新工法の発明

創業から36年。一貫してプラント建設業務に携わり、プラント用機械の設計・製作を行ってきた。特に、建設業務全般に関わる配管設計業務の経験が長く、プラント建設の数々の課題に挑戦してきた。中国の2万平米の敷地に4つの自社工場を持ち、各種の先進機械設備や化学プラントのモジュール等の製品を製造しており、日本国内、欧米、東南アジア、中国に納品してきた。
ユニットによるモジュール設計・製作をさらに発展させ発明した新工法は、工場で設計・製作したユニットを現地で据え付けるだけの工法で、溶接作業などの人手を用いた現場施工を削減できるため、大幅な工期短縮と、気候の影響を受けづらい計画的な建設工事を可能にした。日本市場は人口減少の影響で縮小傾向にあることから、化学メーカーなどの製造会社は海外に工場を建設するケースが増えている。そのため、投資額を抑え、なおかつ短納期で中小規模の工場を海外に建設するニーズは今後増加すると予測される。新工法を用いることで、ニーズの多様化や商品ライフサイクルの短期化に対応することができると見込んでいる。
新工法を用いたプラント建設は、現場の環境が多様な海外における建設で大きな効果が期待できるため、海外メーカーによる採用を目指したいと考えた。「新工法の権利を世界各国で取得する道のりをフォローしてほしい」「海外展開の構想についてもアドバイスがほしい」と考え、今回の特許補助金事業への応募を決めた。

海外メーカーとの直接取引を目指して

まずは、海外展開の構想として、化学メーカーなどの製造会社やプラント建設エンジニアリング会社にライセンス供与することで新工法を幅広く活用してもらうことを計画し、米国のライセンス管理会社へのライセンス供与を考えた。しかし、これまで日系化学メーカーの請負いとしての海外向プラント設備の製作経験はあったが、海外メーカーとの直接取引やライセンス供与の経験はなかった。そこで、ライセンスビジネスに詳しい米国在住の中小機構のアドバイザーと検討を行った。検討を進めるうちに、米国のライセンスビジネスは、周辺特許を多数権利化しないと競合に対して対抗できないなど、想定を超える厳しい業界であることが判明した。また、米国に限らず、海外メーカーによる採用を目指すには、新工法の特許を使用したビジネスの実績が重要であることも分かった。

新工法を活用した製品のモデル図

ライセンスビジネスは、さらに実績を積み重ねた後の段階のものと捉え、現段階では、これまでの採用実績を重視して日系化学メーカーやエンジニアリング会社に営業を行い、新工法の案件獲得を目指す方向に転換することにした。日系企業による採用実績を増やしていくことが、新工法の強みとなり、海外展開への足掛かりになっていくと考えている。

国内特許の権利化を達成

PCT出願は当社にとって初めての試みであったため、世界各国での特許取得までのフォローを中小機構に期待した。基礎出願に対する日本特許庁からの拒絶理由通知書への対応をする際には、顧問弁理士事務所から提案のあった権利範囲の補正について、中小機構の知財専門家のセカンドオピニオンも得てから対応方針を決定。2020年12月には、国内特許の権利化を達成した。
2021年1月の特許公開に伴い、得意先に対して積極的に新工法を紹介できる環境が整った。新工法の特許取得と海外展開を担当する山口氏は、「今回の特許出願は、弊社がモジュール製作に携わって以来長年にわたり課題となっていた事案であり、モジュールサプライヤーとして大きな武器を手に入れ、新たな一歩を踏み出す術となり得るものです。」と、その成果を感じている。
既に国内移行手続きを済ませていたアジア2か国に続き、事業最終年度には、欧米や東南アジア等7か国への国内移行手続きを行った。外国特許庁からの拒絶理由通知書等への対応についても、基礎出願に対する拒絶理由との相違点、ビジネスとして保護すべき権利範囲の検討等について、中小機構の知財専門家のセカンドオピニオンを得てから、手続を行うようにした。

緊急事態宣言が明け、事業最終年度では初となる対面での面談

コロナ禍でも着実に海外展開の準備を進めた

コロナ禍で、国内の得意先の活動も停滞する状況となったが、国内特許の公開を好機と捉え、従来工法の営業活動と並行して新工法の営業努力を継続している。計画していた海外渡航は残念ながら見送ったが、2022年中には、インド等への海外展開の準備を進める予定である。
また、新工法の試作として、中国グループ会社に食堂の建設を計画。建設準備を進めるなかで実地測定・検査・指導が困難な状況に直面しても、計画の見直しを行い、1級建築士によるシミュレーションを優先させるなど臨機応変に対応している。この食堂建設を行うことで、新工法の強みがより明確になり、建設時のノウハウも蓄積できる。また、この食堂建設の過程を動画におさめ、新工法の営業資料として活用したいと考えている。

新工法の海外展開へのスタートラインに立つことができた

コロナ禍や当初の事業計画の変更を余儀なくされたことで様々な困難に直面したが、国内特許権利化の達成により、新工法の営業活動に説得力をもたせることができた。既に取引の実績がある日系企業を中心に、新工法のPRに注力していく予定である。
また、当社は「ものづくり」の事業とは別に、ネパールの優秀な人材に日本語やビジネスマナー等を教え、日本企業に紹介する新しいビジネスを始めており、百数十人いる社員の8割以上が外国人という国際色豊かな特色を持つ。この当社に備わっている国際感覚と経営者の強い意志、30年以上かけて培ってきた設計・製作技術を糧に、新工法の海外展開の実現に向けて歩んでいく。