大手電機メーカーで30年以上、海外マーケティング業務に携わっていた深田 進さん。多くの中小企業をサポートしたご経験から、産業用機械・部品分野において、展示会効果の最大化をねらうためのポイントをお話しいただきました。

機械の場合、展示会では、ただ部品や製品を展示するのではなく、これを導入したらどうなるかというソリューションをしっかりアピールすることが大事です。
海外の展示会というのは、日本以上に人が多いんですよ。とにかく自分たちのブースの前を人がどんどん歩いていく。その中で、いかにして自分たちがつかむべき顧客に足を止めてもらうか。私は、「見込客獲得30秒作戦」といって、30秒で顧客に興味を持ってもらえる準備をしてくださいとアドバイスしています。
まず考えねばならないのは、歩いている人を立ち止まらせるアイキャッチです。展示会に来ているということは、製造工程や検査工程に悩みを抱えている可能性があるわけです。ですから、デモ機やバナーは、ユーザーが困っていることをこの商品なら解決できるということが一目でわかるようにする。「もっと簡単にできる方法はないかな」「コストダウンできないかな」といった課題を持っている人が、「お、これは!」と立ち止まれば、成約率の高い見込み客になり得ます。
ある企業は、振動を利用して自動的に極小スプリングコイルを整列させて機械に組み込むスプリングフィーダーの技術をデモ機で実演し、多くのお客さんをつかまえました。コイルは絡みやすく、手作業で絡みをとらざるを得ないのが業界の常識だったため、「スプリングコイルでお困りの方、当社が解決します」とバナーをつけたことで人が集まったのです。さらにブースの中に貼ってある納入実績を見て「こんなことに困ってるんですけど、できますか?」と話が進みます。

その場で業界と職種を把握し名刺交換管理シートで管理する

展示会ではたくさんの名刺を受け取りますが、名刺には部署や担当名が簡単にしか書かれていないので、名刺交換管理シートを準備し、職種と業界までしっかり聞き出してメモしてください。
とくに機械の場合、相手が営業の人なのか、生産技術の人なのか、品質管理の人なのかということが重要なのです。たとえば、検査工程に役立つ機械なら、品質管理部の人が一番のターゲット。それなのに営業の人にいくら話をしても、検討に時間がかかるだけです。
業界がわかれば、お客さんに応じてカスタマイズして提案するときのヒントになります。主な納入先は自動車部品業界なのか、電気電子部品業界なのか、成長が見込める医療機器業界なのかで、今後の関わり方や力の入れ方が違ってきます。
そして意外かもしれませんが、当日、この情報を書き込むのは「通訳」です。

ミッションをはっきりさせて通訳を最大のサポーターに

現地の「通訳」は最大のサポーターです。通訳をいかに活用するかで成果は決まります。
そのためには、通訳にお願いするミッションをはっきりさせること。よく、「通訳が働いてくれない」と愚痴をこぼす企業がありますが、ミッションを的確に伝えないから、彼らは動けないのです。翻訳するだけが通訳の仕事ではありません。「名刺交換管理シートの記入と商品の強みのストーリーを話すことをあなたのミッションとしてお願いしたい」とはっきり伝え、商品の強み、出展している目的、ターゲットなどのストーリーをレクチャーしてください。そして展示会が始まったら、最初の2時間くらいは、自社のマーケティングという意識で出展品を理解し、名刺交換管理シートが使えるように、使い方のマスターに専念してもらう。
私の経験では、通訳さんたちはモチベーションが高いので、頼られるとだんだんとその会社が好きになり、すこしでも役に立とうと熱心に取り組んでくれます。一緒に食事をするなどのコミュニケーションも大切にしてください。

部品のスペアをつけることでメンテナンスの問題を解決する

機械の場合、必ずメンテナンスの問題が絡んできます。「機械にトラブルがあったとき、現地にメンテナンスできる人はいますか?」と聞かれるのが、中小企業が一番苦悩するところですね。自社で海外にメンテナンス部門をもつほどの体力はないけれど、メンテナンスフリーというわけにはいかず悩まれるのです。
その対策のひとつは、メンテナンスまで対応してくれるディストリビューターを探すこと。もうひとつは、「メンテナンスの拠点はまだ持てないけれど、ファーストムービング・スペアパーツをつけておきます」といった提案で乗り切ることです。機械には消耗する部品がありますから、そのリストを出してスペアをつけますというのは、安心できる対応です。

“間借り出展”でコストを削減する

コスト削減のアイデアとしてお伝えしたいのは、展示会の“間借り出展”。機械の海外展示会に出展する現地企業に、ちょっくらあいのりをさせてもらうのです。
まだおつきあいのない企業であっても、商談のときに先方から「今度、タイのメタレックス(METALEX)に出展する」という話を聞いたら、「ブースの片隅のテーブルを貸してもらえないか?」とお願いしてみると、案外OKしてくれることがありますよ。
「展示会で反応がよければ、優先的に御社にディストリビューターをお願いしたい。商品の説明は日本から派遣する技術者が担当するから」と交渉すれば、彼らの負担も少なくてすむので、Win-Winの関係になれます。そんな形での展示会の利用もあると覚えておいてください。

機械の価格建てはEX Worksで現地出張指導のコストも忘れずに

機械の価格建ては、EXW(EX Works:工場渡し条件)が基本です。機械は大型のものも多く、輸送費がすぐに算出できないことがありますから。
私は「わからなかったら国内のユーザー向け価格をアイデアとして言えばいい」とアドバイスしています。「国内では500万円で納めています」と言えば、向こうは自国までの輸送費がこのくらいかかるから輸出価格はこのくらいになるだろうなと予測して検討します。実際に輸送する際には通関、船積み手配まで対応してくれるフォワーダーに依頼します。地方からでも、国内の輸送業者を介してフォワーダーの倉庫に入れればOKです。
それよりも、大きい機械の場合、業界の常識として動作確認を行う必要があります。検収してからでないと、最後の支払いがされないのは海外でも同じです。
少額で簡単な機械であれば、現地企業が確認して済むことも多いのですが、高額で複雑な機械の場合は、こちらが人を海外に派遣して試運転を確認しなければならない。その費用は売主持ちですから、価格にある程度含ませておいてください。
契約のときに、先方から「スタッフの教育も兼ねて、スーパーバイザーを1週間ほど派遣してほしい」と要望があることもあります。こうしたこともつねに意識しておく必要があります。
最後に、私が展示会アテンドの心得として、いつも強調していることをお伝えします。商談ではフォロー事項を明確にしておくこと、手堅い反応のあった企業には現地滞在中に相手企業を訪問できる日程を組んでおくこと。そしてなによりも、アテンド中は笑顔を忘れずに。