輸出ビジネスは、海外の顧客と堅実に継続して行くことが大切なポイントです。輸出に限らず国内でもビジネスの過程で「クレーム」(問題)は不可避な出来事で、その対応によって顧客との信頼・信用を作り上げるか、或いは、失ってしまうかの重要な岐路となります。典型的な「クレーム」といえば「品質問題」と「納期遅れ」の2つがあります。今回は「納期遅れ」での顧客対応について述べてみたいと思います。

初級編

「言い訳」と「理由」は大違い

海外から日本人は、真面目で品質も納期も遵守できると思われていますが、それでも様々な事情や問題で納期遅れは避けられないのが現実です。

⇒納期遅れが起きました。さあ、どう対応しますか?

顧客にどのように説明し納期遅れの「クレーム=金銭保証」をゼロ、或いはその金銭負担を最小限にすることが企業としての大切な課題です。

納期遅れの説明が、「言い訳」或いは「理由」と顧客に理解されるかで、結果は大きく違ってきます。

「言い訳」 言葉を饒舌に並べ事情説明しながら自己正当化してトラブルの責任の所在を曖昧にして、責任が降りかからないように逃げまくるという姿勢・意識が透けて見える。ベストを尽くしたことを強調し、納期遅れの過程を主観的説明に終始する。

「理由」  「納期遅れ」が起きた根拠を客観的に正しい順序で説明する。自己正当化せずに謙虚に理由、判断ミス等を認めた上で素直に謝り事実を淡々と述べる。

どちらが、正しい対応と思いますか。そう、「理由」的対応です。

顧客が「理由」説明と判断すれば、冷静に誠意をもって対応してもらえます。

しかし、もし「言い訳」と判断されたら、顧客は感情的になり解決は簡単ではなくなります。

最悪、訴訟にまで発展する可能性もあります。

日本人特有の「甘えの構造」と言われる社会構造の中で、私たちは言い訳をしがちな感情(分かってもらえる)を根底に持っていますが、海外ビジネスにおいて、顧客に言い訳は通じないと思って下さい。

もう一度言います。海外顧客には「言い訳」は通じない!!

「納期遅れ」の顧客説明には下記順序、現実→対応→理由→未来で説明すべきと思います:

まず、納期遅れが発生したことの報告。(遅滞なく迅速に報告が重要)⇒現実
いつ船積みできるか具体的な日程の報告。⇒対応
遅れが発生した理由の説明。(どこにミスがあったかがポイント)⇒理由
納期遅れの原因を踏まえて今後納期遅れを起こさない具体的な対応策の提示。⇒未来

再発しないように客観的に具体的対応する姿勢を真摯に見せることが大切です。

これが大切ですが、抜けてしまうことが良くあります。

要するに真摯で冷静な説明と対応が顧客信頼創造に繋がります。

「言い訳」は信頼喪失に繋がり、継続的なビジネスは望めなくなります。

問題が起こったときこそ、顧客信頼を獲得する好機と捉える意識と対応が継続ビジネスの「肝」と言えます。

顧客との様々な実務対応の中で真摯に「言い訳」せずに対応することが、信頼・信用の基盤となり結果的に継続ビジネスに繋がって行くと信じます。

中級編

初級編で輸出ビジネスでの「納期遅れ」対応策を述べました。

現在は、顧客にEメールでの連絡が多いと思いますが、以下順序での説明内容の再確認をお願いします:

納期遅れとなった事実
納期遅れとなった理由(原因)
顧客に対する謝罪
納期遅れ再発防止策(今後対応)←忘れないこと‼

上記内容を簡潔に事実(現実)のみを明記する。(冗長な説明は不要)

納期管理

顧客と取引関係の維持を図るには、4.の再発防止を努めることが一番大切と思います。

生産進捗管理手法は現場によって様々な実践的な手法が既に講じられていると思いますので、納期設定で注視するポイントだけ説明致します。

1.生産に必要な期間(リードタイム)の精査。(重要)

納期遅れを避けるために余裕日(バッファ)を考慮すべきですが、余裕の見過ぎで顧客希望納期と大きな乖離は避けるべきです。(取引成約とならない可能性が高い)

2.ボトルネックを見極める

 生産工程の中で一番生産能力の低い箇所、ボトルネックを見極める。ボトルネック箇所の生産日数を精査して、その日数にバッファを見込んでおく。(目安は10%程度)

 ボトルネックがどこにあるか把握できれば、納期管理の「ツボ」を掴めたことになります。

上記1.2に基づき納期設定をします。納期設定後は、日々の生産進捗管理を疎かにせず、特にボトルネック前後の推移に注視しながら進捗状況を把握することが大切です。

身を守る武器「契約書」

現実的には、いくら十分に注意を払い生産進捗管理していても、納期遅れが発生することは避けられません。

顧客によっては「納期遅れ=契約不履行」として、法外な損害賠償請求をする可能性があります。

繊維製品輸出担当時代に法外な要求をされた経験があります。納期遅れで船積みが一週間遅れることを伝え、承諾して欲しい旨の連絡を顧客に入れました。顧客回答は、納期遅れは一切認めず、売手負担で全てAir(航空便)せよというものでした。契約書(型通り)を仕事の流れとして送っていました。顧客サインをした当該契約書の返却はなくても気にせず取引を進めていました。長年の取引の中で契約書に対する意識は全くなく取引を続けていたのが実態でした。(惰性という安心に浸っていました)

一週間遅れの船積みを何度もお願いしましたが、結局、顧客の要求通り自社負担でAir(航空便)にて荷物を送りました。

以後、納期遅れが発生した場合の対応、船積み遅れの許容範囲(日数)等々の条件を詰めました。補足条項として合意することで船積み遅れが発生した際にもある意味機械的な対応することができ、取引がスムーズに継続した経験があります。

法外な損害賠償請求から自社を守ってくれるのが、「契約書」(通常英文)になります。

英文での契約書は通常「英米法」(コモン・ロー)に基づき、納期を当事者同士が合意で定めた場合、納期遅れが発生しても即座に売主(輸出者)に損害賠償の責任を負わせることはないという考え方が根底にあります。

納品日(納期)は契約としては重要ではない」という考え方です。

(英語では、Time is not of the essence )

海外の取引において、輸出者(売主)は、納期の遵守保証はしないという立場が多いようですが、顧客(買主)からすれば買付商品の販売時期等で納期保証しないような輸出者(売先)とは取引したくないと考えることは当然のことです。(特にシーズン性の高い季節商品なら)

従い、輸出者(売方)としては、精査したリードタイムを基に「納期遅れ」が発生しないように発注時期や納期を顧客と確認して契約に記載することで対処するしかありません。

但し、自然災害等の不可抗力(Force Majeure)による納期遅れに対して輸出者(売主)は責任を負わないという免責条項は一般条項として通常記載されますが、確認しておく必要があります。

納期遅れで法外な賠償請求されるリスクが懸念されると判断する場合には、不当な賠償責任や訴訟等を回避する責任条項Limitation of Liability)を入れることで法外な責任要求から回避することができます。

契約書の作成、リーガルチェック等は事前に弁護士に相談することを勧めます。

輸出者(売主)としては、精査したリードタイムと納期遅れが発生した場合の責任(損害補償等)を考慮した上で取引の成否を決めることが重要だと思います。

契約書は「身を守る武器」ですので、必ず作成して下さい。

独立行政法人 中小企業基盤整備機構
近畿本部中小企業アドバイザー(国際化・販路開拓) 早川 義昭

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